白銀深山 冬奥羽 ~乳白の夢 1日目 ②~

久々のじゃじゃ麺にすっかり満たされ、盛岡駅東口から岩手県北バスの松川温泉行きに乗車。ここから一路、白銀の世界を目指します。

頭を雲に隠した冬の岩手山
バスは市街地を抜け、国道4号線をひたすら北上。車窓には、雲に頭を隠した岩手山が見え隠れ。今日はもう見られないと思っていたので、その姿を少しでも眺められたことに感謝します。

岩手県北自動車車窓を染める白銀の世界
大更駅を過ぎると車窓は一気に長閑さを増し、あたりは一面の銀世界に。薄雲越しの鈍い太陽に照らされる雪原は、きらきらと細やかな輝きを放ちます。

松尾鉱山資料館に展示された松尾鉱業鉄道の電気機関車
バスはどんどんと標高を増し、松尾鉱山資料館へ。外には旧松尾鉱業鉄道の電気機関車が展示されています。かつて東洋一の硫黄鉱山として栄えた松尾鉱山。雲上の楽園とも称された近代都市は、今は廃墟としてひっそりと高原に残されています。

冬の松川温泉八幡平マウンテンホテルでボンネットバスに乗り換え
盛岡から白銀の車窓を楽しむこと1時間半、八幡平マウンテンホテルに到着。通常はそのまま松川温泉へ直通していますが、冬季のみここでこのレトロなボンネットバスに乗り換え。急勾配と凍結により、この4WDのバスでしか安全に登れないのだそう。

岩手県北自動車冬季のみ活躍するボンネットバスの車内
車内へと一歩踏み込めば、まるでタイムスリップでもしたかのような錯覚に陥ります。半世紀前に造られたいすゞのボンネットバスは、誕生以来未だにこうして現役で旅客を運び続けています。

木の張られた床から響く、悲鳴にも似た高鳴るエンジン音。松川への道は急勾配、急カーブの連続で、非力ながらも必死に登る姿に思わず胸が熱くなってしまう。そんな妄想に耽っていると、辺りはモノクロームの世界に。タイムマシンに乗せられたかのような不思議な感覚に、もうこの世界感を味わえただけでもここへ来た甲斐があったというもの。

僕を降ろして走り去る岩手県北自動車のボンネットバス
15分程の時間旅行を味わい、松楓荘口バス停に到着。ここで降りたのは僕を含めて2人だけ。ボンネットバスがエンジンを高らかに唸らせ走り去ると、辺りを包むのはひたすらな静寂の中ほんのりと聞こえる川音だけ。

冬の松川温泉松楓荘
足元に感じる久々のパウダースノーの感触を楽しみつつ坂を下り、これから2泊お世話になる『松楓荘』に到着。ここを訪れるのは8年ぶり、2度目。前回は震災の直後だったため、この地で感じた色々なことが走馬灯のように甦ります。

松川温泉松楓荘地熱暖房完備の室内
早速チェックインし、お部屋へと向かいます。中へと入るとまず感じるのが暖かさ。各部屋には地熱暖房が通され、ものすごく心地よい暖かさに包まれています。

冬の松川温泉松楓荘名物の洞窟風呂
窓の外は文字通りの銀世界。下を流れる松川は絶えず軽やかな水音を奏で、視界を埋めるのは雪の輝きだけ。印象的なつり橋の先には、このお宿の名物でもある洞窟風呂がひっそりと隠されています。

松川温泉松楓荘巨岩の内風呂
いそいそと浴衣に着替え、8年ぶりの再会となる松川の湯へと向かいます。まずは前回泊まった際に松川の湯の良さを実感した内風呂へ。浴槽の中央に鎮座する巨岩が男女を隔て、その鄙びた雰囲気が一層お湯を味わい深いものとしています。

岩風呂に満たされる、青みがかった乳白の湯。鼻をくすぐる硫黄の香りが示すように、湯の花をたっぷりと含んだ単純硫黄泉が惜しげもなく掛け流されています。Phは5.7。酸性でありながら肌への馴染みがよく、湯上りはつるすべの玉子肌に。

松川温泉松楓荘あつめぬるめ2つの浴槽のある内風呂
記憶と違わぬ松川の恵みに、もうすっかり上機嫌。久々の岩風呂の風情を噛みしめ、続いては新しくできたという内風呂へ。こちらには深めの大きな浴槽が2つ並んでおり、それぞれあつめ、ぬるめに温度設定されています。

