冬の山陰味な旅 ~サンライズで暁の、その先へ。3日目 ④~

三朝温泉依山楼岩崎

この旅のメインイベントである、三朝温泉で過ごす夜。そんな大切な夜にと選んだのは、今夜の宿である『依山楼岩崎』。三朝川沿いに建つ、それは立派な旅館です。

ここのところ、僕は秘湯ばかりに足が向いてしまい、この手の旅館はすっかり疎遠に。大きな建物、丁寧な接客、豪華なロビーに圧倒され、チェックインするだけでも挙動不審になってしまいそう。秘湯という劇薬の副作用が見事に現れてしまいます。

なんとか平静を装いチェックインの手続きを終え、お茶を頂いてから部屋へと向かいます。ドキドキ。

三朝温泉依山楼岩崎最上階の客室

仲居さんが押した、エレベーターの最上階のボタン。部屋へと通されると、思わずテンションが上がってしまうような広くて明るい、眺めの良い清潔感溢れる立派なお部屋。室内の電気がついているにもかかわらず、それすらかき消してしまうほどの光が、大きな窓から溢れてきます。

でも待てよ、僕はカニに重点を置いたので、お部屋は一番安い本館にしたはず。これがたまに聞く、旅館のご厚意によるグレードアップなの?でもツーランク位上の部屋のはずだし・・・。

と、仲居さんが去った後すぐに予約内容を確認してしまう僕なのでした。あぁ、三十路にもなってこのちっちゃさ。いつから僕はこんなになってしまったのだろう・・・(泣)

三朝温泉依山楼岩崎最上階の客室から望む雪の三朝温泉街

窓の外には、白い帽子をかぶって輝く三朝の湯の街が。この景色だけでも、いつまで見ていても飽きることはありません。

昨年の湯の川温泉以来の立派な旅館についはしゃぎ気味の気持ちを落ち着け、浴衣に着替えます。目指すは世界有数のラジウム泉である三朝の湯。このお宿に決めた理由のひとつが、その名湯を湛える大浴場でした。

太陽に輝く冬の三朝川

残念ながら写真は無いのですが、回遊式大庭園風呂山の湯と名付けられたお風呂は、右の湯と左の湯に別れ、男女入れ替え制になっています。

チェックイン時は右の湯が男風呂。こちらは古きよき湯治場、といった雰囲気の設えになっており、大型旅館にありがちな「大きいだけが取り柄」の殺風景なものとは一線を画します。

大きな内風呂を除いて全て掛け流しの浴槽で構成され、それぞれひとつひとつが雰囲気を異にし、好みの場所でのんびり名湯に浸かることができます。

さすがは名湯といわれる三朝の湯。丁度良い温度のお湯にじっくり浸かっていると、逆上せや暑苦しさは全く感じないのに驚くほどの温まり具合。湯上りはいつまでもポカポカしています。

そして特筆すべきは、肌への馴染みのよさ。美肌の湯といわれるところはたくさんありますが、ここは本当にそれを実感しました。一泊でプリプリ卵肌。乾燥肌の僕には嬉しい効果で、思わずお土産の温泉水を買って帰りたくなるほど。

無色透明無臭のさらりとしたお湯ですが、このお湯に秘められた力の片鱗を見た気がします。いやぁ、1泊だけとはもったいない。そう思えるお湯こそが、自分に合ったいいお湯というものだと思います。

雪がちらつく冬の三朝温泉

翌朝入浴した左の湯は、文字通り庭園のように緑の中にお風呂が点在するつくり。こちらのほうが新しそうで、趣向を凝らしたお風呂が並びます。

それぞれの浴槽で、異なる雰囲気の中湯浴みが楽しめて良いのですが、ひとつ少しだけ残念な点が。右の湯とは真逆で、こちらはみんな循環ろ過式。

気になるほどの消毒臭がするわけではないのですが、やっぱり掛け流しとは肌の当たり、浴感が違う。使える源泉量に限りがあるなら、右の湯と左の湯で循環と掛け流しの割合を同じにすればいいのにな、と思いました。これはお宿へのアンケートでも書いたところ。

と言っても、初日に三朝のお湯の良さを味わってしまったが為に感じた、ちょっとした感想。左の湯もいいお風呂であることは間違いありません。

お風呂の写真が無い代わりに、部屋からの眺めをお供に書いてきました。窓の外は見る見る白い粒が舞うようになり、しまいには軽い吹雪状態に。折りしも日本列島に寒波が襲来。昨年のカシオペアの悪夢が脳裏をかすめます。

