心ゆくまで、岩手。~秋の陸中逗留記 7日目~

大沢温泉で迎える朝抜けるような秋晴れの青空

今日は、これまでで一番鮮やかな晴れ空のもと迎えた目覚め。大沢温泉に滞在できるのも今日が最後。あれだけ長いと思っていた6泊の湯治も、蓋を開けてみればあと一夜を残すのみ。なんともあっけないものです。

大沢温泉湯治屋自炊部食堂やはぎ味噌ラーメン

それほど、この湯治が濃厚で充実しているという証。飲んで、食べて、浸かって、読んで、寝て。その繰り返しが堪らなく怠惰で楽しいのです。

そして今日もお昼ご飯の時間。やはぎのメニューとにらめっこし、今回は味噌ラーメンを注文。やはぎでの最後の昼食となるので、かなり悩んで決めました。

運ばれてきたラーメンは、シンプルそのもの。スープはあっさりめながら、味噌とほのかなにんにくの風味が食欲をそそる、ほっとする美味しさ。シャキシャキの野菜と豚バラ肉が、その素朴なスープにまたぴったり。

最近は世の中なんでも濃厚を求めがちですが、濃く無くてもしっかり美味しいものもあるんだ、という当たり前のことを思い出させてくれるような、懐かしい味噌ラーメン。熱々のラーメンを啜りながら、これが最後のお昼なんだと、ふと寂しさを覚えます。

大沢温泉の象徴大沢の湯湯面に映る紅葉の山

ここでこうして穏やかな午後を過ごすのも、今日で最後。大沢温泉は、長くいればいる程愛着が湧く、そんな力を持っています。

滞在中、何度浸かったか分からない程の大沢の湯との逢瀬も、残すところあと僅か。そう思えば思う程切なくなってしまうので、この湯面のように己の心を落ち着けます。

大沢温泉菊水館茅葺屋根を彩る色付く山

もう明日は、ここでこうして秋の夕暮れを味わうことができない。このお宿は、どこで何をしていても、絵になり過ぎる、味わい深過ぎる。この感傷は、秋の持つ儚さによるものなのか、それとも、ここを離れたくないという寂しさからなのか。

早くも暮れ始めた大沢温泉湯治屋自炊部

渓谷に沈むように佇む宿の日暮れは早い。空はまだこんなに明るいのに、宿は忍び寄る夕暮れに包まれ始めています。

大沢温泉湯治屋自炊部の渋い建物窓に映る紅葉

この日最後の紅葉の輝きを映す、木造の宿。やっぱり僕は大沢温泉が大好きだ。1度目も、2度目も、そして3度目も。帰る前からまた来たくなる。この一軒宿には、人を捉えて離さない、強い世界感に満ち溢れているのです。

大沢温泉自炊湯治献立わかめ豆腐菊の司秋季限定茜

そして迎えた、最後の晩餐。もう明日に食材を持ち越せないので、今夜は冷蔵庫整理。といっても美味しいお漬物があるので寂しくありません。

わかめ入り湯豆腐や残り物で締めくくる最後の夜に選んだのは、盛岡の菊の司酒造、秋季限定純米酒茜。純米原酒のひやおろしであるこのお酒は、原酒の力強さはありつつ角が取れ、どっしりとしていながらしつこさの無い辛口のお酒。

夜に輝きを増す大沢温泉湯治屋自炊部

初の6泊湯治。最後の夕餉を穏やかに締めくくり、後片付けをして部屋へと戻ります。後はもう、読んで、飲んで、浸かって、寝るだけ。明日ここを発つというほのかな寂しさはありますが、滞在中存分に味わった、これらの幸せ。最後の夜だからもったいないなんて気持ちは、不思議なほど湧いてきませんでした。

大沢温泉自炊湯治滞在中何度も見上げた飴色の天井

滞在中、昼夜を問わず何度もこうして見上げた天井。畳の部屋の無い自分の家では、こんなことすらままならない。和室が好きな僕にとっては、このことだけでも十分な贅沢。それが年月を経てこれほど美しい飴色になった木の天井とくれば、言うことありません。

去りたくない、離れたくない、もっと居たい。その気持ちはもちろん変わりません。が、前回、前々回には無いほど穏やかな気持ちで、最後の夜を粛々と過ごす自分に思わず驚き。

これだけ長くいたのだから、今更何をやり残したことがあるのか。そう言われれば返す言葉もありません。それでも、流れてしまう時に抗うように、ああしたいこうしたいと、もがいてしまうのが僕の性。

でも今夜は違う。とても満たされている。それは決して、飽きや満足という感覚ではなく、満たされているという感覚そのもの。それだけ、この滞在で心身の芯から、大沢温泉を吸収したという証。そして、3度目の湯治に来られたという気持ちの余裕も手伝い、いつかまた帰ってくる予感、いや、確信が根底にあるからなのでしょう。

満たされた気持ちで見上げる、飴色の天井。この穏やかな幸せが気まぐれを起こす前に、温かい布団で夢の世界に堕ちることにします。

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心ゆくまで、岩手。~秋の陸中逗留記~

秋の大沢温泉山水閣豊沢の湯色とりどりの紅葉一幅の絵のような眺め
2015.10 岩手

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