冬を迎えに。~酸ヶ湯を染める清き白 4日目~

酸ヶ湯で迎える白い朝

酸ヶ湯で迎える二度目の朝。窓を開ければ、朝靄と共に八甲田の清冽な空気が部屋へと流れ込む。それを胸一杯吸い込めば、自ずと頭は冴え、心まで白く染められるよう。

酸ヶ湯温泉旅館2日目朝食
凛とした朝の空気に支配された千人風呂で朝湯を楽しみ、ぼんやりグダグダ過ごす湯上がりのひととき。やっぱり早起きは三文の徳。朝食を食べる頃には頭も心も、そしてお腹もすっきり。

そんな心地良い空腹で向かう朝食会場。今日も長いテーブルにはたくさんの美味しそうな品々が並びます。昨日に引き続き、お気に入りの南蛮味噌と味付きのこのりをスタンバイ。これだけでもご飯が止まりません。

それに加えて今日はたらこも登場。他にもシンプルな肉野菜炒めに焼き鯖、青菜の煮浸しなどと一緒に、白いご飯をモリモリ食べてしまいます。

酸ヶ湯温泉八甲田の白さをつまみに湯上がりのビール
パンパンになってしまったお腹を落ち着け、再びお風呂へ。湯上がりのぽかぽかが続く酸ヶ湯のお湯。その余韻に包まれつつ楽しむビールは、これ以上ないというほど格別な味。

鮮烈な苦みを一層旨くしてくれる、この雪景色。八甲田の白さを愛でつつ黒ラベルを飲めば、寒い時期には寒いところへという僕の欲求が満たされてゆくのを感じます。

酸ヶ湯温泉鬼面庵海老天そば
ビールの健胃効果で丁度よくお腹が減ったところで、お昼を食べに『鬼面庵』へと向かいます。酸ヶ湯でお昼を食べられるのも今日が最後。ということでちょっとリッチに海老天そばを頼みました。

程なくして、立派な海老天が2本載ったおそばが到着。甘ったるさのないすっきりとしただしを吸った海老天は、ほぐれる衣の食感が堪らない。

その衣と共に、口の中でほろほろとほぐれる酸ヶ湯そば。その食感の共演がすばらしく、津軽そばの持つ唯一無二の個性に今一度心酔してしまいます。

酸ヶ湯で過ごす最後の昼下がり 突然現れた青空に映える雪景色
柔さが魅力の津軽のそば。この地でなければ味わえない旨さの余韻に浸っていると、すりガラスの向こうがぱっと明るくなったことに気付きます。

すぐさま窓を開けてみれば、この旅で初めての晴れ間が。その抜けるような青さが、これまでモノトーンであった酸ヶ湯に鮮やかな色彩を与えるよう。

酸ヶ湯昼下がりのお供に関乃井酒造純米酒北勇純
11月。冬を求めてここまで来て、本当に良かった。八甲田の白さと空の青さに、昂る気持ち。そんな昼下がりのお供にと選んだのは、むつ市は関乃井酒造の純米酒、北勇純。

こちらは下北半島で唯一、本州最北端の酒蔵だそう。最果ての地、下北。恐山や寒立馬といった、それを印象付ける象徴的な光景。幼少のころにテレビで見て以来、いつかはと思いつつ未だ訪れることの叶わぬ未知なる半島。

そんな本州の果てで作られたということを感じさせるような、すっきりとしたきれいで飲みやすいお酒。旨い茶碗酒を片手に、まだ見ぬ下北半島へと想いを馳せます。

夕やけに染まる酸ヶ湯の裏山雪景色
東北は本当に罪作りな奴。何度訪れても訪れ足りないほど、様々な魅力に満ちている。八甲田の山深さに抱かれつつ、下北半島へと想いを巡らせる。そんな煩悩に悶絶するという贅沢を味わっているうちに、気付けばもう夕方に。

白く染まった裏山を染める夕陽。その力強くも儚い朱さに、心の深い部分の何かがぽっと燃える。他人には伝えきれないこの感情がある限り、僕はずっと旅していたい。いや、それを忘れ去ってしまわぬために、こうして旅を続けるのかもしれません。

酸ヶ湯温泉旅館自炊部3日目夕食
そして迎えた最後の夜。夕食会所へと向かうと、これまた昨日とは趣向を変えた料理が並びます。そして今日も地酒三種飲み比べを頼み、ちびりちびり。

サラダに載せられた〆鯖は炙られ、香ばしく風味を増した脂が旨い。小鉢には僕の好物であるきのこ、さもだしと菊の花。磯の香りが漂うめかぶぽん酢もシンプルな美味しさで、青森の素朴な滋味に地酒が進みます。

酸ヶ湯温泉旅館自炊部2日目夕食牛すじの煮込み
今夜のおつゆは何かな?とお鍋を覗いてみると、具だくさんな牛すじ煮込みが。

白菜、きのこ、長ねぎ、しらたき、豆腐。それらから出ただしを牛すじが吸い込み、牛すじの甘い油をそれらが纏う。丁度よい塩梅の味付けが、具材の味わいを引き出します。

初冬の酸ヶ湯で過ごす最後の夜
旅館部の郷土料理ベースの献立も魅力的ですが、自炊部の家庭的な雰囲気もまた好み。今日の晩御飯ななんだろな?という、久々に味わう楽しみ。この素朴さが、今の僕には合っているのかもしれません。

生まれてこの方、武蔵の国の中だけで暮らしてきた僕。東京ではなく、多摩生まれ。僕の中ではそんな妙な誇らしさが、未だ根強く残っています。

でもそんな武蔵野も、昔の面影もなく今ではただの都会に。僕が旅先に素朴さを求めるのは、失われてしまった故郷への思いを捨てきれないからなのかもしれません。

足して、載せて、掛けて、盛って。華美を美徳とする今の東京は、僕には合わない。この得も言われぬ感覚は、僕が変わったからなのか、それとも東京が変わってしまったからなのか。

どちらにせよ、年々増幅し続けるこの気持ち。心に根付いたある希望。いつかそれを叶える日がくるまで、僕はこうして旅に出よう。そうすれば、東京でもまだなんとかやっていける気がする。

漆黒の闇に映える白い雪。夜空には明るい星が光り、それが僕の目には希望に映る。八甲田に抱かれ過ごす夜は、自分の気持ちに素直になるということを教えてくれるのでした。

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