空と谷、二つの誘湧。~初夏の奥羽 山の湯旅 3日目~

初夏の須川高原温泉で迎える爽やかな朝

昨晩は久々の旅の疲れも手伝い、どぶろくを半分ほど飲んだところで早めの就寝。ぐっすりと寝たため、この空のように晴れやかな目覚めを迎えました。

長年の風雪に耐えてきた旅館の赤い屋根越しに見る、抜けるような青空と蒼い山並み。その中央には、左右に裾野を優雅に伸ばす鳥海山の姿が。頂きに雪を残した姿を見るだけで、心に一服の清涼が訪れます。

初夏の青空と須川高原温泉大露天風呂の美しい青白いお湯

湯宿で迎えた朝の贅沢といえば、もちろん朝風呂。高原の朝の空に負けぬほど碧さを湛えたお湯が体中を包み込んでくれます。

それにしても、この透明感のある空の青さ。この須川高原温泉の魅力は、お湯だけではなくこの環境があってこそなのでしょう。湯治とは、温泉の効能だけではなく、転地効果も含めて効果が表れるものだそうですが、この爽快感を味わえば、その意味が嫌という程身に浸みて感じられます。

青磁のような美しい色と細かい湯の花が印象的な須川高原温泉大露天風呂のお湯

お湯の力と環境の力、それぞれがぴったりと噛み合ったとき、その温泉場が唯一無二のものになる。僕がこれまで訪れ、忘れ得ぬ思い出となった温泉は、みんなみんな、そうでした。

そしてもちろん、須川高原温泉もまたしかり。最高のロケーションに決して負けることの無い、最高の温泉。色の鮮やかさ、爽やかさ、美しさもそうですが、この細かい湯の花と硫黄の香りが、僕の心を一層の高みへを連れて行ってくれます。

須川高原温泉バイキングの朝食

朝風呂で心身の芯まで目覚め、朝食の時間に。今日は大勢泊まっているので、バイキングとなりました。

松前漬けや切り干し、昆布の煮物や鮭など、思い切り和のおかずを選択。やはり朝食は和食でなきゃ。眼前に広がる青いパノラマと美味しいおかずで、お腹一杯ごはんを食べてしまいました。

須川高原温泉から眺める晴れ渡る初夏の空と大日岩

大満足で部屋へと戻る途中には、澄み渡る青空の下佇む大日岩の眺めが。もうこの空の清らかさだけでも、高原であることが伝わります。

この後は、カメラを手放し終日のんびりと。温泉と開放的な空気の力のためか、溜めこんだ疲れが出てしまったようで、お風呂へ数回行った以外は、昼食もとらずに寝て過ごしてしまいました。

せっかく初めて泊まることのできた、念願の宿。もったいないなぁと思いつつも、これが温泉と転地療養の効果なんだと信じてみることに。

実際、連休を取れたのも半年以上振り。張りつめていた、そして自分に蓋をしていた何かが、この素晴らしい環境と穏やかな時間に流れたのでしょう。ビックリするほど、布団から出られませんでした。

須川高原温泉夕暮れの空

布団とお風呂の往復で費やした日中も終わり、山には夜の気配が忍び寄ってきました。いやぁ、連泊して良かった。連泊だからこそ、溢れ出る疲れの波に呑まれ、その波が去って行くまでじっと過ごすことができました。

温泉に入ってここまでしんどくなったのは稀。でもおかげで翌日以降は体も気持ちも幾分軽くなりました。これってやっぱり、ここのお湯と自然の持つ力、なのでしょうね。

須川高原温泉2日目夕食

昼食もとらずに静養していたので、もうお腹はぺこぺこ。待望の夕食をとるため、レストランへと向かいます。この日の席は、窓に正面を向いた特等席。奥羽の深い山並みが段々と色を失う姿をつまみに、美味しいお酒をいただきます。

テーブルには、すでに美味しそうな品々が。お刺身のホタテは肉厚で甘く、茗荷竹の味噌漬やきのこの酢の物、根曲がり竹がお酒を進めます。

そして食前酒のヤマモモ酒の奥に隠れているのは、僕の大好物であるミズの水物。もうこれだけでも、この季節に東北へ来た甲斐があるというもの。昨日に引き続き、ミズの歯ごたえから溢れる幸せを噛み締めます。

須川高原温泉揚げ物根曲がり竹かにまんじゅう

ミズの心地よい食感をつまみに地酒を味わっていると、これまたお酒に合いそうなお皿が運ばれてきました。

薄いあんの掛かったかに真薯は優しい美味しさ。今日の揚げ物は、昨日とは雰囲気の違う変わり揚げ。れんこんのはさみ揚げは食感も良く。オクラの揚げ物にはプチプチと甘いとうもろこしが詰められています。

そしてやはり目を引く、奥の立派な根曲がり竹。6月上旬、もうシーズンも終わりかな?と思っていたので、嬉しいスターの登場にテンションも上がります。

熱々のところを、皮を剥いてパクリ。ホクホク、そしてしゃきしゃき、その二つの食感が時間差で現れ、もう日本酒を飲むなというほうが無理。添えられたもろみみそも、筍の香りを引き立てます。

須川高原温泉牛のすき焼き風

そして今日のお鍋は、牛のすき焼き風。程よい濃さのたれが浸みたお肉と玉ねぎ、糸こんを卵にくぐらせて食べれば、説明不要の美味しさ。

連泊して少しだけ心配なのが、夕飯の献立。でもこちらのお宿は、昨日と今日で全く違ったメニューを用意してくれました。ボリュームもあり、最後のご飯は少しで充分。そして一緒に出されるなめこ汁がまた旨い。大ぶりななめこをつるんと啜れば、地酒で火照ったお腹を癒してくれます。

須川高原温泉夕闇迫る空

重たいお腹を抱えて部屋へと戻ります。廊下の窓からは、陽の名残を惜しむかのように、未だ弱く光る空。太陽の沈んだであろう方向からは、何とも言えぬ色彩のグラデーションが、うっすらと弱々しく延びています。

そしてその微妙な色合いを覆うように広がる、薄い雲。それはまるで空へと広げた柔らかいレースのようで、思わず足を止めて見入ってしまいます。

自然の織り成す繊細な色彩と、黒々と横たわる奥羽の山々。シルエットとなった鳥海山にみとれ、夜の入口へと立ちました。あとはもう、本とお酒と温泉だけ。

よし決めた、今日はとことんカメラを手放そう。ということで、3日目の記事はこれにて終わり。何にも邪魔されることなく、残りのどぶろくと本、そして美しいにごり湯に心底浸るのでした。

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登山道から眺める大日岩と須川高原温泉
2016.6 岩手/宮城
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