煮干し香る中華そばに舌鼓を打ち、そろそろ弘前へと向かうことに。ちょうど良い時間の便があったため、撫牛子バス停から『弘南バス』に乗車します。
終点の弘前バスターミナルまでは行かず、手前の和徳十文字バス停で下車。交差点を右折し、弘前城を目指します。お堀の手前、弘前文化センターの前には津軽藩祖である為信公の銅像が。津軽のお殿様、今年もこうして無事にこの街へと戻ってくることができました。
それにしても、矢立峠の懐はあれほど涼しかったのが嘘のよう。肌に感じる津軽の夏に汗を掻きつつ歩くこと15分、弘前公園に到着。築400年以上という三の丸東門から、弘前城内へと入ります。
夏らしい豊かな緑に覆われた三の丸を進んでゆくと、ぽつんと現れる小さな石橋。江戸時代後期に架橋されたこの橋は、弘前城内では唯一の石造りの橋だそう。
橋上から中濠を眺めれば、早くも色づきはじめる紅葉の姿が。紅へと向かうグラデーションが、緑に染まるお堀端に彩りを添えるよう。
鮮やかな木々の色味を愛でつつ石橋を渡り、東内門へ。こちらも先ほどの東門と同時期に建てられたものだそうで、その渋い佇まいからは長きに渡り津軽の風雪に耐えてきた歴史が滲むよう。
東内門をくぐり二の丸へ。桜の鮮やかな緑に映える、赤い欄干がうつくしい下乗橋。その先には、曳屋され本丸の内側に佇む天守の姿。
修復中の石垣へと目をやれば、工事はだいぶ進み石が積まれている真っ最中。長く続いた修復工事ですが、石垣の積み直しは今年で終わるそう。
人々で賑わう二の丸を北へと進み、四の丸へ。二の丸の北東にあたる中濠沿いには、歴史を感じさせる渋さの滲む丑寅櫓。
賀田御門跡の坂を下り広場に出れば、去年まではずらりと並べられていた石垣の石がきれいさっぱりなくなっている。修復工事の初めから弘前に通っているため、このがらんとした姿は感慨深い。
歩く人も少なく、静かな雰囲気に包まれた四の丸。繁る木々の袂を流れる二階堰に沿ってのんびり歩き、西濠と蓮池濠に挟まれた土手へ。右手に延々続くのは、桜の並木。春になれば、それは壮観な光景が広がることでしょう。
その名の通り、蓮で覆われた蓮池濠。夏らしく、柔らかな桃色をしたうつくしい花をたくさん咲かせています。
深い緑に豊かな水辺、ひっそりとした雰囲気に包まれる蓮池濠。艶やかな蓮の花に別れを告げ、坂を登り南内門から三の丸へと進みます。
赤い欄干が印象的な杉の大橋を渡ると、うっそうと緑の茂るなかに建つ未申櫓が。平たい印象の東側から一変し、起伏に富み深い木々に覆われる西側。同じお城とは思えぬ表情の差を、初めて知ったときは驚きました。
10年前に着手され、9年前に天守を曳家。それ以来ずっと続けられてきた石垣修復工事も、もう終盤。再来年には天守は元の位置に戻され、その翌年に完了予定。再びお堀端の天守が見られる日が、今から待ち遠しい。
こうしてこのお城を訪れるのも、もう何度目だろうか。それなのに、毎回新たな表情で迎えてくれる。今年もこうして無事にこの街へと帰ってくることができた感慨を胸に、追手門をくぐり弘前城に別れを告げます。
祭りまで、あと数時間か。僕に与えられたチャンスは今夜限り。どうやら雨の心配はなさそうだ。お堀端を染める緑の豊かさに目を細め、今年もねぷたに逢えることの悦びを噛みしめます。
たか丸くん、すっかり長い付き合いになったね。12年前、一目で恋に落ちた弘前ねぷた。それ以来、毎年こうして通うことになろうとは。僕はもう、ねぷたなしでは生きられぬ体になってしまったよ。
かわいいたか丸くんにご挨拶し、目的のお店を目指して進みます。途中には、重厚さを漂わせる瀟洒な姿の青森銀行記念館。古き良き建物が点在する弘前は、歩いていて楽しい街。
その目的のお店というのが、明治15年創業というゑびすや履物店。僕にとってなくてはならない品が手に入る、本場津軽でも貴重なお店。
女将さんのお元気そうな姿に安心しつつ、今年も津軽塗の下駄を購入。見た目のうつくしさもさることながら、足馴染みと耐久性の高さが魅力のこの下駄。春から秋まで、暑い東京での暮らしには欠かせない。
おろしたての下駄を鳴らし、軽快に歩く弘前の街。あと数時間後には、あの熱さに再び逢える。足元に感じる涼やかさとは裏腹に、こころの奥には早くも滾りを感じるのでした。
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