青に抱かれ見果てぬ夢を。~ブルートレインで北へ 6日目 ④~

札幌駅に入線する寝台特急北斗星

時刻は17時過ぎ。とうとう、今回も北海道を発たなければならない時間に。ホームの放送が流れ、みんなが見守る中厳かに入線する、寝台特急北斗星。

そういえば、以前よく乗っていたのは札幌を夜に出発する北斗星4号。北斗星が1往復体制になってからは冬にしか乗ったことがなかったので、こんなに明るい札幌駅でこの列車を見るのは初めてのこと。

今まで慣れ親しんだ、深き夜の青さを内に秘めた色合いとはまた違った印象に。これから日が暮れるまで、まだまだ北の大地を堪能できる。そのことに今更ながら気づき、思いがけないフィナーレに心が躍ります。

北斗星牽引DD51側面に輝く流れ星

何度見ても、僕を魅了して止まない黄金の流れ星。冬の暮れた空に輝くその色はなんとなく憂いを感じさせますが、初夏の夕日に照らされたその姿は、今までは見せなかった新しい美しさを存分に輝かせています。

寝台特急北斗星温かみのある灯りが点る食堂車

札幌の停車時分は10分を切る短さ。力強くディーゼルの唸りをあげる機関車に僕の北海道への想いを託し、自室へと向かいます。

途中には北斗星の顔とも言える食堂車。乗って過ごす時間も格別ですが、外から見るこの温かさに包まれた雰囲気もまたいいもの。

まだ明るい中佇むブルートレインの客車は、これから迎える夜空のようでもあり、北斗星を彩る噴火湾の青さのようでもあり。

夜空の中の慣れ親しんだ北斗星には感じられなかったまた新しい魅力。この期に及んでまで新しい一面で僕を誘惑する。北斗星は本当に罪な奴だ。

寝台特急北斗星24系25型ひと際大きいロイヤルの窓

ホームを歩くとひときわ目を引く、窓が大きく取られたこの一画。ここが、僕の今夜の宿。

SA1個室、ロイヤル。先ほどの食堂車と共に皆の羨望の眼差しを集め続ける、北斗星を日本の豪華列車として一躍有名にした立役者。僕が小学1年の時に、青函トンネルの開通とともに華々しくデビューし、それ以来君臨し続ける最高峰の一人用個室。

憧れて、憧れて、憧れて。ひたすらあこがれ続け、約四半世紀。僕の愛し続ける北斗星であっても、近くて遠すぎる存在であったこのロイヤルに、ついに、ついに乗ることができるのです。

寝台特急北斗星24系25型上野行き方向幕

逸る気持ちを抑えつつ、乗車口へと向かいます。方向幕には、いつもの上野の文字。ここから車内へと入れば、もうしばらくは北海道ともお別れ。この旅でもいい思い出をくれた北日本への感謝の想いを胸にしまい、車内へと足を踏み入れます。

寝台特急北斗星10号車11番個室SA1ロイヤル

10号車11番個室。今宵一夜限り、僕のためだけに用意された、特別な空間。この列車の中で4人だけが味わえる、極上の移動が約束された室内への扉を開きます。

寝台特急北斗星ロイヤル部屋いっぱいに広がる大きな窓と重厚なインテリア

部屋いっぱいに広がる窓と、今まで見たこともないような立派な寝台ベッド。さらに一人用の回転ソファーまで用意され、これが列車の中で一人のためだけに割いたスペースということが信じられないほど。

インテリアも重厚で、落ち着いた木目と茶系のファブリック、上品な光沢が美しいカーテンに、温かみのある白熱灯の灯り・・・。

どれをとっても、僕の知っている列車というものとは格が違う。嘘ではなく、開けた瞬間息を呑む。僕にとっては、それほど立派な空間に感じられます。

寝台特急北斗星ロイヤルドライヤーと荷物棚

ベッドの横、入り口側には大きな鏡とドライヤー、その上には大きな荷物棚が備えられています。

荷物棚には、昼間にベッドをソファーとして使用するときに使えるよう、ひじ掛けも常備。ベッドの背もたれはレバーを操作することにより前にせり出し、ソファーモードに切り替わります。

寝台特急北斗星ロイヤルロッカー

通常の寝台ではむき出しで掛けるかくちゃくちゃ畳んで置いていた着替えも、モニター横のロッカーにしまえば室内はすっきり。狭い車内をいかに快適に過ごせるかの工夫が色々と詰まっています。

