今回初めて見学する、岩手銀行赤レンガ館の内部。続いては、現在は多目的ホールとして貸し出されている旧会議室へ。漆喰の白さと時を経た木の艶めきの織り成す空間には、シンプルながら重厚な華やかさが漂います。
この建物の全体を通して流れる、白と木目の対比。これまで訪れてきた古い洋館とはひと味違う統一感ある美意識に、凛とした気品というものすら感じてしまう。
進むごとに、角度を変えるごとに新たな美しさを魅せる岩手銀行旧本店。高い吹き抜けを見下ろすように並ぶ重厚な扉の奥は、現役時代には支店長室や応接室だった場所。そんなことはないとは思いつつ、ついつい倍返しのあの曲が脳裏に浮かんでしまいます。
古い木枠の窓越しに望む、赤レンガの優美な姿。東京駅との血縁を感じさせる、緻密に組まれた煉瓦と石材。赤と白の組み合わされた端正な姿からは、一本筋の通った意思というものすら滲み出てくるかのよう。
吹き抜けからの荘厳な眺めを堪能し、再び1階へと向かいます。すると、重厚なアーチの先には天井の美しい装飾と木の鈍い輝きが印象的な階段室が。
先ほど登ってきたものとはまた違った意匠の、楕円の連なる優美な階段。手すりには松ぼっくりのような装飾が施され、大切に磨かれた木材のみが放つ独特な照りが印象的。
小気味良い音を響かせる階段を下り切り、ふと見上げればこの光景。木目の織り成す飴色と、漆喰の放つ清楚な白。そのふたつの競演こそが、この建物に一貫して流れる美しさのテーマなのかもしれない。
ぬかりなく、細部まで散りばめられる装飾たち。直線と曲線に彩られた建具や壁面には、重厚さと繊細さが共存する明治時代の美意識というものが詰まっているかのよう。
堅牢な石材と煉瓦で組まれた外壁もさることながら、足元に眠る基礎もまたこの建物を支える縁の下の力持ち。床の一部からは、煉瓦積の基礎を垣間見ることができます。
窓から差し込む秋の陽と、大きな吹き抜けを照らす白熱灯の競演。自然と人工、それぞれの持つ色合いが溶け合うように満ちる巨大な空間は荘厳さすら感じさせるよう。
内部をくるりと一周し、最後の部屋である旧現金係客溜へ。最初に通った窓口は融資係、こちらは出納係の窓口として使われていたそう。こんな重厚な空間の中で受け取る現金、きっとその重みは少なからず増して感じたに違いない。
そういえば僕の社会人になったころまでは、銀行の手続きといえば一部の郵送以外は窓口だった。それが今、ネットバンキングが当たり前。更にはATM要らずのキャッシュレスの時代に。お金の大切さは決して忘れていないつもりだけれど、この銀行が銀行たる威厳を感じさせる空間に、今一度背筋の伸びる思いを抱いてしまう。
木と漆喰、そして石材が生み出す岩手銀行旧本店の重厚な美。印象的な空間を演出するその三者の揃うゲートに見送られ、この建物を後にします。
外へ出て、今一度その端正な外観を。内外共に統一感ある優美な姿に、一本筋の通った凛とした気品のようなものすら感じてしまう。それがきっと、当時の人々の持つ美意識そのものなのかもしれない。
これまで何度も外観を愛でつつも、何故今まで入ろうと思わなかったのか。そのことが悔やまれるほど、溜息の出るような美しさに溢れていた。
内面を知ると、その外側もより味わい深く感じられる。盛岡の地で一目惚れした赤レンガの新たな魅力に触れ、一層この街を好きになるのでした。
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