白銀深山 冬奥羽 ~乳白の夢 6日目 ①~

冬の乳頭温泉郷鶴の湯で迎える最後の朝

3泊過ごした鶴の湯で迎える、最後の朝。昨晩から降り続けた雪は辺りをすっかり白く染め、新雪のみがもつ純白の柔らかい清純さに包まれています。

冬の乳頭温泉郷鶴の湯最後の朝風呂を楽しむ
まだ眠い目をこすり、早速朝風呂へ。滞在中、何度も通ったこの道。ここを行き来し乳白の夢に浸れるのも、残り僅か。

早い時間、まだ人もまばらな大きな露天。雪国特有の静けさの中に響く、湯の落ちる音。肌に感じる心地よい温度と、鼻をくすぐる硫黄の香。いつまでもこんな時間が続けばいいのに。そんな叶わぬ願いが頭をよぎるときは、それはとてもいい時間を過ごしているという動かぬ証。

冬の乳頭温泉郷鶴の湯朝の青空に映える秘湯の宿
ゆったりとした湯浴みで朝の空気を存分に取り込み、ほくほく顔で部屋へと戻ります。その道中を彩るのが、この鄙びた風情。必要十分、素朴の美。日本らしい建物を白い雪が一層美しく染める様は、この時期ならではの贅沢。

冬の乳頭温泉郷鶴の湯3泊目朝食
部屋で朝飯前のごろ寝を愉しみ、お腹もすいたところで本陣へ。今朝もお膳には美味しそうなおかずがずらりと並んでいます。

今朝のメインは、岩魚の南蛮漬け。程よい甘さの南蛮酢に漬けられた岩魚は骨まで柔らかく、頭からしっぽまで丸ごと食べられます。小鉢はひじきに白菜のお浸し、そして好物の玉子と納豆。それぞれ飾らぬ美味しさで、ほかほかのあきたこまちがいくらでも進んでしまいます。

本当にここのご飯は美味しい。味付けは気持ち濃い目ですが、それを郷土の味として楽しめる人にはおすすめ。山間の宿という限られた食材の中で、趣向を凝らし様々な味わいで食事を楽しくしてくれる。お湯と風情もさることながら、この食事自体も鶴の湯の魅力のひとつと言って間違いありません。

冬の乳頭温泉郷鶴の湯名残惜しくもチェックアウト
満腹を何とか落ち着かせ、最後の湯浴みを。3泊しても、あっという間。9年ぶりの鶴の湯は、客層は変われど宿の力はそのままだった。ここで過ごした冬らしい時間を反芻するように、心残りのないよう乳白の湯を噛みしめます。

ついに訪れた、チェックアウトの時。帳場で精算をし、送迎バスへと向かいます。そして振り返り、もう一度目に焼き付けるこの眺め。滞在中、何度も愛でたこの光景ともしばしのお別れ。新緑や紅葉の時期もいいだろうが、やっぱり僕は冬に来たい。奥羽の白き雪が、この宿の持つ風情を最上のものへと昇華させているに違いない。

羽後交通田沢湖駅前行きバス
マイクロバスは唸りをあげつつ谷を這い上がり、アルパこまくさへ。ここで『羽後交通』の田沢湖駅前行きバスに乗り換え一路駅を目指します。

白銀に染まる羽後交通バスの車窓
一夜の雪は世界を白一色に染め、その降雪量の多さに日本の背骨であるということを今一度実感。これほど静かで清らかな世界とも、今年はこれでお別れ。白銀に染まる冬という季節を噛みしめるべく、この清冽さを目に心に焼き付けます。

羽後交通角館行きバス
アルパこまくさから銀世界を駆け下りること30分ちょっと、田沢湖駅に到着。ここからこの旅最後の目的地である角館へと向かいます。本来なら秋田新幹線に乗るのが王道かと思われますが、ピッタリの時間のバスがあったため、再び『羽後交通』のお世話になることに。

羽後交通角館行きバスの車窓から眺める貯木場
狭い山間をお互い譲り合うかのようにして進む、鉄路と角館街道。絡み合い、そして寄り添うようにして深い山を進みます。そして時折現れる、大きな貯木場。ここ秋田が未だ林業現役の地であることを強く思わせる光景に、旅情というものが一層増してゆくよう。

岩手に秋田、日本の背骨を味わう旅。5泊6日という長き旅路も、残すところあと僅か。今季最後の冬を味わうべく訪れる武家の街を目前に、期待と、そして相反するほんのりとした名残惜しさを胸に感じるのでした。