11月下旬、多くの人々で賑わう東京駅。僕はここから、再び旅に出る。向かうは蔵王、若き僕らがスキーバスに揺られて訪れた想い出の地。あの絹のような湯に再会したく、この旅を決行することに。
それにしても、今年は本当に旅に恵まれた。1月の棚ぼた北海道から始まり、これで15回目。ちょっとばかり、やりすぎだな。そう思いつつ、年休を取らずとも2泊3日できる今の環境を思い切り享受すべきと本能が言っている。
まぁ、いいさ。きっとそのうち、そんな環境も変わってしまうだろう。だからこそ、今は心の赴くままに旅したい。そんなどうでもいい自分への許しを冷たいビールで腹へと落としていると、つばさ号は軽快に荒川を渡り無事東京脱出。
そういえば、これだけ東日本の新幹線に乗っているというのにつばさ号での旅立ちは初めて。これまで福島から乗車したことはありましたが、新鮮な旅の始まりにいつも以上に浮足立つのを感じます。
E3系に乗るのも、久しぶり。ミニ新幹線ならではのコンパクトな車体に込められた旅人の高揚感に揺蕩いつつ、僕もそんな華やかさの一員となることに。JR東日本クロスステーションの調製する、東京駅開業110周年記念弁当を開けます。
蓋を開ければ、このぎっちり感。正直いうと、東京駅フェチというだけで選んでしまったこのお弁当。ですが結論から言えば、選んで大正解の満足感ある一折。
左半分には新幹線の起点となる東京の味、右にはその色とりどりの俊足が目指す地に因んだ品々が散りばめられています。明けの空腹に負け、まずは存在感ある海老天を。ほどよい塩気と海老の風味に、東京の酒嘉泉が早速旨い。
下の煮物は、福井県。里芋ころ煮は甘めでこく旨、一方の厚揚げ煮たのはだしと豆の風味が広がる上品な味わい。そのお隣は、これから向かう山形といえばの玉こんにゃく。甘すぎないしょう油味がしっかりと芯まで沁みており、この対比だけでも味付けの地域差を上手く表している。
右上は、青森県産のにんにくを使用した牛バラ肉玉葱炒め。十和田のバラ焼きをイメージしたであろうこの一品、ほんのり香るにんにくと玉ねぎの甘味がバラに沁みてこく深い味わいに。
110周年の焼印が入れられた玉子焼は、僕の好きな甘いやつ。ほっくりとした食感と広がる優しい味わいに、やっぱ駅弁にはこれだよとひとりにやけてしまう。その下は、福井名物のソースカツ。ほどよい甘辛をまとったチキンカツが、不思議とまた嘉泉に合ってしまう。
秋田名物のじゅんさいが入ったもずく酢で口をさっぱりとさせ、仕上げに東京の味が載せられたご飯エリアへ。煮穴子は柔らかく優しい味わいで、はぜ甘露煮は山椒がふんわり香る最高の酒のアテ。パリポリと心地よい食感の酒悦のつぼ漬けも心憎く、あっという間に一合を飲みきってしまう。
そして〆に味わう、深川めし。もっちりとした茶飯を彩る、牛蒡炒り煮と生姜の効いたあさりの深川煮。どちらも素材の風味を活かすすっきりとした塩梅に仕立てられ、ゆでわけぎの風味と甘味がまたいいアクセントに。
旨い深川めしを味わい、残りの海苔ご飯とつぼ漬けの抜群の相性を愉しみ。そんな大満足の一折の最後に味わうのは、新潟の笹団子風味焼きまんじゅう。
若々しいよもぎの風味が鼻へと抜け、中のあんこも粒つぶほっくり。笹川流れの塩のおかげか風味をより濃く感じ、日持ちのしない笹団子の代わりになる新潟土産として売って欲しいと思う旨さ。
今年は旅まみれだったので気づきませんでしたが、改めて考えれば新幹線で東北入りするのは半年ぶり。飛行機もものすごく便利だけれど、やっぱり僕はこの感じが好き。旨い駅弁を食べつつ、地酒を傾け。車窓には那須から東北の山々が次々と流れ、それを愛でつつこれから向かう地へと思いを馳せる時間が堪らない。
安達太良山が見えたらあっという間、郡山を出て吾妻連峰を望む福島に到着。ここで相棒のやまびこ号に別れを告げ、つばさ号は単独で新庄を目指します。
福島を出たつばさ号は、西へと大きく曲線を描く高架を下り在来線へ。先ほどまで275㎞/hで疾走していたのが嘘のように、秋の田園を軽やかに駆けてゆくE3系。新在直通のこのギャップ、何度味わってもぞくぞくする。
軽快に駆けていたつばさ号もいよいよ速度を落とし、勾配と曲線の連続する板谷峠へ。ミニ新幹線化されたときに改良されたとはいえ、よくこんなところに鉄道を通したものだと感嘆させられる。
奥羽本線の難所を越え、置賜盆地へと入り再び速さを増す車窓。あれは飯豊連峰だろうか、遠くにうっすらと見える銀嶺の姿。東京はまだ暖かいけれど、ここはもうすぐそこまで冬が近づいているんだな。
米沢の街を擁する広々とした置賜盆地に別れを告げ、再び山へと挑み始める奥羽本線。両側に山が迫る様子は、ここを鉄道が通る必然性を証明しているかのよう。
冬の手前、終わりゆく秋の色味に染まる山々を愛でていると、つばさ号はついに山形盆地へ。遠くに見える白く染まる山は、月山だろうか。ようやく二度目の乗車を迎えたこの区間、新鮮な車窓に好奇心が止まらない。
もうまもなく、山形駅に到着。山形県は何度も訪れていますが、山形駅に降り立つのはこれが初めて。未知なる地へと足を踏み入れる。旅の醍醐味ともいえるその瞬間を目前に、晩秋の車窓を食い入るように見つめるのでした。
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