そして面白いのが、洗髪洗体方法。新しい施設なのでシャワーがあるのかと思いきや、壁に細長いステンレス製の湯桶が渡され、そこに満たされたお湯を掬って使うというもの。うん、いい!敢えて昔ながらの湯宿の風情を残すこの感じが好き。

松川温泉松楓荘白銀の世界をつまみに湯上りのビールを
前回の記憶通り、いや、それを上回る湯浴み体験。すっかり身も心も絆されたところで、白銀の世界をつまみに冷たいビールを味わいます。窓から入り込むひんやりとした空気、喉を駆け下りる冷たい刺激。堪らない。この瞬間があるからこそ、秘湯への一人旅はやめられない。

冬の松川温泉松楓荘混浴の露天風呂
ビールを飲み、ただひたすらにのんべんだらりと過ごす湯上りのひと時。気が向けば、再び湯屋へと向かえばいいだけ。夕食前の一浴にと選んだのは、前回熱くて入れなかった混浴の露天風呂。

冬の松川温泉松楓荘混浴の露天風呂に浸かり無心に湯と雪景色を味わう
恐る恐る足を入れてみると、驚くほどの適温。この瞬間、僕の幸せは確定した。2泊3日雪見風呂を愉しめるなんて、こんな贅沢があるだろうか。肩までゆっくりと浸かり、ただただ無心に味わう湯と雪景色。湯けむりに世界のすべてが覆われ、自分もいつしか乳白の世界に溶けてしまいそう。

松川温泉松楓荘1泊目夕食
日も暮れ、深い渓谷も闇に包まれたところでお待ちかねの夕食の時間。食卓には美味しそうな品々が並んでいます。まずはお刺身から。〆鯖や北寄貝はもちろん、なかなか食べられないニジマスがこれまた美味。適度な歯ごたえに詰まった鱒の旨味は、サーモンとは一線を画す上品さ。

天ぷらはテーブルに並べられたものから好きなものを取るバイキングスタイル。どれもからりと揚がっており、塩で食べても油臭さは全くありません。タラの芽にふきのとうといった山菜の中で、特にお気に入りだったのが行者にんにく。天ぷらにするとこんなに旨いんだ!甘味と香りが一段と引き立ちます。

お鍋は黒毛和牛のすき焼き。見るからに美味しそうなお肉は、火を通してもとろりと解ける柔らかさ。しっかりとサシが入っていますが、甘味があるものの嫌な脂っぽさはありません。

岩魚の塩焼きもしっかりと焼かれた凝縮感が美味しく、煮物や和え物といった小鉢もそれぞれ丁寧に作られたほっとする味わい。写真に撮り忘れましたが、〆にはもちもちのひっつみ汁も出され、味覚もお腹も心も満腹に。

松川温泉松楓荘夜のお供にあさ開純米吟醸夢灯り
余は満足じゃ。8年前にも感じたのですが、ここのお食事は本当に美味しい。いわゆる豪華絢爛な旅館料理とは違いますが、地のものを地元の人の感覚で丁寧に美味しく調理したといった印象。誤解を恐れず言いますが、心温まる田舎のおもてなし、そんなほっこりとした味わいなのです。

パンパンになったお腹を落ち着け、あとは恒例の湯と酒に酔う時間。そのお供にと選んだのは、盛岡のあさ開が造る純米吟醸酒、夢灯り。100%ひとめぼれで醸したというお酒は、華やかな香りがありつつもすっと消えるような飲みやすさが魅力的。

松川温泉松楓荘夜のお供に菊の司純米酒吟ぎんが仕込
静かに更ける松川での夜。露天から見上げる空にはこぼれそうなほどの満天の星が瞬き、その煌めきに見守られつつ味わうにごり湯はただ至福の一言。

部屋へと戻り、お次のお供を開けることに。盛岡は菊の司酒造の純米酒、吟ぎんが仕込。あさ開とともに大好きな銘柄ですが、しっかりとしたお米のふくよかさを感じさせる飲み口が美味しいお酒。

酒を含み、ぼんやりと眺める漆黒の世界。窓を覗けば辺りは深い雪に覆われ、今自分が銀嶺の懐に抱かれているという不思議な実感。そして露天風呂へと向かえば、松川の産む大地の恵みに抱かれる。

自然と同化するような得も言われぬ心地よさ。雪の清らかな白さと、湯の穏やかな深い乳白。それぞれに身を委ね、奥羽山脈の一角で繰り広げられる幸せな夜は更けてゆくのでした。

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