岩手の秘湯で何想う ~節目の鄙び旅 5日目 ⑤~

E5系はやぶさ号初乗車

長いようであっという間だった、東北での5日間。その幕を降ろす時間が刻一刻と近付いてきました。そのフィナーレの舞台として選んだのが、東北新幹線の最新型であるE5系はやぶさ。

ホームに立つ旅行者に留まらず出張族までもが、一斉にその勇姿へとレンズを向けます。老若男女を問わず童心に返らせ、無邪気な笑顔を浮かばせる。本当に良い鉄道には、昔も今もそんな魔力が宿っているのです。

そんな状況なのでひどい写真にはなりましたが、僕は今でもみんなの明るい笑顔は忘れられません。

E5系はやぶさ温かみのあるデッキ

デッキへと入ると、今までの新幹線とは違う印象が。壁には木目の化粧版が貼られ、鈍い輝きを放つ金属がいい締りを与えます。ドアは温か味のある肌色に塗られ、壁との一体感があります。

奇をてらっているわけでもなく、斬新でもない。でもこんな落ち着いて温か味の感じる新幹線のデッキは初めて。今までありそうで無かった、そんなインテリアです。

E5系はやぶさ 落ち着いたインテリアの車内

車内は今までのJR東日本の新幹線とはかけ離れた落ち着いた雰囲気。壁や荷棚の上下には木目が多用されており、天井の柔らかな曲線と眩しすぎず暗すぎずの適度な直接照明と相まって、上質感の溢れる空間に仕上がっています。

僕は新幹線に関しては断然JR東日本派。これまでのド派手な座席が印象的な新幹線たちも大好きですが、このE5系に、次の時代のJR東日本を見たような気がします。

そして驚くは座席。今までの背もたれと座面を自由に調整できるタイプのシートで十分満足でしたが、これはその更に上を行っています。

リクライニングすると、自動的に座面が後方へ傾き、体を心地良い体勢でがっちりホールド。その動きは決して大きくなく微妙なものなのですが、体感としてはかなりの違い。上下に動かせる枕と共に、長距離移動の快適を約束してくれます。

走り出すと今までの新幹線には無かった静かさが。揺れもかなり抑えられており、いくら徐行運転中と言えども、今までの新幹線との違いは歴然。早く時速320kmで疾走するはやぶさに乗ってみたいものです。

東北新幹線はやぶさ車内で菊の司七福神ワンカップを

外観からして、デビュー前からすでにやられていたはやぶさ号。今回の乗車で、僕はこの車両に心底惚れました。これほどまでに車両に惚れたのは、小田急ロマンスカーVSE登場時以来のこと。

斬新な外見とはうらはらに、内装は上品で過不足の無い、落ち着いた快適さ。旅客を安全快適に目的地まで運ぶという鉄道の使命を、現代なりに実直に実現した車両ではないでしょうか。

そんな良い意味で国鉄時代にも通ずるまじめさを感じさせる車両。次世代の東北新幹線の顔になるに相応しい、JRのこだわりが詰まった車両です。

快適なシートに包まれ、新幹線に心酔する極上の時間。そんな時間を更に最高のものとするのに欠かせないのは、もちろん岩手の地酒。菊の司七福神を片手に、心地良い揺れに身を委ねます。

去りがたい岩手の田園風景車窓

視線を外へと向ければ、傾きつつある陽に照らされた、穏やかな岩手の田園風景。この景色は何度見たことでしょうか。その度にいつもと変わらない姿で僕を包んでくれる。

どうか、東北全体がこの穏やかな自然に再び包まれる日が来ますように。東京へ向けて疾走する車内より、東北の地へ最後の願いを託すのでした。

盛岡駅弁大人の休日いわて食の道楽

窓を過ぎ行く岩手の大自然。流れる景色は、まるでこれまでの5日間すら流してしまいそうな切なさを誘います。そんな恒例になってしまった帰京に向けてのセンチメンタルを断ち切るため、この旅最後の東北グルメを。

徐行運転中で3時間以上掛かる道のりを愉しむために選んだのは、地元の調製元であるウェルネス伯養軒の、大人の休日いわて食の道楽。大人の休日シリーズ、気が付くと買っていることが多くひとりで苦笑いしてしまいました。

東北新幹線はやぶさ車内で吾妻嶺純米美山錦ワンカップを

大人の休日と来れば、欠かせないお酒。車窓をつまみに菊の司を飲み、続いては駅弁をつまみに吾妻嶺純米美山錦を飲む。

岩手の中央に位置する紫波で作られたお酒は、酸味やビターな風味を持つ個性のある味わい。これなら岩手の幸が詰まったお弁当にも合うだろう、そう期待をしながら駅弁の蓋を開けます。

