冬を迎えに。~酸ヶ湯を染める清き白 5日目 ②~

青森名物味噌カレー牛乳ラーメン味の札幌大西

ワ・ラッセでねぶたの熱さに触れた後は、味覚でも青森の熱さを味わうことに。この旅最後の青森グルメにと選んだのは、もう3度目となる『味の札幌 大西』。青森名物であるあのラーメンが食べられるお店です。

味の札幌大西青森名物味噌カレー牛乳ラーメン(バター入り)
開店直後というのに続々と訪れるお客さん。僕のような観光客もいますが、地元の方が多いように見受けられます。

津軽の言葉の温かみを耳に感じつつ待つことしばし、ついにお待ちかねの味噌カレー牛乳ラーメン(バター入り)とご対面。1年半ぶりの再会です。

早速スープをひと口。そうそう、これこれ!味噌、カレー、牛乳、バター。それぞれ個性の強いものばかりですが、どれかひとつが強調されるわけではなく、全体がひとつにまとまった穏やかな味わい。

スープに隠れた麺は札幌ラーメンらしく、黄色い縮れ麺。つるつるとした食感を楽しみつつ啜れば、まろやかかつほんのりスパイシーなスープを丁度よく口へと運んでくれます。

載せられた具は、チャーシューにもやし、わかめ、メンマといったさっぱり系。味噌ラーメンというと炒め野菜をイメージしますが、スープ自体にまろやかさとコクがあるので、こういった具材のほうが飽きずに食べ進めることができます。

思い起こせば3年近く前、興味本位で初めて食べたこのラーメン。ジャンキーなその名前からは想像できないような調和のとれた味わいに、すっかりファンになってしまいました。

あぁ旨い。猫舌にもかかわらず、熱さも忘れてスープまで一気に完食。上品なポタージュのような後味に、食べた直後からまた食べたくなる。これが東京でも食べられたら。一瞬そんなことが頭をよぎりますが、これがあるからこそまた青森を訪れる口実ができるのです。

初冬の鉛色の海に佇む海峡の女王青函連絡船八甲田丸
くどさの全くない、それでいてまろやかな余韻を残す味噌カレー牛乳ラーメン。お腹の中から温かさを感じつつ、再び青森の街を歩きます。目指すはやはり、あの女王。初冬の鉛色の海に映える色合いが、先ほどのスープを思い起こさせます。

青函連絡船の在りし日この姿を伝える青森港可動橋
在りし日の青函連絡船の繁栄を伝える可動橋。薄っすらと雪化粧をしたその姿は、どことなく物悲しさすら感じさせます。

見る度に朽ちてゆく産業遺産、可動橋。本州と北の大地を結ぶ大動脈としての役目を終え、寄る年波にはかなわないのだと残念に思っていました。

そして今回、付近には工事用のバリケードが。老朽化のためもう近づけないのかと思いました。ところがよく見てみると、工事の概要が書かれた看板が。どうやら可動橋の補修工事が予定されている模様。貴重な近代化遺産がこの先も永く残ることに、ほっと胸を撫で下ろします。

初冬の雪の中凛と立つ海峡の女王青函連絡船八甲田丸
青函連絡船と共に歩んだと言っても過言ではない青森の街。人々の想い出として大切にされていることがひしひしと伝わってくるかのよう。凍てつく風の中凛と立つ海峡の女王も、心なしか誇らしげに映ります。

青函連絡船八甲田丸に華を添える津軽海峡・冬景色の歌碑
明治時代に航路が拓かれて以来80年、大動脈として人々の思いを運び続けた青函連絡船。トンネルで陸続きとなった今では考えられないほど、北海道へ渡るということが大変だった時代。

だからこそ、今なお強く残る連絡船の記憶。悲喜こもごも、人間の様々な思いの染みついたこの航路があったからこそ、北の大地への憧れは強くなり、そして港町青森に得も言われぬ独特の風情を与えました。

そんな想い出も、すでに過去のもの。リアルタイムで廃止の映像を見つつ乗船することが叶わなかった僕は、こうして女王を見つめて思いを馳せる以外に成す術もない。

そんな切なさを一層駆り立てるのが、歌碑にもなったあの名曲。喜怒哀楽に溢れた人間模様の舞台となった連絡船。流れる歌声に、胸の奥から熱さと共に何かが溢れ出しそうになるのを必死に堪えます。

