深き白に染められて ~厳冬の八甲田へ 2日目 ②~

豪雪の酸ヶ湯温泉吹雪にけむる宿

青森駅から路線バスに揺られること1時間40分、ついについに憧れの名湯、『酸ヶ湯温泉旅館』に到着。思い切り降りしきる雪の中佇む巨大な一軒宿の姿は、僕の描いていた酸ヶ湯そのもの。

一度は来てみたいと思い始めてから10年以上。車を持たない僕にとっては、周遊旅行の行程の中になかなか組み込みにくいこの立地。今回たなぼたで貰ったお休みで、目的をここに絞ることができたからこそ、ようやく訪れることが叶いました。

これから2泊3日、酸ヶ湯だけを愉しむ贅沢極上な休日が待ち構える玄関へと、吹雪の中歩みを進めます。

豪雪の酸ヶ湯温泉ロビーで旅人を出迎えるねぶた

玄関へとと入ると、暖かい空気と共に大きなロビー、そして多くのスキー客がお出迎え。この時期は、秘湯宿であるとともに、スキー宿としても機能しているようです。

路線バスの到着はチェックイン時刻前。宿帳を書き、お部屋の準備ができるまでしばしロビーで待ちます。そのロビーの一画には、青森へ来たことを強く感じさせるねぶたの姿が。

豪雪の酸ヶ湯温泉旅館部七号館客室

力強いねぶたを眺めて待つことしばし、お部屋へと案内されました。ここが、これから二晩僕の城。木造の温かみと、障子を白く照らす雪明かりが堪らない。

今回は初めての酸ヶ湯ということで、旅館部に宿泊することに。本当ならばもっと渋い湯治部へとも思いましたが、食事の内容が完全に分かれてしまうようなので、今回は旅館部へ。

旅館部も(イ)棟と、今回僕の泊まる七号館の2棟に分かれており、お値段も別。パッと見、七号館の方が古いのかもしれません。が、僕にはそれが嬉しいポイント。

豪雪の酸ヶ湯温泉窓の外は雪の壁

窓の外はというと、うず高く聳える雪壁と、窓に着いた雪の粒。さすがは豪雪の地、周囲や中庭は雪に埋もれ、どこのお部屋も大差ないのでは無いでしょうか。でもこの雪の明るさが清々しい。これからそのことを実感することになるのです。

豪雪の酸ヶ湯温泉旅館部七号館味わい深い廊下

廊下へと出れば、暖かい白熱灯に照らされる、板張りの床と天井。古い木造の宿だけあり、隣近所の話し声や、廊下を歩く音、上階の振動などはご愛嬌。この時期、スキー宿としても利用されているので、その賑わいが気になる方は違う季節を選んだ方が良いかもしれません。

豪雪の酸ヶ湯温泉湯上がりに雪景色と冷たいビール

そして早速、酸ヶ湯の顔とも言える、「ヒバ千人風呂」へ。混浴である巨大な大浴場は撮影禁止。ここに載せられないのは残念ですが、この時期は湯けむりが濃く立ち込めているため、たとえ撮影できたとしても真っ白な写真になることでしょう。

あまりにも有名な、ヒバ千人風呂。男女別の脱衣所を出ると、階段を数段降りたところに大きな浴場が広がっています。厳寒のこの時期、湯船から上がった湯気は行き場を失くし、広い浴場内を満たします。

その真っ白なベールに包まれた空間を進み、掛け湯をしていざ入湯。広い浴槽には若干の青みを持った白いにごり湯が掛け流されています。その見た目も浴感も、シルキーと言いたくなるような滑らかさ。とても肌触りが良く、いつまででも入っていたくなるほど。でもそこは我慢。とても良く温まるお湯なので、長湯は厳禁です。

手前の浴槽は熱湯と呼ばれ、若干ぬるめのお湯がすのこ状の浴槽の底から湧いています。熱湯とは、温度では無くその温まり方の強さからくるそうで、実際湯上りのぽかぽかがかなり長い時間実感できます。

奥の浴槽は四分六分の湯と呼ばれ、熱湯より源泉の温度が高いらしく、入った感じはこちらの方が分かりやすい熱さ。でも浴後は熱湯よりも保温効果が低いのだから、温泉は不思議なものです。

その他に、打たせ湯の湯滝、かぶり湯の冷の湯があり、それぞれ違う源泉が使われています。その時の気分によって熱湯と四分六分の湯を入り比べましたが、僕の好みは熱湯。足元から泡と共に源泉が湧き上がる心地よさは格別。

そんな心地よい源泉を、より極上のものとしているのが、青森ヒバで造られた巨大な浴場。温泉を吸ったヒバは肌の当たりが優しく、壁や天井は湯気を吸って渋い表情をしています。

猛烈な湯けむりによって、向かいにいる人の顔すらわからない厳かな雰囲気。木造りの建物の中には、唯一無二の酸ヶ湯でしか味わえない時間が流れます。

豪雪の酸ヶ湯温泉1日目夕食

湯上りの温かさをビールで冷まし、雪明かりの中過ごす夕刻までの時間。もう一つの男女別浴場、玉の湯にも行き、いよいよお待ちかねの夕食の時間。七号館は畳の広間に並ぶテーブル席での食事となります。

テーブルの上にはたくさんの品々が並びます。まずは前菜、蟹寒〆ほうれん草巻、秋刀魚松前、長芋しそ漬け、合鴨ロースの4品。美味しいものを少しずつ楽しめ、これから始まる宴に期待が膨らみます。

お造りはサーモンと子持ち昆布で、山合いながら新鮮で美味しい。酢の物は深浦産若布素麺とぎばさ二杯酢。つるっとした若布素麺とぎばさの磯の香りを二杯酢がさっぱりととめます。

