吾妻山麓、無垢の富湯。~3日目 ②~

積雪の米沢駅

福島駅から山深い鉄路を進むこと30分ちょっと、山形県は米沢駅に到着。これまで最上地方を訪れることが多かったため、県南部の置賜地方へと来るのは初めて。

山形県自体、こうしてひとり旅で訪れるようになったのはここ数年のこと。初めての土地のまだ見ぬ魅力に期待を膨らませる僕を、瀟洒な駅舎が出迎えてくれます。

積雪の米沢の街
街へと歩き始めると、やはり驚くのがその積雪の量。これだけの市街地でありながら雪はたっぷりと積もり、屋根では雪下ろしに励む方を多く見かけます。

この日は晴天。冬といえども陽ざしは温かく、2年振りの雪道の歩きにくさも手伝って数分で汗だくに。いやぁ雪道ってこんなに歩きにくかったっけ。感覚を取りもどすまではひと苦労ですが、次第に勘が戻るにつれ、雪を踏みしめて歩く楽しさを思い出します。

米沢鯉料理六十里
久々に味わう雪国の感触に喜びを噛みしめながら駅から歩くこと約15分、米沢で一番楽しみにしていたといっても過言ではない『鯉の六十里』に到着。米沢名物の鯉料理を食べさせてくれるお店です。

米沢鯉料理六十里重厚な室内と輝く建具
店構えからしてとても立派ですが、店内へと入るとその重厚さは一層強いものに。二百年以上も前に建てられた商人宿を移築したというこの建物。

柱や梁は一朝一夕には出せない渋い色に染められ、建具は鮮やかな木目が輝くとても美しいもの。年輪を感じさせるこの空間が、名物の鯉料理をより一層味わい深いものにしてくれます。

米沢鯉料理六十里前菜と小鉢、うろこせんべい
こちらは鯉のコースが主体ですが、お昼は限定の定食も用意され、今回は鯉丼定食を注文。定食でも量が多いという場合には単品もあるそう。

まず運ばれてきたのは前菜と小鉢。小鉢は雪菜の冷汁。雪菜とは米沢でしか栽培されていない伝統野菜だそうで、初めて食べる食材。

一口噛んでみると、まず驚くのは独特の辛味。見た目は白い普通の菜っ葉なのですが、何とも言えぬ辛味があるのです。それは決して嫌なものではなく、次から次へと箸がすすむようなあとひく辛さ。

後で伺ってみるとこの辛味を出すのが大変なようで、普通に茹でただけでは辛味はでないそう。何度も湯がいて、そして寝かして。時間と手間をかけて初めてこの味になるそうです。強い食感と共に、記憶に残る美味しい野菜。

前菜は鯉の三種盛り。左は鯉せんべい。薄く切った鯉に衣をつけてカリッと揚げ、甘いたれを絡めたもの。このたれがとても美味しく、ガリサクッというほどの歯ごたえのある食感と相まって地酒にもってこい。

中央はつぶつぶとした食感が楽しい鯉の卵の寒天。右は鯉の燻製で、中骨周辺を加工して骨ごと食べられるようにしたもの。この鯉の燻製がまた印象的な美味しさ。

どのように加工をしたのかはわかりませんが、ちょっとした燻製の風味とほぐれるような独特の骨の食感がたまらず、お酒のアテにこればかり何切れも食べたいと思うほど。

そして日本酒のお通しとして出してくれたのは、うろこせんべい。鯉のうろこを皮ごとせんべいにしたもので、驚愕の香ばしさ。

僕、ブログで驚愕なんてこれまで使ったことがないかもしれない。いや、敢えて使わないようにしているのです。それでも、そんな単語を解禁せざるを得ない呑兵衛殺しの逸品。

池の鯉は苦手でも食べるのは好きな僕。それでもうろこはあの見た目を想像させ、どうかなぁと思いつつひと口。なんであんなに大きいうろこがこんなに軽やかで口どけの良いせんべいになるのだろうか。燻製とうろこせんべいだけで日本酒一升はいける、衝撃の旨さ。

米沢鯉料理六十里鯉丼と鯉のあらい
これまで食べたことのない鯉の調理法とその味に感動しきり。冷酒300mlのペース配分に苦心しつつ味わっていると、いよいよお待ちかねの鯉丼と鯉のあらいが到着。

