山田工業所の打ち出し中華鍋とフライパン。

山田工業所打ち出し中華鍋と釜浅商店鉄フライパン

これは、いいものは値段では無いと痛感した話しです。

僕が山田工業所の打ち出し中華鍋と出会ったのは、12年程前のこと。当時新しいアパートに引っ越し、初めてきちんとしたガスコンロが入った頃。何となく中華鍋なんかあったら嬉しいなぁと思い、ひとりでぷらっと中華街へ出かけました。

さすがは中華街のこと。ホームセンターでは見たことのないくらい色々なサイズや重さ、そして値段の中華鍋が様々なお店で売られていました。が、いざ買おうと思うと、安いものはめちゃくちゃ重たいし、軽いものはチタン製で高かったりと、もういいやと諦めムードに。

中華鍋は諦め、引っ越したての部屋で使える雑貨や調味料でも探そうと、裏通りの方まで足を延ばした時に見つけた、一軒の道具屋さん。店頭には中華鍋をはじめとする調理道具がぎっしりと並び、値段もやっぱりピンキリ。

そんな中でたまたま目に留まった、薄っぺらい感じの中華鍋。持ってみるとビックリするくらい軽く、そして値段がとっても安い!失礼ですが、そのお店の構えも相まって、きちんとしたものには見えませんでした。

それでも、安いし、軽いし、そもそも中華鍋自体維持できるか分からないからなぁ、と悩んでいると、お店の方が出てきて、「その中華鍋はすごいんだよ。」と説明を始めてくれました。

普通の中華鍋はプレスして作るから、強度を出すためには重くなるとのこと。逆に、軽いものは薄く耐久性も無い。その点、この鍋はハンマーで何度も何度も打ち出してこの形を作るから、鉄が鍛えられて薄くて軽くても頑丈なんだそう。

当時まだ料理を初めてそれほど経ってなく、説明を聞いてもそうなんだと感心する程度。でも、プレスという、大量生産の工業製品的なイメージの一般品の中で、この鍋はハンマーで手作業で形作られている。そんな人が作るアナログな印象がすっかり気に入り、購入に至りました。2000円を切るという安さも、大きな理由のひとつでした。

それが、僕と中華鍋との出会い。空焚きして、野菜くずで油馴らししからて使い始めました。最初は多少焦げ付くことはあったものの、すぐにそれも解消。手入れも使用後ささらで水洗いして空焚きするだけ。

本当なら油を塗って保管となるところでしょうが、そうすると上に物を重ねられないし、ベタつくのが嫌だったので、水分を飛ばしてそのまま置いていました。

そんなズボラな手入れをしながら、12年。使用頻度も月一で使うかどうか、その程度。それでも、この中華鍋は錆びずに、焦げずに、使うたびに状態が良くなってゆくのを感じるほどに、けなげに働いてくれています。

今では手放せない存在。炒め物は、フライパンではできません。安いのに良い鍋買ったんだなぁ、なんてちょっとした幸せを感じています。

全く手の掛からない中華鍋のため、自分が鉄鍋を持っていること自体意識せずに使い続けてきた、そんな時。もう何年もお世話になっている、うちの取っ手のとれるティファール君が歪んだり、ひっつくように。

そもそも、せっかちな僕の性格には、フッ素コートのフライパンの「強火禁止」や「熱いまま水に漬けない」なんて絶~対に守れっこない話し。それでも、やっぱり高いものだけあって丈夫で、乱暴な使い方にも今まで耐えてきてくれました。

くっつくのは油をひけば解決できますが、なべ底の歪みはどうにもならず、次は厚みがあって耐久性のありそうなフライパンが欲しいな、とずっと思っていました。

そんなある日、鉄のフライパンでナポリタンを作る番組を目にしました。ジュウジュウ言いながら炒める姿は、すっごく食欲をそそります。いいなぁ、鉄のフライパン。でもテレビで磨く姿を見ていても大変そうだし、そもそもこりゃプロ用の道具だよ、なんて思いながら見ていました。

酔っぱらいながら見ていたその番組の途中、あれ?でも僕って中華鍋使ってるよね?とふと頭をよぎりました。これは酔っていないと絶対に出なかった発想。僕の中でフライパンは、家庭用=フッ素加工、プロ用=金属、と無意識のうちに決めつけていたのです。

自分が長い間中華鍋を使いこなせている。それも、面倒な手入れやリセットなんてしたこともない。それに気づいてしまうと、鉄のフライパンが欲しくなって居てもたってもいられません。

鉄ならコーティングが剥がれることもないし、焦げ付いてもガシガシできるし。何よりプロの火力、頻度で使っても壊れない頑丈さ。これが今一番欲しいフライパンの形でした。

早速鉄のフライパンについての情報収集開始。まずはお手入れから。やっぱり焦げ付く、錆びる、という感想が目に付きます。使用後も油を塗って保管・・・。あぁ、難しそう。でも、中華鍋だってそう書いてあるのに、うちのは全然平気。不安と楽観と交互にやってきます。

