青に抱かれ見果てぬ夢を。~ブルートレインで北へ 2日目 ①~

寝台特急あけぼの号で迎える朝

無抵抗のうちに深い眠りへと堕ちていった昨日の夜。ブルートレインの底力を見せ付けられるようにあっという間に寝入ってしまったため、今朝はすっきり早めのお目覚め。青空に包まれた流れゆく田園風景を、爽快な気分でぼんやり眺めます。

寝台特急あけぼの号国鉄型客車24系25型洗面所

目覚ましに起こされない目覚めはこんなに清々しいものか。湯治で体感した感覚を再び味わい、朗らかな気分で身支度を始めます。

寝台列車の朝といえば、やっぱり揺れに耐えながらの歯みがき。登場当時よりもグッときれいに、便利にリニューアルされた洗面台ですが、それでもやはり昭和の雰囲気は色濃く残ります。

洗面所は車端部のデッキにあるので、揺れも音もダイナミックそのもの。ギコギコ揺られながらシャカシャカ歯を磨けば、車中で一夜を明かしたという実感がムクムクと湧いて来ます。

寝台特急あけぼの号国鉄型客車24系25型貫通扉のすりガラスとB寝台の文字

列車は秋田付近を走行中。まだ時間が早いので、洗面に来る人もありません。鏡とにらめっこしながら歯みがきしていてもつまらないので、デッキでの昭和探しに勤しみます。

まずはこれ。最近ではめっきり見なくなった手動の重たい貫通扉。レバーを引いて開け、閉めるとカチャン!!と豪快な音のするアレです。

昔は特急から通勤車までこれが当たり前でしたが、気付けばもう絶滅危惧種。そんな懐かしい貫通扉を、より一層味わい深くする擦りガラス。朝の光に浮かぶ「B寝台」の文字が、自分の身がこの瞬間も非日常に置かれていることを強く実感させます。

寝台特急あけぼの号国鉄型客車24系25型昭和の香りの冷水器

続いて前回もご紹介した冷水器と、列車便所という言葉がぴったりな、無骨な雰囲気のトイレ周り。

同じ国鉄型でも、昼行の特急や新幹線とはどこと無く違う寝台列車の水周り。昼行のそれとは違い、無機質で必要最低限ではあるが、各車両にしっかりとそのスペースが確保されている様子に、夜行列車の担う長距離移動という使命を感じさせるよう。僕が初めて寝台列車に乗った際に、その濃厚な匂いを強く実感した光景のひとつです。

国鉄型客車24系25型あけぼのテールマーク

そしてこの車体色とテールマーク。ブルートレインという名前の元となったこの深みのある青い色は、走るホテル、東洋一との呼び声の高かったそうな20系客車からの伝統。そしてその車両よりも鮮やかでいて深みを増したようなこの色に、ブルートレインは進化しました。

僕がブルートレインに憧れを持つようになった頃には、すでに第一線から退いていた名車20系。僕は結局乗ることができず、永遠に憧れることしかできない存在になってしまいました。あの優美な流線型は、誇りある職人集団としての国鉄が生んだ最高傑作のひとつ。そう思えて仕方ありません。

そして国鉄の傑作といえば、このテール(ヘッド)マーク。僕の生まれる以前は文字のみのマークでしたが、僕が知っているものは全てこの絵柄入りのマークになっていました。

故郷の駅を颯爽と通過する、梓川の描かれたあずさ号。国鉄色が何となく垢抜けない、逆さ富士を掲げたかいじ号。憂いを含む横顔に魅かれつつ、乗車寸前までいって乗ることのできなかった踊り子号。そして、僕を列車で初めて北海道へ誘ってくれた、連なる鳥が印象的なはつかり号。

物心付いたときからすでに新幹線には旅情を感じず、在来線特急が大好きという、渋い子供鉄ちゃんだった僕。そんな僕の想い出は、常にこの趣向を凝らしたデザインが秀逸な国鉄のヘッドマークたちと一緒でした。そして、きっとこれからもずっと。

夜明けを思わせるあけぼの号のマークを眺め、爽やかな朝だというのに思わず熱いものがこみ上げて来そうになる。人の心を動かすほどの力を持った鉄道の黄金期は、未来永劫来ることはもう無い。そう断言してしまいたい衝動に駆られるほど、昭和の国鉄にはその力が宿っていました。

国鉄型客車24系25型開放寝台で寝ころび眺める空

余りにも濃密な列車旅の風情につい熱くなってしまった頭を冷やすため、再び寝台でゴロゴロと過ごします。

遮光性の重たいカーテンや、折りたたみ式の梯子越しに眺める青い空。あけぼのや北斗星などはまだ距離的に短い方で、九州方面へのブルトレでは延々こんなことをして過ごしていたのでしょう。

そうまでしないとたどり着けない目的地。飛行機が当たり前に飛ぶようになった今を暮らす僕にとって、それが当たり前という時代は到底想像できません。

でも自分が夜行列車に乗って旅して分かったことがひとつ。距離を体感しないと、旅の味わいは半減する。どれ程遠い土地でも手軽に飛べてしまうと、ありがたみも何もなくなるものです。

寝台特急あけぼの号初夏の田んぼの車窓

植えられたばかりの若い稲と、どこまでも続く抜けるような青空。どこにでもありそうでかけがえの無い。そんな長閑な風景の中を、ブルートレインは僕の想いを乗せて走り続けます。

上野駅を出発してから12時間と少し。もうまもなく、この旅最初の目的地である弘前に到着。

12時間とは長いようでいて短いもの。色々と思うところがあり考えを巡らせていると、時間はいくらあっても足りないもの。残りの寝台列車の旅情を噛みしめつつ、弘前へと一歩ずつ近付いてゆくのでした。

青に抱かれ見果てぬ夢を~ブルートレインで北へ~
寝台特急北斗星ワイン片手にロイヤルで過ごす贅沢なひととき
2012.6 青森/北海道
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