冬の三朝温泉夜景

晴れから雪へ。湯上りに天気の移り変わりをのんびり眺めているうちに、時も移り変わりすっかり夜になりました。

三朝の湯にすっかりご満悦な僕。さあこれからは、この旅のメインイベント、アイツとのご対面。逸る気持ちを抑え、食事会場を目指すのでした。

三朝温泉依山楼岩崎前菜

食事処は全て個室になっており、落ち着いた雰囲気の中のんびり食事を楽しめます。席に付くと、様々な料理がきれいに並んでいます。まずは湯葉豆腐蟹添え。豆腐の味を引き立てる上品な味のジュレが掛かり、蟹が華を添えます。

三朝温泉依山楼岩崎前菜

竹かごを外すと、様々な味覚がちょっとずつ。こういうの、のんべえには堪らないのです。たこは柔らかく煮られており、スモークサーモンとクリームチーズの相性もぴったり。

いかの塩辛にはうにが入っているそうで、濃厚な旨さはこれだけでも酒が進むこと請け合い。貝柱ときのこの炒め煮や蟹寿司、いかやお魚ななど、どれをとっても美味しいものばかり。

三朝温泉依山楼岩崎活松葉がに入りお造り盛り合わせ

大きな盆に美しく盛られたお造り盛り合わせ。平目、いか、縞あじはどれも歯ごたえが良く、東京で食べるものとは全くの別物。引き締まった身に詰まった旨味を感じれば、お酒が進まないわけがありません。

三朝温泉依山楼岩崎花が咲いた活松葉蟹お造り

そして、ついに!!待ちに待ったコイツとのご対面。冬の日本海を騒がす松葉がにのお造りです。

きれいに花が咲いた身は、そのひとつひとつがお米のようにぷっくらとし、見るからに美味しそうな光沢を放っています。

しょう油をごく少量付け、上を向いてあ~ん。歯でしごくようにすると、お米のようなプチプチの身が弾け、中から濃厚ながらも繊細な甘いジュースがほとばしる。直送の活け蟹だからこその、新鮮さを味わう贅沢。こんな幸せが、ひとり3本も楽しめます。

三朝温泉依山楼岩崎のどぐろ蕪仕立て

初めての松葉がにに早くもやられ気味。そんなときに運ばれてきたのは、ホッとするようなお椀。のどぐろ蕪仕立て。上品なだしの中に、のどぐろの蕪蒸しとしんじょうが入ります。

やはりこちらも日本海の幸であるのどぐろ。ふかふかで優しい身には、食感と同じくほんのり優しい脂と旨味が詰まっています。

三朝温泉依山楼岩崎とろける鳥取和牛鍋

続いては鳥取和牛鍋。先に食べた相方が「うわっ」と言うので、思わずびっくりしてどうしたの?と聞いてみると、「溶けた・・・」の返事。

なんだよ、その三流グルメリポーターみたいなコメント、と思いつつ僕も一口。すると、「ほんとだ、溶けた。」と思わず口をついて出てきてしまいました。

僕は別に「甘い」「溶ける」「柔らか~い」ものが美味しいものという認識はもっていませんが、このお肉には溶け方に美味しさがありました。溶けるから美味しい、のではなく、美味しい溶け方をするのです。

お肉にありがちな筋っぽさはまるで無い、滑らかな口どけ。溶ける際にお肉から放出される旨味と脂の程よい甘味。牛は好きでそれなりに食べていますが、この手のお肉は生まれて初めて食べました。

鳥取和牛、恐るべし。東京ではそれほどメジャーではありませんが、とても美味しいお肉です。

三朝温泉依山楼岩崎タグ付き活松葉ガニ温泉蒸し

大きな土鍋に隠れていたのは、活松葉蟹の温泉蒸し。テレビで良く見るタグ付きの姿に、思わずテンションはMAXに。あれ?僕ってそんなにカニ好きだったっけ?と思わず自問自答してしまいます。このかにには、それだけのオーラがあるという証。

一般的に出される茹でがにとは違い、こちらは三朝の温泉水で蒸し上げたもの。お湯に浸けない分、かにの旨さが流れ出ることなくふっくらジューシーな仕上がりに。

フォークでかき出してみると、今まで見たことの無いほどのきめの細かさ。口に含めば、所謂かにで想像するあの繊維っぽい食感は全く無く、口中でするりと解けてゆく繊細さ。まるでサンライズから見た山陰の細雪のよう。ほのかに紅を散らした海の細雪は、口の中で甘さと香りを残して消えてゆきます。

