高知城に色濃く残る藩政時代の空気感に圧倒され、その余韻を抱きつつそろそろ空港へと向かうことに。その前にもう一度だけ、この威容を眼にこころに灼きつけます。
お堀のそばには、初代藩主の山内一豊公の銅像が。こうしてようやく訪れることができ、短い時間ながらもその魅力を感じることができた高知の街。再び戻ってくることができるよう、その雄々しい姿に再訪の願いを託します。
MY遊バスのほかに、とさでん交通路面電車の市内区間が乗り放題となる一日券。せっかくなのでここから駅まで、ちょっとばかり路面電車の旅を愉しむことに。
高知城前電停から、新型のハートラムⅡに乗車。路面電車ならでは、大通りの中心から望む独特の車窓。車と並走しつつ昨日ほろ酔い気分で歩いた街並みを眺めれば、まだまだ離れがたいという欲張りな気持ちが湧いてしまう。
はりまや橋電停で南北を結ぶ路線に乗り換え、高知駅前へ。次に来たのは、とさでん交通の主力である600形。歴史を感じさせる車窓越しに望む、土佐鶴のネオン。白昼夢のように過ぎゆく姿に、昨夜の煌めきを重ねてみる。
就役後、60年以上もこの街を行き来してきたこの車両。足元から響く吊り掛けモーターの唸り、併用軌道上を揺れながら走る無骨な乗り心地。良い。やっぱり良い。古き良き路面電車の正しき情緒に、旅の最後が彩られる。
あっという間の路面電車の旅を終え、高知駅前電停に到着。ほらやっぱり、僕の経験則は間違いではなかった。路面電車の走る街は、いい街だ。その記憶のひとつに高知を深く刻み、再訪を誓いつつこの街に別れを告げます。
高知駅前バスターミナルからは、2社の空港連絡バスが運行。時刻表は統合されておらずぱっと見分かりにくいのですが、両社を合わせると結構な頻度で運行。ちなみにターミナル内の券売機も別になっていますが、乗車券はどちらの会社でも使えるので安心。
『高知駅前観光』のバスに乗り込み、あとはもう空港を目指すだけ。何度味わっても、この瞬間は寂しくなる。旅の終わり特有の感傷に浸り、幾度も行き来したはりまや橋交差点を眺めます。
バスは市街地を抜け、車窓にはのどかさを感じるように。温暖な南国土佐を思わせる、温かな午後の西日。秋空の下横たわる五台山の姿に、濃厚だったこの半日を反芻する。
高知駅から走ること30分ちょっと、空の玄関口である高知龍馬空港に到着。バスの本数も多く、市街地ともこの距離感。鉄道好きではありますが、高知を訪れるなら飛行機が便利だな。
少し早めのバスに乗ったため、飛行機まではまだまだ時間たっぷり。外観を撮影しそろそろ空港内へと思ったところ、案内板におもしろい表記が。お遍路着替えコーナー、四国らしいな。
本当に、今回の旅は偶然だった。あの日飛行機のセールに気付かなかったら。破格の航空券を活用することに囚われ、ダイナミックパッケージのページを開けてみなければ。だからこそ、阿波と土佐の地に呼ばれたのだと思いたい。
空港でお土産を見て回り、17時前に早めながら夕食をとることに。空港内には郷土の味を楽しめるお店が2つありますが、今回は『司高知空港店』にお邪魔することに。
はりまや橋近くに本店のある、創業100年以上という歴史をもつ土佐料理のお店。色々と食べたいものがあったのですが、ボリューム満点のお昼がまだ存在感を放っていたため厳選したこの3品を注文。
帆立型をした熱々の土佐天は、ぷりぷりとした食感と甘味を感じる上品なすり身の旨味。その上のそぼろ状のものは、ほぐした鰹をにんにく風味で味付けしたうまかつお。しっとりとした食感と凝縮された鰹の味わいは、お酒のみならずご飯にもばっちりの旨さ。
司名物だという鯖寿司は、三色の盛り合わせで。西日本であることを感じさせる塩〆のさば押寿司は、ほどよく脂ののったさばの旨味とゆずの効いた酢飯が好相性。焼さば寿司はしっかりと香ばしく焼かれ、炙りとはまったく異なる存在感。
そして僕の一番のお気に入りだったのが、さば押寿司高菜巻。もっちりとした酢飯、そこに旨味を与えるさば。それらを塩気のある高菜の葉がまとめ、しゃきしゃきとした青菜の風味が堪らない。
青のりの天ぷらや鰹の心臓であるちちこなど、他にも気になるものはたくさん。でもまあいいや、また来ればいいんだから。今回初めて知ることのできた、高知の魅力。そんな街には、少しばかり心残りがあったほうがいい。それがまた次来るための、口実になるのだから。
今回も、本当に善い旅だった。いつかはと思いつつ、これまで訪れる機会のなかった徳島と高知。その2県を結ぶ道中には、あまりにも新鮮で濃密な初めてが詰まっていた。
これだから、旅は病みつきになる。これまで訪れたことのある、讃岐と伊予。そして今回初めて辿った、阿波から土佐への旅路。これでようやく、四国全県に触れることができた。そして思う。この島は奥が深すぎる、と。
穏やかな瀬戸内海に黒潮流れる太平洋、そして内陸は想像以上の山深さ。これはもう、またここへと戻ってくるしかない。人生半ばにしてようやくスタートラインに立てた気がする、四国という大地への旅。パンドラの箱を開けてしまったという悦びに胸を震わせ、羽田へと戻る全日空機に乗り込むのでした。
コメント