1月中旬、羽田空港第2ターミナル。2024年の旅初めを迎えた僕は、大空への旅立ちに心弾ませこの巨大な飛行場に佇んでいた。
いつもなら、じっとりとした湿気の中Tシャツ短パン島ぞうりで眺めるこの光景。でも今日は、重たいダウンに身を包み冷たい風に吹かれてここに居る。そのことが未だ幻のように感じられ、飛び立つジェットの音を耳にしてもなお現実感というものが湧いてこない。
それもそのはず。最後に飛行機で北へと飛び立ったのは、もう15年も前のこと。飛行機でのひとり旅となれば、そのさらにまた昔。それじゃぁ、どこか他人事に感じるのも仕方がないか。飛び立つ前から早くも地に足の付かぬ心持ちで、ターミナルの端のスポットまで歩きます。
今回は、言わばエア・ドゥのくれた棚ぼた旅。当初この時期の旅行は全く考えていませんでしたが、会社の仲間にものすごいセールをやってるよ!と教えてもらい、その日の休み時間に即予約。ベア・ドゥちゃん、北の空へと誘ってくれてありがとう!
最後に飛行機でひとり旅をしたのは、もう20年以上も前のことか。そのときは確か全日空のジャンボで、最後となる2階席への搭乗だったっけ。そんな回想に耽っていると飛行機はタキシングを始め、あれよあれよという間に大空へ。
B737ならではの身軽な離陸と上昇に身を委ねていると、眼下には小さくなりゆく東京国際空港の姿。ウィングレットには本を読むかわいいベア・ドゥが描かれており、未知なる空の旅へと自ずと心も高揚してしまう。
この日は冬の東京にしては珍しく雨予報。展望デッキでもぽつりぽつりと来ていましたが、離陸後程なくして白い雲の中へ。霞むベア・ドゥを眺めつつ、じっと待つその瞬間。ついに機体は雲を突き破り、真っ青に染まる冬の空へ。
機窓に溢れる鮮烈さに心を打たれていると、ベルトサインも消え安定した飛行に。眼下に三陸宮城の海岸線を眺めていると、お待ちかねの機内サービスが。
そういえば、僕が国内の航空会社に乗るのはこれが5社目。ANA、JAL、JAS、JTA、そして今回初となるAIRDO。ドリンクのラインナップも他とはちょっと違い、北海道らしさを感じられるのも嬉しいところ。
最近の八重山旅で飛行機のスープのおいしさを知ってしまった僕は、ほたてスープを選択。ぎょれんの「北海道生まれほたてのスープ」が使われており、これがまたとっても旨い。ホタテの香りと旨味の良い部分のみを凝縮したような味わいに、思わずひとりでにほっと息が漏れてしまう。
東北まで来るとすっかり雲も晴れ、機窓には冬のみちのくの山並みが流れるように。あの白く冠雪した山は早池峰山だろうか。遥かなる大海原の上空を飛ぶのとはまた違った豊かな景色に、歳も忘れてかぶりついてしまう。
嫌いではなかったけれど、数年前までは飛行機にあまり愛着を感じていなかったのが嘘のよう。こうして毎年乗るようになり、すっかり飛行機好きになってしまった。着陸態勢を知らせるアナウンスに、もう少し乗っていたいと思ってしまうほど。
津軽海峡の先に横たわる北の大地が見えれば、着陸まではあっという間。木々の繊細さや家並みが見えはじめ、刻一刻と具体性を増してゆく地上の世界。
羽田からベア・ドゥとともに爽快な冬空の旅を愉しむことあっという間の1時間ちょっと、小さな飛行機は轟音ともに無事着陸。滑走路の先に横たわる白銀の眩しさに、忘れかけていた久々の感覚が一気に甦る。
生まれて初めての、エア・ドゥの旅。去年は初めてうちなーの翼に乗り、今年は初っ端から北海道の翼に出逢い。飛行機って、ある意味その土地の空気感の缶詰なんだな。機内に聞こえる北海道弁の懐かしさも手伝い、すっかり好きになってしまった。
水色と黄色の流れる機体に別れを告げ、土曜日で賑わう空港内へ。地下に位置する新千歳空港駅へと向かえば、そこにずらりと並ぶこの地らしい看板たち。リボンナポリンに、サッポロクラシック。この光景に、北海道までやって来たという実感が一気に漲ってくる。
15年ぶりとなる空路での渡道の感慨に浸りつつ、列車の待つホームへ。そこで出迎えてくれるのは、札幌を走る電車の顔とも言える721系。
乗客をまず迎えるのが、各出入口に設置されたデッキ。現在増備が進む新しい車両には設置されていませんが、酷寒地を走る列車ならではの設備に僕は北海道らしさを感じてしまう。
すずらんの描かれた涼やかな色味のデッキから一変、室内へと入れば暖色系の内装に。緩急の付けられた独特のインテリアは、この電車を721系たらしめるものであると信じて疑わない。
快速エアポートは定刻に新千歳空港駅を出発。南千歳の手前で地上に顔を出せば、車窓を染める雪景色。白樺の混じる線路沿いの林、雪国らしい樹脂窓と片流れの屋根の家々。久々に味わう北海道らしさ溢れる光景に心酔していると、ぱっと視界が開け一面の銀世界に。
あぁ、本当にここまで来てしまったんだ。あの日あの時会社の仲間と旅行の話をしなければ、きっと今自分はここに居ない。
そうこの旅は、そんな偶然から始まった手軽で気楽な棚ぼた旅。14年ぶりとなる冬の北海道ひとり旅の幕が開け、懐かしさと新鮮な感動の同居するような不思議な昂りを覚えるのでした。
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