白銀深山 冬奥羽 ~乳白の夢 3日目 ①~

冬の松川温泉松楓荘で迎える最後の静かな朝

松川の地で迎える最後の朝。今朝も深い谷底は乳白の気配を漂わせ、一面の雪景色は一層幻想的な雰囲気に。

あっという間の、2泊3日。早速露天風呂へと向かい、この地での最後の朝風呂を静寂と冷たい空気の中心ゆくまで味わいます。

冬の松川温泉松楓荘2泊目朝食
ピリリと張りつめるような朝の寒さの中味わう、松川の湯の柔らかな温もり。この地での新たな思い出を硫黄とともに今一度全身に取り込み、お腹もすいたところで朝ごはんを。

今朝もご飯にピッタリなおかずがずらり。お浸しにされたほうれん草は、驚くほどの肉厚さと風味の濃さ。そういえば、以前訪れた東八幡平のホテルで食べたほうれん草のしゃぶしゃぶも美味しかったことを思い出します。八幡平周辺は、美味しいほうれん草が育つ場所なのでしょう。

焼き魚のホッケはこんがりパリッと焼かれ、切り干し大根の煮物もご飯によく合ういい塩梅の味付け。写真には写っていませんがこの後目玉焼きと長芋の千切りも加わり、今朝もおひつのご飯を全て平らげてしまいました。

冬の松川温泉松楓荘別れ際にもう一度振り返る
満腹を落ち着かせ、松川の濁り湯との最後の逢瀬をもう一度。そして迎えた、出発の時間。帳場で精算を済ませ、晴れ空に輝く雪の世界へと踏み出します。

県道へと続く、銀に輝く上り坂。谷底を流れる松川との比高も増し、沢音もいつしか耳に届かなくなってしまう。後ろ髪を引かれるように振り返れば、静かな沢の底にひっそりと佇む、渋い宿。

いい宿だった。また来よう。8年前は青葉輝く新緑の時期でしたが、この一面の銀世界もまた最高のひと言。期待を込めて再訪し、その思いを裏切らない。いい湯、いい味、いい空気感。また一つ、再々訪すべき宿ができてしまった。必ず来るその日へと期待を寄せ、再び前を向いて歩きだします。

岩手県北自動車現役のボンネットバスで松川温泉を去る
坂を上りきったところが松楓荘口のバス停。時折車が通る以外、無音の静寂の世界でじっとバスを待つ。そんなちょっとした孤独をしばらく味わっていると、遠くから高鳴るエンジン音とチェーンの音が近づいてきます。

八幡平マウンテンホテルでバスを乗り換え昭和レトロなボンネットバスを見送る
岩手県北自動車』の誇る、半世紀以上も現役で走り続けるボンネットバス。一歩車内へと乗り込めば、昭和へと飛び込んでしまったかのような錯覚を感じさせるほどのレトロな空間が。

そんな古き良き交通の面影を残す小型のバスに揺られること15分、冬季限定の乗り換え地点である八幡平マウンテンホテルに到着。辺りはスノーリゾートの雰囲気に包まれ、先ほどまでいた松川での体験が幻であったかのような不思議な感覚に襲われます。

岩手県北自動車盛岡行きバスの車窓の広がる雪原と南部片富士岩手山
乗り継いだ現代的な大型バスに、半世紀という時代の流れを感じてしまう。そんな妄想にひとり耽っていると、車窓には大きく輝く雪原の先に聳える南部片富士が。岩手山、今回も本当にありがとう。お陰でいい岩手路を歩めました。そしてまた、必ず逢いに来るから。

冬晴れに輝く盛岡駅
乳白の夢を見させてくれた松川から走ること約2時間、県都盛岡駅に到着。空には冬の太陽が輝き、先ほどまでいた白銀の世界が嘘のような温かさ。

盛岡駅直結駅ビル内の大同苑盛岡フェザン店盛岡冷麺
これから向かうは、秋田県。その前に最後の岩手グルメにと選んだのは、もちろん盛岡冷麺。数あるお店の中から今回は、駅ビル内にある『大同苑盛岡フェザン店』に入ってみることに。

冷たいビールで喉を楽しませつつ待つことしばし、待望の盛岡冷麺が運ばれてきます。まずはスープをひと口。岩手の誇る前沢牛やいわて牛からダシをとっているというスープは、しっかりとした牛の旨味の詰まった味わい。この若干濃い色味は、しょう油ではなく牛スープ自体の濃さの現れ。

素のスープを味わい、続いてキムチを加えてみることに。盛岡冷麺は辛さが選べるほか、自分で調整できるキムチ別盛りの「別辛」が注文できるのも嬉しいところ。キムチと共に辛い漬け汁も適量加えると、一気にさっぱり旨辛味に変化。冷麺には、やっぱりキムチが必須です。

そして待望の麺を。半透明の太い麺は、その見た目通りの弾力の良さ。ですが決して噛み切れないものではなく、心地よい歯ごたえと強烈なのど越しを両立した独特の食感が堪りません。

この麺、僕好み。盛楼閣やぴょんぴょん舎に続いてまたひとつ、駅近で冷麺の美味しいお店を見つけてしまった。これからは盛岡に来た時の嬉しい悩みが一層深まりそう。

盛岡駅からE6系こまち号で田沢湖へ
じゃじゃ麺に始まり、冷麺で終わる。理想ともいえる形で盛岡に別れを告げ、次なる目的地である田沢湖を目指します。そんな僕を連れて行ってくれるのは、鮮やかな赤が印象的なE6系。こまち号としてすっかり秋田路の顔となったこの車両は、その優美な姿に何度見ても目が釘付けに。

秋田新幹線E6系こまち号車窓に広がる湿原と八幡平の山並み
こまち号は市街地を抜けて標高を徐々に上げ、いよいよ日本の背骨に挑む準備を始めます。その道中、車窓を彩るのは白銀に輝く八幡平の山並み。僕を白く染めた松川温泉は、あの深い山の中。そこにいたことが嘘のように、いまは遠くに煌めき横たわるのみ。

秋田新幹線E6系こまち号はいくつもトンネルを抜け秋田県へ
勾配とカーブが増すほどに、深まる奥羽の山深さ。こまち号はいくつものトンネルと鉄橋を越え、ついに秋田県へと突入。川の流れが自分の慣れ親しんだものとは反対であることに、分水嶺を越えて日本海側へとやってきたことを強く実感。

岩手の宿にと選んだのが、8年ぶりとなる松楓荘。そして秋田の宿として選んだのは、これまた9年ぶりの宿泊となるあの秘湯。今回の旅は、ある意味思い出を確かめ、進化させる旅。奥羽の山懐で見る次なる夢へと胸を高鳴らせつつ、山を下るこまち号に身をゆだねるのでした。

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