かにみそは全く臭みがなく、クリーミーな美味しさ。半分はそのまま食べ、半分はお酒を入れて・・・。あぁもうどうにでもなってしまえ!そう言いたくなるほどの美味しさです。

三朝温泉依山楼岩崎活松葉がに酒塩焼き

続いてまたまたど~んとかに。活松葉蟹の酒塩焼きが焙烙に載せられてやってきました。

こちらは先程の蒸しがにとは違い、香ばしさと磯の香りを楽しめます。身は焼いた分若干締まり、旨味が凝縮されています。ここは好みが分かれるところでしょう。僕は蒸しがにのほうが好き。でももちろん、この焼きがにも絶品です。

隣には油物のふぐとかきの変わり揚げが添えられており、またそのかきの美味しいこと。かきの食べられない相方にふぐをあげたのでふぐの味は分かりませんが、かきを独り占めできて大満足。

味の付いた衣は、薄いながらもザクっという程のしっかりした硬さで、その歯触りの直後にレアなかきのエキスがとめどなく溢れてきます。

三朝温泉依山楼岩崎焼き蟹の身をミソで和えて

蒸しがにでは身と味噌それぞれそのままを楽しんだので、焼きがにではこんな贅沢も。味噌は焼かれて香ばしさをまとい、そこへ身を絡めれば相乗効果で旨さ倍増。こうしたほうが絶対旨い!と断言してしまいましょう。

三朝温泉依山楼岩崎蟹雑炊

いや~、もう食べられませ~ん!というところで最後の一品。薄味で仕上げられた蟹雑炊は、お腹が一杯でもするすると食べられてしまいます。

三朝温泉依山楼岩崎梨入りゼリー寄せ

最後は鳥取名産の梨が入ったゼリー寄せでさっぱりと。今回は、「境港直送活け松葉蟹懐石」というプランだったので、かにがど~ん!とかに中心の豪快なメニューを想像していました。

確かに、かに中心であったことは間違いないのですが、他のお料理がこれほどたくさん出て、それもみんな、みんな美味しいとは想像していませんでした。

かにを除いても旅館の夕食として立派に成り立つ品々。そこへ活き松葉蟹がひとりあたり1杯ずつ。文句なく大満足の内容です。

そして驚いた、松葉がにの美味しさ。北海道に馴染みのある僕にとって、かにといえばタラバと毛がに。申し訳ないがずわいはどうしても味もワンランク下、というイメージを今日の今日まで持っていました。

海の幸は苦手なのに松葉がには食べていたという相方。そんな相方はタラバを食べれば大味だ、毛がには美味しいとは思うけど松葉よりは・・・、といつも言うので、タラバ毛がに好きの僕としては「何だよ!結局はずわいじゃん」と面白くない気持ちでいました。

そんなときに浮上したのが、今回の山陰旅行。そんなに松葉松葉というならば、一度位食べてお手並み拝見してやろうじゃないか、と半ばおちょくった気持ちでやってきました。そして結果は、僕の惨敗。

僕が今まで口にしたずわいはなんだったのだろうか。いや、他のずわいとは明らかに違うから、松葉がにとして名を上げているのでしょう。ずわいと松葉は全く違う生き物にさえ感じてしまう。それほどの旨さが松葉がににはありました。

松葉がにさん、ごめんなさい。今度からはタラバや毛がにと差別なんかしませんから。だからまた食べさせてね♪

三朝の夜に鷹勇純米しぼりたて

松葉の旨さを嫌というほど思い知らされ、お腹も心も大満足。しばらくは動けそうも無いので、敷いてあった布団でゴロゴロし、お腹が落ち着くのを待ちます。

頃合いを見て再び三朝の湯を堪能し、部屋で鳥取地酒を愉しむことに。今夜のお供は鳥取県の中部に位置する琴浦町にある大谷酒造の、鷹勇純米しぼりたて。無濾過、生酒といった僕好みの文字が躍ります。

口に含むとまず感じたのが、パイナップルっぽい甘酸っぱさ。フルーティーでちょっとした酸味が心地良く、何とも美味しい。島根、鳥取と山陰は美味しい酒どころなのですね。

三朝の名湯と、日本海が育んだ絶品の松葉がにの余韻に浸る夜。ずっとこの余韻に溺れていたい。そんなことすら思わせる、鳥取での幸せな夜は更けるのでした。

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冬の山陰味な旅~サンライズで暁の、その先へ~
三朝温泉依山楼岩崎タグ付き活松葉ガニ温泉蒸し
2012.2 島根/鳥取/京都
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