初めての高知で迎える穏やかな朝。それにしても、昨日は本当に飲んだ。僕は好きで純米系を選んで飲むのですが、土佐の酒はお米の味がしっかりあっても重たさを感じさせない。だからきっと、みんなぐいぐいいけるのだろう。
ちょっとばかり早めにチェックアウトし、高知駅へ。今日は半日バスと路面電車移動。駅前の観光案内所とさてらすで『MY遊バス』の桂浜券を購入し、北口側のバスターミナルから『とさでん交通』の桂浜線に乗車します。
高知駅から市街地を抜け、海辺の町の情緒を感じつつ走ること約40分。最後に小山を越えて坂を下り、終点の桂浜バス停に到着。浜へと向かう前に、まずは小高い丘へと登り坂本龍馬像にご挨拶。
あまりにも有名な銅像の姿に募る、ここまで来たという実感。幕末の志士の姿を眼に焼き付け、浜へと下りる道へ。
龍頭岬へと下ってゆく道からは、美しい円弧を描く東浜とその先に霞む高知の山々。何度もくどいようですが、これが人生初高知。こんなに海と山が近接しているとは思わなかった。
階段を下りきり浜辺へと立てば、全身を撫でゆく心地よい海風。弓なりの砂浜、黒々と繁る松。この眺めは、きっと昔からそうは変わっていないことだろう。
ざざーん、ざざーん。繰り返し、寄せては返す白い波。その音色はあまりにきれいすぎて、レースのように広がる波にこころを奪われる。
太平洋に臨む桂浜。今でこそ飛行機で海外へ飛べるようになりましたが、昔の人はこの遥か先にあるはずの外国というものをどう想っていたのだろう。
江戸から明治に代わり一世紀半、それが長いのか短いかは分からない。でもその間に、計り知れないほどの変化があったことは間違いない。そんな時の流れも、この桂浜は変わらぬ姿で見てきたことだろう。
心地よい波音を聴きながら、砂の感触を踏みしめつつ歩く浜辺。振り返れば、暖かい色をした大海原とパステルに染まる四国の山並み。網膜を通して心へと沁みるこのうつくしさを、表す言葉を僕は知らない。
北側の龍頭岬と対になるように、南端には荒々しい岩でできた龍王岬が。小さな橋を越え登ってゆくと、赤い小さな祠が。ここ海津見神社で、初めて桂浜へと来ることのできたお礼を伝えます。
岬の上には、外国の主要都市までの距離と方角を示したプレートが。生まれてこの方一度しか日本を出たことない僕にとって、この距離はあまりに遠すぎる。
外国にも、行ってみたい場所があるにはある。でもなぁ、国内だけでも手が回らないんだよな。だって、日本にもこうして初めて訪れ感動できる地がまだまだ無数に眠っている。やっぱり僕は、そちらのほうが気になって仕方がない。
桂浜で雄大な海と遥かなる時の流れに思いを馳せ、MY遊バスで次なる目的地へ。当初はそのまま市街地まで戻るつもりでしたが、観光スポットを巡ってくれるバス、せっかくなので途中下車してみることに。
桂浜から走ること約25分、五台山展望台バス停に到着。すぐ近くからのびる園路を歩き、五台山公園に設けられた展望テラスへと向かいます。
テラスへと登れば、高知の街並みを一望のもとに。延々と連なる山々、その合間を流れる川に沿って形成される市街地。実際訪れてみて、こんなに山が近いと初めて知ることができた。
視線を南へと移せば、鏡のように穏やかに広がる浦戸湾。その複雑に入り組んだ地形は、まるでジオラマを見ているかのよう。
五台山公園からの展望を満喫し、すぐ近くに位置する竹林寺へ。薄曇りの陽射しを浴び輝く緑が、ふっとこころへと清涼を連れてくる。
西門から境内へと入り、うつくしい池を眺めながら本堂へ。ここ竹林寺は、四国霊場八十八カ所の第三十一番札所。優美な曲線を魅せる屋根が印象的な本堂は、江戸時代初期に建てられたものだそう。
重厚なお堂にお参りし、その隣に位置する池を囲むように広がるお庭へ。目の覚めるような鮮やかな緑の世界に、思わずはっと息を吞む。
たくさんのお地蔵様の背後には、凛と聳える五重塔。これは昭和55年に総檜造りで再建されたもので、高知県内では唯一の五重塔なのだそう。
豊かな緑に染まる境内を進んでゆくと、柔らかい表情をした鹿の石像が。かつてこの山にはたくさんの鹿が住んでいましたが、疫病によりいなくなってしまったそう。御本尊の文殊菩薩の遣いとして大切にされていた歴史が、こうして今へと遺されています。
穏やかさを感じさせる空気に包まれる、静かな境内。仏教に疎い僕ですが、こうして四国のお寺にお参りするといつかはお遍路をしてみたいと思えて仕方がない。
ここ竹林寺は、本当に緑のきれいなお寺。柔らかな色味をした苔、瑞々しさを感じさせる青紅葉。もうしばらくすれば、きっと緑と紅の対比がうつくしいことだろう。
緑豊かな竹林寺を後にしバス停へ向かおうとすると、門前からのびるへんろ道を発見。
試しに少しばかり降りてみると、その険しさに圧倒されてしまう。お遍路さんは善楽寺から7㎞近い道を登って竹林寺にたどり着き、今度は禅師峰寺へと向け6㎞以上も下ってゆく。そう思うと、うっすらと願っていた「いつか」が来たとき、自分が歩き通せる気がしない。
市街地にこんもりと聳える五台山でもこうなのだから、昨日越えてきた深い山々をゆく道のりなど想像つかない。
初めて訪れた徳島と高知。これまで訪れた瀬戸内とは異なる四国の表情に触れ、ようやく知るその山深さ。延々と続く山々を目の当たりにし、健脚を保たなければと思いを新たにするのでした。
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