サラダは陸奥湾産帆立と鮪の生ハムオリーブドレッシング。もう青森の帆立の旨さは僕の中では鉄板。鮪の生ハムはその名の通りのねっとりとした食感で、凝縮された旨味が美味。オリーブオイルと塩ベースの無駄の無いドレッシングが、野菜と海産物をピッタリと合わせています。

これまで紹介した品々だけでも、青森の酒を飲むには充分過ぎます。が、僕の一番のお気に入り、衝撃的な印象を残す逸品が。それが右奥の、鮟鱇共和え。青森の郷土料理のひとつにあるらしい、程度しか知らなかったこの料理。いざひと口食べてみると、その激しい旨さに叫びたくなるほど。

使われている鮟鱇の身やあらは、部位によって異なる食感。ホクッと白身を感じたり、ぷるんとゼラチン質の心地よい歯ごたえがあったり。そんな美味しい鮟鱇の身を、とっても美味しい肝で和えているのだから、もう激ウマなのは当たりまえ。味付けが味噌というのもまろやかでコクがあり、酒のアテに抜群。

豪雪の酸ヶ湯温泉鱈と白子のホイル焼き

今夜の宿泊がビジホなら、間違いなく5合は固いであろうラインナップ。でも、決めたんです。酸ヶ湯のお湯を楽しむためには、夕飯では1合しか飲まないと。

そんな決意を大きく揺るがす、次なる敵が。そいつは、鱈と白子のホイル焼き。何これ、この好物攻撃。白子は衣を付けて一旦揚げられており、ふわっととろっとした食感。上に載せられた味噌がまた丁度良い塩梅で、飲兵衛殺しの旨さ。

豪雪の酸ヶ湯温泉自家製凍み豆腐と十和田産地養豚の鍋

ここまでも結構な品数ですが、さらに蒸し物と鍋物が。豆乳雲丹豆腐はまろやかな口当たりの豆腐の下に、蒸されてほっくりとした食感になった甘い雲丹が隠れています。

ぐつぐつ煮えているのは、自家製凍み豆腐と十和田産地養豚鍋。適度な脂と歯ごたえの豚を、優しい塩ベースのだしで味わいます。そしてまたもや驚く美味しさだったのが、凍み豆腐。

凍み豆腐のイメージと言えば高野豆腐でしたが、これは全くの別物。豆腐の構造体が、スポンジ状では無くミルフィーユのように層になっているのです。その一枚一枚にだしが入り込み、フリーズドライされて凝縮された豆腐の旨味は、乾燥ゆばのよう。

もうお腹も味覚も大満足。青森の旨いものに囲まれた幸せな夕餉を、ご飯と豚汁で締めくくります。そのお供には、大根と白菜の葉くるみ漬け。塩分控えめに漬けられた白菜の中には、大根とほんのり香る酒粕が包まれています。

最後の最後にりんごのシブーストと青森のりんごを平らげ、本当にお腹一杯。旨かったぁ。

豪雪の酸ヶ湯温泉木造旅館の持つ温かみ

山の秘湯なので、正直ここまでの夕食だとは思っていませんでした。内容も、品数も、そして肝心の味も大満足。青森の山海の幸を、色々な味で楽しませてくれる。お湯も食事も好みなんて、またひとつ、危ない宿に出会ってしまいました。

そんな満足感に包まれて、部屋へと戻ります。先程の食事会場の賑わいから一変、再び山の奥の一軒宿のもつ風情に包まれます。

酸ヶ湯夜のお供に八甲田おろし純米酒

後はひたすらお湯とお酒と本を愉しむだけの時間。そんな贅沢な夜の一晩目に選んだのは、青森県は十和田市の鳩正宗が造る、八甲田おろし純米酒。初の八甲田での夜に相応しい名前と、深い青のラベル。

青森県産の華吹雪というお米と、奥入瀬川の伏流水で醸されたこのお酒。青森のお酒はすっきり辛い!というイメージで飲むと、その甘味やコクに驚きます。すごい、お米っぽい。

すごいお米っぽいなんて変な表現をしてしまいましたが、すっきり無駄の無いイメージの青森の酒とは全く違った、口当たりの良い広がる旨さ。でもしっかり辛さもある。

いやぁ、さすがは東北、さすがは青森。来る度に旨い酒を飲ませてくれる。青森の酒のまた違う一面に触れ、一層東北の酒の虜になるのです。

酸ヶ湯には、露天風呂が無い。僕にとって、それは訪れる機会を遠ざけてきた理由のひとつであったかもしれません。

そんな僕は全くの馬鹿者だった。露天だろうが、内湯だろうが、良いものは良く、イマイチなものはイマイチ。そして酸ヶ湯は、間違いなく最上級の良さ。

浴場が限られている分、次はどれにしようかと迷うことも無い。行くたびに良いお湯が待ち、行くたびに荘厳な雰囲気の湯屋が待つ。でも、時間帯や人の数で違う顔を見せてくれる。ヒバ千人風呂に、心から酔いしれてしまいます。

白い湯気と白い湯に包まれ、窓の外は白い雪の壁。冬が好きで良かった。この時期ここまで来ることができた幸運に浸りながら、静かな夜を過ごします。

そんな静けさを愉しんでいると、いきなりの轟音と共に振動が。地震?と思いきや、ドサッと落ちる音で、屋根からの落雪なのだと理解しました。八甲田の夜に響くその迫力に一層旅情を掻き立てられ、初めての酸ヶ湯の夜を味わうのでした。

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深き白に染められて~厳冬の八甲田へ~

呼吸をするかのように冬の海に佇む海峡の女王青函連絡船八甲田丸
2015.2 青森

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