盛岡駅弁大人の休日いわて食の道楽中身

中には、僕の目論見通りにおつまみになりそうな品々が並んでいます。

甘辛く焼かれた大ぶりの帆立、丁度良い塩分の焼鮭、こりこりと美味しい茎わかめなどの海の幸。照り良く焼かれた鶏肉に、大きめな舞茸が嬉しいしみじみとした美味しさの煮物などの山の幸。

それぞれシンプルながら素材を活かした味付けがされており、丁寧に作られていることが伝わってくるかのよう。そんな岩手の温かさを感じさせるおかずをつまみにちびりちびりとやり、〆には何とも豪華なご飯2種。

プチッとしたいくらが載ったご飯はモチモチで甘味のあるもの。茶飯にはウニが載せられており、ほんのり香る磯の風味とうにのコクがご飯をより美味しくします。安比の帰りにも食べて満足だった伯養軒のお弁当。今回も品は違えど期待を裏切らない美味しさに大満足。

東北の地酒に東北の旨いもの。この5日間に幾度と無く繰り返してきたこの愉しみも、これが最後。また東北へ来る日まで。デザートの大福の甘さの中に、何とも言えないほろ苦さを感じるのでした。

東北新幹線はやぶさ車内で菊の司純米吟醸を

車窓をつまみに酒を飲み、駅弁を肴に酒を飲む。そして最後は、思い出をアテにしみじみと。そんなことができるのも列車旅ならでは。

最後のお供にと選んだのは、再び菊の司純米吟醸。ついさっきまで、この酒の故郷にいた。そんな余韻を噛みしめつつ、この5日間の東北での想い出をお酒と共に、ゆっくり、ゆっくりと心へと落としてゆくのでした。

E5系はやぶさ号は夜の東京駅に到着

長くて短い、あまりにも密度の濃い東北での5日間。節目の旅を終え、僕は今までに感じたことの無い心境で、ここ東京駅へと降り立ちました。

呼ばれるようにして決めた岩手という行先で、未知なる温泉、被災されて避難された方々、そして変わらぬ自然と人の温かさ。僕は心から溢れてしまうほどのたくさんのものを見て、感じてきました。

10年前、ハタチの僕が石川の地で描いた十年後。今その理想のステージに立てているかと聞かれれば、その答えは間違いなくNO。挫折知らずのまま18歳で希望の会社に入社し、以降自分なりの挫折を味わい、人生の大きな転機を迎え、今でも葛藤を抱えて暮らしてきました。

そんな10年間を振り返り、もう一度自分を見つめ直して気合を入れなおそう。本当は、そんなテーマを持ってこの旅に出ました。自分の中でのリセットという節目にしたかったのです。

でも実際旅に出て、東北の魅力にどっぷりと浸かって5日間を過ごしてみると、そんなこと考える暇などありませんでした。僕の大好きな東北が、5日間掛けて僕を癒してくれたのでしょう。

余計なことを考えるのはよそうよ。もう自分の作りあげた理想なんかに縛られるのやめようよ。そう囁いてくれた気がします。それくらい、不思議とこの道中ではそのテーマとやらが頭に浮かびませんでした。今までの「考えすぎ」という呪縛から解き放ってくれたのです。

10年前に描いた理想は手に入らなくとも、大切な家族や一緒にいてくれる相方がいて、かわいいわんこがいて、楽しく働ける仲間がいて、そして一人旅という、生涯の趣味ともできそうな素晴らしいものと出会うことができて。これ以上、何が不足があるのでしょう。

理想は現実と違って当たり前、歳や状況が変われば描く未来が変わるのも当然。頭が固く融通が利かない、白黒はっきり付けたい性格の僕は、こんな誰でも判るようなことを、恥ずかしながら30になってやっとなんとなく理解することができました。

それが遅かったのか、早かったのかは分かりません。この記事でさえ、40になった僕が見返したら、恥ずかしいことを書いていると苦笑するかもしれません。

それでも、この心境の変化は今まで味わったことの無いもの。備忘録として始めたこのブログには、どうしても記しておきたいと思いました。今のこの新鮮な気持ちを残しておきたくて。

E5系ボディーを翔るはやぶさエンブレム

輝く真新しいボディーを颯爽と翔るはやぶさのエンブレム。この列車を復活させたJRのように、復興を目指す人々や企業があり続ける限り、東北は再び元気になってくれると強く信じたい。

そして僕は、これまで以上に大好きになった東北という地を、これからできる範囲だけれども可能な限り何度も訪れたい。それが自分にできる精一杯のことだから。

夜に輝くはやぶさは、そんな人々の思いを繋ぐフラッグシップとして、これから大いに活躍してくれることでしょう。

東北新幹線 つなげよう、日本。

輝く鉄路に、祈りと願いを込めて。

岩手の秘湯で何想う~節目の鄙び旅~
新緑の夏油湯上がりに最高のビールを
2011.6 宮城/岩手
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