空と谷、二つの誘湧。~初夏の奥羽 山の湯旅 5日目 ④~

日本三景松島五大堂横げんぞう

3度目の松島。海岸や遊覧船といった海の松島しか知らなかった僕。今回初めて二つのお寺を訪れ、新たな松島の魅力を発見しました。

東北の霊場を静かに味わったあとはもちろん、東北の海の恵みを豪快に味わいます。今回も、会社の仲間と訪れた『げんぞう』にお邪魔します。

日本三景松島五大堂横げんぞう焼き牡蠣と地酒もっきりセット

こちらは海を見ながらベンチで焼き牡蠣1個から楽しめるので、ちょっとしたつまみ食いにも便利。僕は今回、もっきりセットを注文。ひとつ200円の焼き牡蠣が2個、そして選べる地酒のもっきりがついて、なんと900円。こりゃぁお得。

そのお得感もさることながら、まず目を引くのは、この牡蠣の膨らみ具合。ぱっつんぱっつんに身の詰まった大ぶりの牡蠣に、食べずともその眺めだけで、もっきりが進んでしまう。

目の前に広がる松島湾と、むっちりとした牡蠣。その良き眺望を充分に楽しんだところで、ひと口ぱくり。噛むと中からとめどなく海のエキスがほとばしり、その潮が引く前にもっきりを投入。あぁ幸せ。本当に旨い。口の中で暴れる潮流に、いつまでも身を任せていたい。

日本三景松島五大堂横げんぞうアカザラ貝の酒蒸し

かきだけでもボリュームがありますが、もう一品三陸の恵みを。追加で一緒に注文したアカザラ貝の酒蒸しが時間差でできあがりました。

初めて食べるアカザラ貝。その名の通り貝殻は赤茶色で、内側はほんのりとした薄紫。その貝の中にあるのは、ほたてに似た小さな貝柱とひも。

その小さな身を箸で取って口へ。すると出ました、濃い磯の香りと旨味!ほたてのようにどこか上品でバランスの良い感じではなく、磯の岩に張り付いているのが容易にイメージできそうな、磯っぽさ。

それでいて磯臭いという訳では決して無く、荒削りな岩場の海の味といった印象。東京では目にすることの無い、地元ならではの野性味ある旨さ。危うくもっきりおかわりするところでした。

丸文松島汽船で松島から塩竈へ

舌で海の恵みをたっぷり味わった後は、今度は五感でその海を感じることに。松島レストハウスの横にある桟橋から、『丸文松島汽船』の芭蕉コースに乗船。1時間に1本の運航、事前予約もできるので旅程が組みやすいのも嬉しいところ。

遊覧船は離岸し少しずつ遠ざかる松島の街並み

あおばと名付けられた大きな船に乗船し、窓をいっぱいに開けて出航を待ちます。程なくしてエンジンが高鳴り、ゆっくりと離岸します。

少しずつ遠ざかる松島の街並み。歴史深い仏閣に、濃厚な旨味を抱く海の幸。その余韻に後ろ髪を引かれ、少しだけ感じる切なさ。船出というものはいつも、いくばくかの哀愁を含むもの。

日本三景松島奇岩に生える松

そんな微かなセンチメンタルも海風に溶けてゆき、すぐに目の前には数々の島が。変わった形に浸食された岩の上に茂る松。これこそが松島湾の名の由来そのもの。

日本三景松島幾多もの奇岩が並ぶ松島湾

僕の願いが通じてか、いつしか空も晴れ渡り、その碧さを松島の海に落とします。初夏の強い日差しに焼かれた頬をなでる爽やかな海風。日本三景松島は、海岸から眺めるだけではもったいない。こうして船に乗って渡ってこその、松島湾です。

見渡す限り島影が並ぶ日本三景松島湾

湾内外に大小260以上もの島々が浮かぶ松島湾。はるか遠くにも、島と呼ぶにふさわしい大きさのものから、奇岩という表現の方がしっくりくるような小さなものまで、見渡す限り松を頂く島が浮いています。

日本三景松島美味しい牡蠣を育むたくさんのかき筏

そんな島々と共に松島湾の風情をより濃いものにするのが、数多く浮かぶかき筏。

小学生の時に初めて来た松島。日本三景というからには、どれだけきれいな海が広がっているのだろうとワクワクしてやってきました。するとそこは、意外にもにごった海。僕は子供心ながらガッカリして、両親に余りきれいじゃないね、と感想を言ったことを思い出します。

でも今なら分かる。この低い透明度は汚いどころか、豊かな海の証であるということが。リアス式の複雑な海岸を持つ松島湾には、山からの豊富な栄養が注ぎ込む。その栄養こそが旨いかきを育てるのです。

日本三景松島遊覧船から眺める奇岩と青い海、カモメと青い空

震災の前年に松島を再訪するまで、海は青く透明であることがきれいであると信じて止まなかった僕。濁った海は淀んだ海。東京湾や江の島の海が僕にとってのそのイメージで、だからこそ澄んだ海に憧れたものです。

でも大人になって久々に訪れた松島湾は、濁っていても美しい碧さを湛えていました。かき好きで乗船の直前にも美味しいかきを食べていた僕は、その時になって初めてこの海の色の意味を、少しだけ解かった気がしたのです。

日本三景松島の美しさは遊覧船から眺めてこそ

豊かな恵みを含んだ碧い海に浮かぶ、白い岩肌。自然が創り上げた不思議な造形を見ていると、その島自体が生きて姿を変えてきたかのように思えます。

空と海、二つの青の境界に浮かぶ、松の生えた島々。松島湾は、遊覧船に乗ってこそ。声を大にして言いたくなる爽快な航海に、僕の心まで晴れてゆくのでした。

空と谷、二つの誘湧。~初夏の奥羽 山の湯旅~
登山道から眺める大日岩と須川高原温泉
2016.6 岩手/宮城
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