湯けむりへの轍 ~乗合自動車、みちのくへ。1日目~

夜霧に浮かぶ東京駅赤レンガ駅舎

夜霧に浮かぶ、幻想的な赤レンガ。今回の旅の始まりはここ、東京駅。20時過ぎのこの時間帯、駅前には忙しそうに行き交うサラリーマンの姿が。

なぜこんな時間の出発になったかといえば、僕もそんなサラリーマンのひとりになったから。夏の異動により長年勤めた駅務を離れ、9時5時のサラリーマンとして働くことに。

異動してから3ヶ月。異動といっても全くの畑違いの職場のため、気持ち的にはもう転職同然。未だに自分がスーツを着て電車に揺られている姿が窓に映ると、ふと不思議に思う瞬間があります。

子供の頃の夢を叶えた仕事とあって、駅以外で働くことを想像したことすらなかった僕。それでも悪いことばかりではなく、今ではなんとか新しい職場についていけるようになりました。

東京駅鍛冶橋バスターミナルに並ぶ高速バスと横を通過する東海道新幹線
慣れない環境や仕事に四苦八苦しつつも、体調のほうは順調に回復。残業がない職場ということもありますが、やはり家で毎日寝られるということが一番大きいのでしょう。

さらに現場ではなかなか取りづらかった年休も、早く取れと催促される始末。この環境はものすごくありがたいのですが、逆をいえば現場がかわいそう。井の中の蛙、社内の環境差を知る。そんな心持ち。

ということで、この日は仕事を終えて一旦帰宅、シャワーを浴びて東京へ。銀座INZで夕飯を食べ(銀座で夕飯!何気に初めて!)、有楽町駅近くの鍛冶橋駐車場へ。

ここ鍛冶橋駐車場は、各方面への高速バスのターミナル。この時間帯には続々と夜行バスが入線し、昔の鉄道駅の面影すら漂わせるかのよう。奥を颯爽と通過する東海道新幹線との対比が、鉄道とバスの現代での役割差を体現しています。

東京駅鍛冶橋駐車場ターミナルの行先案内板
待合室へと入れば、一気に包まれる雑多な雰囲気。壁には様々な行先が表示され、ブルートレインが健在であった頃の駅の光景を彷彿とさせます。

これから出張へ向かう人、仕事を終えて帰る人。東京土産を抱える人があれば、僕のようにまだ見ぬ旅先へと思いを馳せる人の姿も。そんな人間模様が凝縮された待合室の空気を吸えば、古から続く交通の姿が見えてくる。

残念ながら夜行列車はほぼ絶滅してしまいましたが、一晩かけて広い列島を移動するという文化は、こうしてバスに確実に受け継がれている。十数年振りに乗る夜行バスの使命を目の当たりにし、早くもこの移動手段に惚れはじめるのでした。

JAMJAMライナーpremium盛岡行き快適な3列独立シート
仕事を終えてからの時間を有効に使いたいと、久々の利用を思い立った夜行バス。お手軽な値段も魅力的ですが、安かろう悪かろうではさすがに利用しようとは思えません。

昼行便での利用は多々ありますが、夜行となると体力が持つかやっぱり心配。なにせ30代半ばなもので、最後に乗った20代とは疲れ方が比較になりません。

ドキドキしつつ車内へと入ると、見慣れた3列独立シートがゆったりと並びます。ですが座り心地はこれまで利用したものよりも格段に楽で、さらに目隠しとなるロールカーテンも完備。光や視線を気にせず、意外にもゆったりと過ごせます。

JAMJAMライナーPREMIUM緑色のバス
バスは定刻に東京を出発し、一路北へと走ります。今回利用したのは『JAMJAMライナー』のPREMIUM車両、盛岡行き。ポイントを付けたかったので、楽天トラベル(高速バス予約)で予約しました。

夜行バスで立ち寄った深夜の佐野サービスエリア
鍛冶橋駐車場を出発して約2時間、最初の休憩地である佐野サービスエリアに到着。免許のない僕にとって、深夜のサービスエリアなど夜行バスに乗らなければ来ることのできない場所。この雰囲気だけでも旅情がぐっと高まります。

この便の途中休憩は、この佐野と国見の2ヶ所。トイレ付バスのためわざわざ降りる必要もありませんが、外の空気を吸って体を伸ばすだけでいい気分転換になります。

不安に思っていた睡眠も、熟睡とまではいかなくとも体の疲れを取るには十分。寝台列車と同じく、何度か乗ればすっかり慣れてしまうことでしょう。

深夜の高速道路をひた走る高速夜行バス。その使命に在りし日のブルートレインの面影を重ね、乗合自動車と呼びたくなるような情緒を感じるのでした。