釧路から湿原や摩周湖、硫黄山に屈斜路湖と道東の名所を巡ってきたピリカ号。最後の見学地である阿寒湖を出発し、釧路市街を目指して最後のドライブ。しばらくは見納めとなる道東の車窓を1時間ほど噛みしめ、たんちょう釧路空港で下車します。
旅の〆にピリカ号、本当に良い選択だった。あのときたまたま見つけた自分を褒めてやりたい。レンタカーなしでは到底成し得ぬ道東の湖めぐり、ガイドさんの解説を聴きつつ眺める高い視座からの雄大な車窓。さらには空港で降ろしてくれ、もはやこれは何とも贅沢なリムジンバスだ。
普段考えの及ばぬところに、自分のまだ知らぬ旅の可能性が眠っている。前回のねぷた旅で利用した空路もそうだけれど、定期観光バスという存在もこれからは積極的に調べて活用したい。
それにしても、今回はたくさんの「初めて」と「懐かしい」に出逢えたな。26年ぶりに再会した釧路駅、それでいて初めて触れた釧路の街。屈斜路湖や湿原の雄大さは当時と何ら変わりはなく、霧の摩周湖や青く輝く阿寒湖とも今回新たに出逢うことができた。
はぁ、善き旅だった。充実しすぎたからこそ訪れる、旅の終わりの虚無。こころにぽっかりと開いた穴を自覚しつつ、道東の動物たちに別れを告げ空港内へ。ゆっくりとお土産を買い、よき時間になったところで『レストランたんちょう』で最後の宴を。
16時過ぎに空港に到着したため、飛行機の時間までは余裕たっぷり。まずはお得なビールセットを注文し、この旅最後のクラシックを味わいます。
一緒に出てくるおつまみは、枝豆にチーズ、塩辛と呑兵衛が好きな王道なもの。特に塩辛は麹と一味が効いており、そのままでもチーズと合わせても酒に合う旨さ。
冷えたクラシックに北の大地の名残り惜しさを流し、続いてこの旅ですっかり好きになった釧路の酒福司を注文。一緒に合わせるのは、釧路名物だというザンタレ。ひとり旅には嬉しいハーフがあるのも嬉しいところ。
北海道といえばの有名どころ、鶏の唐揚げの一種であるザンギ。それにたれをかけたのがザンタレで、どちらも釧路発祥なのだそう。ザンギって、釧路生まれだったんだ。
福司で舌を湿らせ、大ぶりな塊をがぶり。猫舌には少々辛い熱さですが、それをも超える旨さがやってくる。カリッとした厚めの衣、それに抱かれた鶏のジューシーさ。玉ねぎベースのしょう油だれが味に幅をもたせ、乗せられた生の玉ねぎがまたいいアクセントに。
ザンタレや塩辛つまみに、ちびちび噛みしめる福司。滑走路をぼんやりと眺めながら、あの夏の旅を振り返る。
初日は美瑛の丘の雄大さに感動し、生まれて初めてのペンション泊。翌日は美瑛ノロッコ号に少しばかり乗り、旭川からオホーツクに延々揺られて網走泊。
次の日は監獄や天都山といった網走名所を見て回り、美幌から丹頂カラーが印象的な阿寒バスで美幌峠や屈斜路湖を経由し川湯温泉へ。たった一泊でにきびが軽くなり、びっくりしたことが懐かしい。
川湯からは釧網本線で南下。車窓越しにオオワシや丹頂を目の当たりにし、塘路では気球に乗って上空からこころに刻んだ釧路湿原の雄大さ。ノロッコ号でたどり着いた釧路駅では名物駅弁のいわしのほっかぶりを買い、それを味わいながら札幌まで愉しむ3時間超の振子車両の大爆走。
札幌ではみそラーメンを食べ、深夜に発つ急行利尻のB寝台にひと晩揺られて稚内。最果ての地で眺めた樺太の影に生まれて初めて国境を感じ、その晩は石油の浮いた豊富温泉に驚愕し。
翌朝、急行サロベツで旭川へ、そこから札幌を経由し一気に函館まで。その晩には霧ひとつない函館山の夜景をこころに灼きつけ、翌日に幕を閉じた一週間にもわたる壮大な旅。当時発売されていたフリーきっぷのおかげで交通費は抑えられたけれど、それにしても高校2年、それもひとりでよく回ったものだ。
あの夏の日々、北海道のあちこちに想い出の種を蒔いてきた。どうやらそろそろ、それらを刈り取るときが来たようだ。こうしておじさんになった今、釧路を訪れて出逢えた数々の初めてと、懐かしいあの場所との再会がこころに沁みる。
そんな旅も、もうすぐ終わり。本当に最後の〆にと、冬に訪れた池田で生まれたトカップの赤を片手に釧路名物のスパカツを。
結構な割合で注文が入るスパカツ。運ばれるたびにもうもうと上がる湯気とジュージューとした音が往来し、きっとみんなもそれにつられて頼んでしまうのだろう。
さあ近付いてきたぞ。僕をめがけてやってくる、食欲を刺激する見た目と音。期待を膨らませつつ、やけどをしないように恐る恐るひと口。うんこれは、間違いなくみんな好きなやつ。
一面を覆う大きなカツは、揚げたてサクサク。たっぷりと掛けられたミートソースは気持ち甘めで、ひき肉や大ぶりの玉ねぎといった具の存在感もバッチリ。
そして何より、熱々の鉄板が心憎い。直に接して焼かれた部分はパリッパリの香ばしく、その湯気で蒸された部分はプリプリの熱々。思った以上のボリュームに大丈夫かな?と思いましたが、そんなことは杞憂に終わり最後まで飽きることなくおいしく完食。
ザンタレで福司をキメて、トカップ片手にスパカツど~ん!最後の最後までお腹とこころを釧路に満たされ、ついにやってきたお別れの時間。涼しい風の吹き渡る送迎デッキに向かえば、僕を東京へと連れて帰る北海道の翼がスポットへ。
おとといの夕方、浮足立った僕を乗せ着陸したエア・ドゥ。その折り返しの便に乗り、出発の時をぼんやり待つ。ウィングレットには、カートに乗ったベア・ドゥちゃん。そうか、今回も行きと帰り同じ子が僕を運んでくれるのか。
僕の住む東京より、はるか東に位置する釧路。8月というのに18時半前にはすっかり暗くなり、飛行機は闇の中羽田に向け離陸。
前回の帯広に続き、今回もエア・ドゥのセールを知ったのは偶然だった。そして運よく予約できなければ、もしかしたら釧路を訪れるのはもっと後になっていたかもしれない。
ベア・ドゥちゃん、今回も善き旅を本当にありがとう。おかげさまで冬と夏、まだ知らぬ北海道の魅力に出逢うことができたよ。前回も帰京後しばらくオビヒロスになったけれど、今回もクシロスになりそうだ。そう思えるほど、この2泊3日は充実してたよ。
見知らぬ街で初々しい感動に染まり、若き日に辿った想い出の地で変わらぬものに気づかされ。その両方を味わうことができるのは、昔も今もこうして旅を愛しているからだ。
26年前、高校生の胸に刻まれた感動は、色褪せることなくまた逢える日を待ってくれていた。だからきっと、今日会った初めてがきっと次へと繋げてくれる。だから旅することを、やめられない。溢れ出るこの温かい想いを、ほたてスープの優しい味わいがすっとこころに溶かし込んでくれるのでした。
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