寝台特急北斗星ロイヤル走るホテルの呼び名にふさわしい設備

出口脇には、洋服や靴用のブラシと靴べらも常備。登場以来「走るホテル」と呼ぶに相応しい地位を保ち続けてきた、北斗星のロイヤル。

登場以降20年以上経過し、新しさの面ではさすがにカシオペアには勝てませんが、残りわずかなブルートレインの集大成として随所に品格を漂わせています。

寝台特急北斗星ロイヤル洗面台

十分に広い居住空間のほかに、ロイヤルには水回りも備えられています。折り戸を開けばユニットとなった洗面台とトイレがあり、それぞれ引き出して使います。

寝台特急北斗星ロイヤルトイレ

特にこのトイレが便利で、個室寝台でもわざわざ施錠して共同トイレへ行かなければならないのが当たり前な中、自室にいながら全て済ませてしまえるのも一人旅の大きな味方。

寝台特急北斗星ロイヤルシャワー

そして、夜行列車で一番困るシャワーも、自室にいながら浴びることができます。通常利用するシャワー室は出湯時間に制限がありますが、ロイヤルのものはリセットボタンを押せばまた使えるようになります。

使用できる水の量に限りがあるので注意は必要ですが、1回1回の使用量を加減すれば、一晩で2回、3回とさっぱりすることもできます。

列車、それも車両限界の小さい日本の在来線という限られたスペースに詰め込まれた最大限のおもてなし。これだけの機能とスペースをたった一人のためだけに。そのことを考えると、高い寝台料金にも思わず納得。

寝台特急北斗星ロイヤル北の大地を眺めながらのサッポロクラシック

札幌発車後もしばらく室内探訪を続け、やっと興奮も落ち着いてきたところで、ラスト・クラシックを。いつもは夜景をつまみに飲むところですが、今回は初夏の柔らかい夕日に包まれた流れる緑をあてにぐいっと一口。

北斗星でこんな車窓を眺めるのは初めてのこと。ふかふかの一人掛けソファーに腰掛け、大きな窓からそんな車窓を眺めれば、その味わいはより格別なものになります。

寝台特急北斗星ロイヤル客車特有の静かな乗り心地

ビール片手に揺られる車内。昭和の旅情たっぷりのあけぼのから始まったこの旅の、青森・北海道と過ごした思い出をのんびりと思い返します。

いつもならそこに憂鬱さが付き纏うのですが、今回ばかりは違う。この明るい車窓とこの空間が包みこんでくれているからに違いありません。

寝台特急北斗星ロイヤル検札を終えてカードキーを受け取る

車掌さんによる検札を終えると、カードキーが渡されます。このカードキーは持ち帰り可能で、JR東日本車の個室寝台の利用者に配られます。

寝台特急北斗星ロイヤルアメニティー

こちらも持ち帰り可能な、特製北斗星ポーチに入ったアメニティーグッズ。中には歯ブラシやせっけん、シャンプー、リンスなど、ホテルのそれと同等のものが用意されています。また、洗面所にはバスタオルとフェイスタオルも用意されているので、文字通り走るホテル、手ぶらでOK。

寝台特急北斗星ロイヤル豪華なウェルカムドリンク

アテンダントの方が大きなお盆を運んで来てくれました。ウェルカムドリンクです。これは1人利用でも2人利用でも同じ内容のようですが、1人としては結構なボリューム。

おたる白ワインミニボトル、ニッカウィスキーミニボトル、お茶、ペットボトルの水、氷。お酒の弱い人ならこれで完全に酔ってしまうでしょう。お酒飲めない人は・・・、持ち帰って誰かにあげてね。

寝台特急北斗星ロイヤルウィスキーを飲みながら食堂車営業開始を待つ

食堂車の営業開始までまだあと少し。傾きつつある太陽が照らす車窓を、ウィスキーロックで味わう夕刻のひと時。

もう、何もいらない。僕は鉄道が好きで本当に良かった。そうでなければ、この贅沢は一生味わうことができないのかもしれないのだから。

寝台特急北斗星ロイヤル車窓いっぱいに広がる北海道の大地

車窓という名の額縁に飾られた、夕暮れの北の大地。高い山も見えず延々と広がるその景色は、この地ならではのもの。もう少しで光を失い、姿を消すこの雄大な北海道の姿を、心残りの無いよう余すことなく心に焼き付けます。

寝台特急北斗星ロイヤルウィスキーを飲みながら揺れと客車のリズムに身を任せる

軽快な鉄路のリズムに身を預け、ウィスキー片手にひたすらぼーっと過ごす、北斗星でのかけがえのない時間。車窓が暗くなるにつれて室内の照明も暗くし、絶えず変化する車窓を、飽きることなく眺め続ける。

もうまもなく、夕食の時間。食堂車営業開始の放送が流れるまで、この愛おしい瞬間を味わうのでした。

青に抱かれ見果てぬ夢を~ブルートレインで北へ~
寝台特急北斗星ワイン片手にロイヤルで過ごす贅沢なひととき
2012.6 青森/北海道
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