まずは鯉のあらい。普通は酢味噌で食べることの多い鯉のあらいですが、こちらは生姜醤油で。それだけ自信のある鯉だという証拠なのでしょう。

箸に伝わる感触からすでに感じる身の締まり具合。一口噛めばごりっとした心地よい歯ごたえを感じ、そして広がる深い味わい。濃い旨味は詰まっているのに泥臭さなんてどこにも見当たらない。多少骨は当たりますが、それもまた美味しさのアクセントのひとつ。

強力な存在感を放つ身の横には、卵がまぶされたたたきが。こちらは卵のつぶつぶとした食感と身の一体感が美味しく、やはり生姜醤油でなんの臭みもなし。

メインの鯉丼は、ここオリジナルのメニュー。鯉を丁寧に骨切りし、特製のたれを付けながら蒲焼き風に仕上げたもの。僕はこの鯉丼がどうしても食べてみたく、このお店までやってきたのです。

旅行前から待ち望んでいた、待望の鯉丼をひと口。身の厚い鯉はほくほくとした食感で、しっかりと感じる白身の旨味。たれも甘すぎず辛すぎずの丁度良さで、鯉の持つ淡白で繊細な風味を殺しません。

骨や皮も丁寧に調理されているため全く気にならず、これは本当にものすごく美味しい。出発前からだいぶ自分の中でハードルを上げてしまっていましたが、そんなものなど目に入らないというように、想像の遥か上を超えるほどの旨さに感動。

米沢鯉料理六十里バニラアイス甘煮のたれ掛け
恐るべし米沢鯉。この短時間でこんなにバリエーション豊かな鯉料理を楽しめるなんて。その余韻に浸っていると、最後にアイスクリームが運ばれてきました。どうやらメニューにはないサービスのよう。

そしてこれがまた僕を驚かせることになるのです。上に掛かっているのは鯉の甘煮のたれ、カラメルではありません。いやいや、みたらし風ではあるけど、煮魚のたれってさすがにさぁ。と訝りながらひと口。

参りました、僕の負けです。疑って申し訳ない、ごめんなさい。創業以来継ぎ足し継ぎ足し守られてきた甘煮のたれは、鯉の旨味はものすごく凝縮しているにもかかわらず、魚の臭みなどどこにも無いのです。

その鯉の旨味がこれまたバニラアイスと相性抜群。なんだこれ、アイスクリームの一番美味しい食べ方のひとつなんじゃないか?と一瞬で惚れてしまうほどの衝撃作。

いやぁ、たまげた。今回の記事は我ながら煽り記事のようになってしまった。僕はブログでは意識的に強い感情表現の連発は控えています。例えば驚愕、感動、衝撃、絶品、などなど。だってそれが何度も出てきたら、嘘くさくなってしまうと思うから。

でも今回ばかりはこれらの単語の連発を避けることはできませんでした。だって、米沢鯉、絶品なんだもん。

米沢名物ABC。Aはりんご、Bは米沢牛、そしてCは米沢鯉。米沢の昼食処を調べていて、初めて鯉が名物ということを知りました。その中でも鯉の歴史は古く、江戸時代に上杉鷹山公が海のない米沢の貴重なタンパク源として取り入れたのが始まりだそう。

僕はもともと鯉は好きな食材のひとつ。各地で甘露煮やあらい、鯉こくを食べてきました。そのどれもが美味しかったのですが、ここ米沢の鯉はひと味も、ふた味も違う。

なんだろう、泥臭さがないのももちろんですが、魚体が大きく身の厚み、そして締まりがとても良い。そして何より、多岐にわたる食べ方に驚き。長い歴史の中で人々が生み出してきた、鯉の味わい方の豊かさに脱帽。

このあと米沢で他にも美味しいものをいただきました。帰京後米沢牛食べた?と聞かれることもありました。そのとき僕はこう答えます。「牛も絶品だったけど、米沢は鯉が抜群に旨いよ!!」と。

鯉という食材自体好みもありますし、海の魚のような派手さや分かりやすい美味しさはないかもしれません。だからこそ、これまでの鯉の概念を吹き飛ばす味わい方に、味覚も心も奪われてしまったのです。鯉ってこんなに主役をはれる奴だったんだ。そのギャップにすっかりやられてしまいました。

米沢に来て本当に良かった!!まだ到着して間もないのに、もうすっかり米沢の虜に。そうさせるほどの魅力が、米沢鯉には詰まっているのでした。