買う方に気持ちがやや傾いたので、もう少し詳しく検索。(僕は調べ始めたら絶対に買ってしまうたちなので・・・。)鉄のフライパン自体、近所ではほとんど目にしなくなったため、どこで買うかをまず考えました。

ホームセンターも近くに無いし、どうせ電車に乗って行くなら、いっそのこと合羽橋まで行ってしまえ!と思い、「合羽橋 鉄 フライパン」で検索。

一番最初は通販サイト。いやいや、鍋は手に取って現物を確かめないと買えない。次に出てきたのは、山田工業所というところが作る、打ち出しのフライパン。

あぁ、打ち出しねぇ。うちの中華鍋もそうだから、きっといいのかも。そう思い読み進めていると、なんと打ち出しで鍋を作れるのはここが日本で唯一とのこと。

ってことは、うちの中華鍋もそうなのか?打ち出しの鍋って、そんな特別なものなの?メーカー名も知らなかったし、最初は維持できなくても諦めが付く値段だからと購入に踏み切ったあの中華鍋。

なんだかすごいものなのかもしれないぞ。そう思いつつ更に山田工業所のフライパンを調べてみると、見覚えのある渋い刻印を発見。うちの中華鍋の柄に付いているやつだ!

山田工業所の打ち出し鍋は中華街では8割ものシェアを誇っているそう。フライパンも人気が高く、プロから一般人まで、いろんな人に使われているとのこと。

最近はテレビやネットでも取り上げられているようですが、そもそも鉄フライパンを買おうとすら思っていない僕にとってはそんなことつゆ知らず。今手元にある中華鍋がそんな立派なものだったなんて、驚きのひと言。

このことを知り、鉄フライパンの購入を即決。思い込みが強くへそ曲がりの僕にとっては、人気があるなど全く関係の無い言葉。

そんなことより、他には作れない技術で、手間を惜しまず作った製品。そんな日本で唯一の製品を、あんなに安価で提供してくれる。その姿勢に感動してしまいました。ものが良いのは、これまで使ってきた中華鍋で確認済み。

山田工業所打ち出し鉄フライパンで焼くハンバーグ

山田工業所を知った数日後には、僕は合羽橋で念願の鉄のフライパンを手に入れてしまいました。そして、早速ハンバーグを焼いてみました。

おろしたてでひき肉料理は危ないかなぁ、なんて心配しつつ恐る恐る種を入れると、滑り過ぎて油がコンロ上へOBするほどのつるつる感。最後まで無事に焦げ付かずに焼けました。

焼いている最中の心地よい音、香ばしい香り。焼き上がりは自分で焼いたものとは思えないこんがり感。焦げていないのに、焼き目がこんがり。肉を焼いたあの魅力が家庭で再現できるなんて。

まだ使い始めたばかりですが、鉄のフライパンの愛用者が多いのも分かる気がします。きっと僕も、その一人になるはずです。

実家で食べたハンバーグは、テフロン加工のフライパンでも香ばしかった。きちんと焼いた風味がしていた。作り方も火加減も同じと思って作っているのに、こんなに違うなんて。

多分、今のフッ素加工は格段に焦げ付きにくさが増し、より「焼く」という調理から遠ざかってしまっているのでないかと初めて感じました。ハンバーグひとつをとっても、これまで僕が作ってきたのは「焼き煮え」になったハンバーグ。焼いたものとは風味が違っていました。

それを気付かせてくれたのが、鉄のフライパン。これを使わなければ、多分一生この違いは知らなかったはず。お店のハンバーグが香ばしいのは、腕と、材料の違いだと決めつけていたことでしょう。

これまで使い続けて来たフッ素加工のフライパンにはもちろん感謝しています。調理は簡単だし、焦げ付きにくいし。油をひかない調理などは、フッ素加工ならではですし。これからもティファール君にもいてもらうつもりです。

でもやっぱり、本当に焼くという調理を体感させてくれた鉄のフライパンには脱帽。便利なコーティングのフライパンがどんどん進化する中で、古くからのものが使い続けられるには理由がある。当たり前のことですが、すっかり忘れ去っていたそのことを思い知らされ、目が覚めるような思いでした。

あ~あ、随分と長く書いちゃった。それぐらい嬉しかったんだから、仕方が無い。だって、何も知らずに買って愛用してきた中華鍋と、欲しいと目を付けたフライパンが同じメーカーだったなんて。何だか、運命みたいなものを感じちゃうじゃん。

初めて使うのに、違和感が無い。きっとそれは、12年前と変わらない、一貫した職人さんのものづくりへの思いが詰まっているから。

僕がモノにこんなに愛着を持つなんて本当に珍しいこと。中華鍋も、フライパンも、これからもずっと大事に使い続けます。いいものって、値段では無いんだなぁ、そんなことをつくづく思った一日でした。