イルカのマークが出迎える青函連絡船八甲田丸
いつもは優美ながらどことなく憂いを湛えるような外観を楽しんでいましたが、今回は5年振りに『八甲田丸』の船内へと入ってみることに。入口では笑顔のイルカが出迎えてくれます。

幾多もの乗客を出迎え送り出してきた八甲田丸の木製の扉
現役当時から使用されていたであろう乗船口。重ねた年月がそのまま染みついたかのような木製の扉に、早くも海峡の女王の背負ってきた使命を感じます。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸入口ロビーに展示された飾り毛布
重たい扉を開け、受付でチケットを提示します。今回は先ほど訪れた『ワ・ラッセ』で2館共通チケットを購入済み。別々に買うよりも200円ほどお得になります。

中へと入った途端に包まれる、青函連絡船の持つ空気感。現役当時そのままとはいきませんが、それでも入口ロビーに漂う雰囲気は、活気のあった当時に思いを馳せるには十分過ぎるほどの昭和感。

船の持つ旅情を一層強くするのが、一角に展示された飾り毛布。船会社や航路により様々な形があるそうで、島国である日本が重ねてきた海運の歴史を匂わせます。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールドレストランのボーイさんと酔いつぶれたお客さん
幾多もの乗客を出迎え送り出してきたロビーを離れ3階へ。するとそこには、独特の世界観を持った空間が広がります。

青函ワールドと名付けられたこのジオラマは、以前東京はお台場にあった船の科学館に係留されていた羊蹄丸から移設されたもの。その羊蹄丸はすでに解体されてしまい、海峡の女王との異名を持つ美しい船は、ここ青森と函館でしか見られなくなってしまいました。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールド夫婦喧嘩をする魚屋
連絡船が元気だった昭和30年代の青森を再現したというこのジオラマ。その世界を彩るのが、個性的かつ表情豊かな人形たち。

先ほどのレストランには酔い潰れて寝てしまったお客さんと困り顔のボーイさんがいましたが、こちらでは魚屋の夫婦がなにやら喧嘩中。流れる津軽弁の音声と共に眺めれば、当時の空気が伝わってくるよう。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールド鉄道弘済会キオスク売店
津輕飴にりんご羊羹などの青森土産のほか、ピースやウイスキー、三ツ矢サイダーなど懐かしの品々が並ぶ売店。掲げられた鉄道弘濟會の文字が時代を感じさせます。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールド味わい深い運賃表や看板たち
ずらりと並ぶ古い運賃表や看板たち。すべてデジタルで作成する今とは違い、昔の掲示物には手作りの温もりがありました。それは船や鉄道といった乗り物から家電、生活用品まで全てにおいて言えること。現代のものはどことなく無味乾燥な印象でつまらない。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールド並ぶりんご箱と焼き芋売り
青森らしいりんご箱の並ぶ街角に立つ焼き芋売り。この頃ほど軒数はありませんが、それでもいまだに市内で見られるりんご箱のある風景。

もしかしたら、自分が老人になった頃にはもう目にすることはできなくなるかもしれない。旅先で目にしたものや感じたことをしっかりと心に刻むことの大切さを、今一度強く実感します。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸青函ワールド大荷物を運ぶ赤帽さんと真知子巻きの女性
人待ち顔で遠くを眺める真知子巻きの女性と、大荷物を運ぶ赤帽さん。奥には出港の銅鑼を鳴らす船員さんの姿も。映画のワンシーンのようですが、昔はこんな光景が幾度となくここ青森の岸壁で繰り広げられていたことでしょう。

取り巻く時代や人間模様があったからこそ、言いようのない強い旅情と憂いを含む青函航路。連絡船の美しい船体だけでなく、そんな部分にも僕は魅かれるのでしょう。

濃厚な昭和の雰囲気に包まれた青函ワールド。見方により味わえるその世界感は様々。すっかり気持ちがタイムスリップしたところで、いよいよ連絡船の面影を味わう旅へと出発します。