おいしいカレーで満腹になり、自室に戻りうとうとごろごろ。食べて飲んで浸かって眺めて、そして転がる。それしかしていないのに、あっという間に流れてしまう優雅な時間。
15時過ぎ、らいらっくは新潟港内へ。前回乗船したときは、終着の景色として眺めたこの街。でも今回は、まだまだ先がある。この船とまだ一緒に居られることが、ただただ嬉しい。
古くから栄えた新潟港は、信濃川の河口に設けられた港。日本で一番長い川、信濃川。船尾からは、その大河の終わりが霞んで見えています。
雄大な川幅を、ゆったりと進むらいらっく。巨体をぐるりと回転させ、甲板員の無線に従い慎重に岸壁へ。程なくして、最終寄港地である新潟港に無事接岸。ここで下船する多くの貨客を見送ります。
ここでも積み下ろしと清掃を手早く終え、1時間の停泊の後定刻で出港。さらば新潟、また来る日まで。さあここからは、いよいよ未知なる航海の始まり。信濃川から海へと出たらいらっくは、大きく左に舵を取り一路福井県を目指します。
大半の船客を下ろし、少しばかりの乗船客を迎えたらいらっく。先ほどまでの賑やかさはどこへやら、祭りのあとのような静けさが漂う船内。
後はもう、夜へと向かい暮れゆくだけ。その準備にと夕刻前の湯浴みを愉しみ、船窓に流れる海原を眺めながら冷たいビールを。
18時前、レストランの夕食営業開始を告げる放送が。今夜は2泊目で持ち込みの食料はないため、レストランタヒチで宴を愉しむことに。北海道の地酒男山くーる片手に、就航地の味めぐりへと出かけます。
道産牛ローストビーフのサラダは、しっかりとした肉々しさのある赤身の味わい。しょう油と玉ねぎベースのソースが、野菜やお肉をより男山に合わせてくれる。
今年は、新潟航路50周年、秋田航路25周年を迎えたそう。それを記念した新潟秋田グルメフェアから、いぶりがっこ入りポテトサラダを。ごろごろと散りばめられた、角切りのいぶりがっこ。食感と風味の良さに、男山が進むに決まっている。
基本的にはケースに並ぶものを自分で取っていくカフェテリアスタイルですが、調理の必要なものは出来立て熱々が提供されます。渡されたベルが鳴り、受け取り口へ。頼んでいた栃尾の油揚げのボリュームに、まずは驚いてしまう。
船上だし600円だし、半分くらいかな。そう思っていたら、丸々一枚どんと鎮座。しょう油を垂らしてひと口噛めば、カリッ、さくっと広がる香ばしさ。これじゃ洋上の宴会、捗りすぎて困っちゃうよ。
やっぱり船旅はいいなぁ。北海道、秋田、新潟と、これまで経てきた航海をおさらいするように噛みしめるひとりの宴。いつかは船で、何ヶ月も旅してみたい。豪華絢爛なクルーズ船にも憧れはあるけれど、らいらっくがその夢を叶えてくれたらな。
豪華さやおしゃれさより、僕にとってはこの船の居心地の良さが魅力的。そんな夢見心地の晩酌の仕上げは、新潟生姜醬油ラーメンで〆ることに。
しっかりとしょう油を感じる濃いめのスープ、そこに清涼感を与えるおろししょうがの豊かな風味。つるつると味わい視線を上げれば、暮れゆく空と海原という贅沢。
やっぱり、新日本海フェリーのレストランは最高だな。船上での至福を満喫し、宴の続きはプロムナードで。北海道ワインのおたるナイヤガラ、ここちよい甘味や酸味がありながら、すっきりと飲みやすい白ワイン。
ちびりちびりとおちょこでワインを飲んでいると、いつしか夜が訪れ漆黒の世界に。何も見えない船窓をぼんやり眺めているうちに、ついに降りだした雨。明日も明後日も、北陸地方は雨天の予報。よくここまで持ってくれたと、雨に濡れる甲板を眺めて感謝します。
白ワインを飲み干し、この旅最後の船上での湯浴みへ。この非日常も、今回はこれでおしまいか。時間が取れなければ、決して味わえぬ船旅。次がいつになるかは分からない。だからこそ、心ゆくまで愉しもう。
再びプロムナードへと戻り、宴の続きを。漆黒の海を噛みしめ、ゆっくり味わうふらのワイン。適度な酸味の中に感じる赤の渋味が、船上での夜を溶かしてゆく。
赤ワイン片手に身を置く、誰もいない静まり返ったプロムナード。もうすっかり、らいらっくの虜だな。決して新しくはないが、大事にされている。22年という歳月で重ねてきた航海が、空気感としてこの船全体に宿っている。
まだまだらいらっくとの逢瀬を愉しんでいたいが、明日の敦賀着は5:30の予定。早起きしなければならないため、大人しく今夜という時間を終わりにしよう。
本当に、いい船だな。自室のベッドに寝転がり、背中に感じるエンジンの鼓動。ずっとこんな日々が続いてくれたなら。そんな叶わぬ願いを思いつつ、らいらっくとの心地よい一体感にいつしか深い眠りへと落ちてゆくのでした。
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