鉈屋町で藩政時代から続く人々の暮らしの面影に触れ、城跡や官公庁の並ぶ中心地へ。その入口に建つのは、明治生まれの旧第九十銀行本店本館。タイルと花崗岩が組み合わされた、瀟洒な佇まいが印象的。
すぐ先の交差点には、威容を誇る岩手銀行赤レンガ館が。先ほどの建物の翌年に、旧盛岡銀行本店本館として竣工。誕生後114年を経た建物の放つ、歴史に裏付けされた重厚感。ずっとここで街の変遷を見続けてきた、言わば盛岡の顔のような存在。
盛岡へと来たら逢いたい赤レンガにご挨拶を済ませ、盛岡城跡に沿って櫻山神社へ。狛犬に積もる雪が、これまで訪れた春夏秋とはまた違った風情を魅せてくれる。
ぴんと張った空気のなか、歴史を滲ませる拝殿にお参りを。15年ぶりにこうして冬の盛岡へと戻ってくることができたお礼を伝えます。
その奥には、特徴的な形をもつ巨岩が。盛岡城築城の際に出てきたという烏帽子岩。それ以来藩政時代から現代に至るまで、盛岡の街を見守り続けています。
櫻山神社と烏帽子岩にお参りしそのまま右手へと進んでみると、これまで長い間行われていた石垣の修復工事が完了した様子。入口の封鎖が解けていたため、久しぶりにこのルートで登城することに。
三ノ丸から二ノ丸へと進んでゆくと、待ち構えていたのは、冬枯れの木々を雪が覆うモノクロームの世界。初めてこの季節に岩手公園を訪れたけれど、凛とした空気のなか味わうこの情景もまた趣深い。
踏みしめる雪の感触を愉しみつつ歩いてゆくと、本丸の重厚な石垣が。パステルの冬空に映える、雪化粧をした直線美。本当に、盛岡城の石垣はうつくしい。
本丸へと登り、ここへと来たらいつも眺めるこの光景を。頬に感じる冷たさ、奥羽の山並みを隠す冬の雲。この季節ならではの清冽さに、こころの奥が漂白されてゆく。
冬の盛岡を胸いっぱいに吸い込み、淡路丸から下城することに。幾重にも連なる、端正な石垣。その線のうつくしさと、一つひとつの石が織り成す豊かな表情。雪の白さに彩られ、その威厳というものが一層際立つよう。
見上げるほどの高さを誇る、重厚な石垣。その肌をうっすら覆うのは、軽やかな表情をした雪。日本の背骨を越えてやって来た雲がもたらす、岩手の雪。その細やかさを感じさせる、繊細な美しさ。
胸のすくような青い空、白銀をまとい横たわる石垣の威容。遠い昔の石工たちが築いた要塞が、天変地異に耐え今なおこうして居続けている。旅をしているとお城に出逢う機会が多くあるが、そのことがふと不思議に思える瞬間がある。
結氷したお堀越しに望む、雪化粧をした石垣。木々の落葉によりその全貌を俯瞰できるのは、この時期だからこそ。凛とした雰囲気をまとう盛岡城の石垣のうつくしさに、改めて惚れてしまう。
気高さに溢れる岩手公園に別れを告げ、北側へ。櫻山神社前、ぎゅっとお店が凝縮されたこの一画。白龍しか訪れたことがないけれど、ここもまた夜になればきっと良い雰囲気に包まれることだろう。
渋い情緒漂う横丁を抜け、官公庁の並ぶエリアへ。威風堂々たる塔屋が印象的な、岩手県公会堂。昭和2年に竣工し、もう間もなく100年。誕生以来長きに渡り、市民の集いの場として現役を続けています。
官公庁街の大通りを進んでゆくと、大岩の隙間から生える石割桜が。今は冬に備えた装いをしているけれど、あと2か月もすれば枝いっぱいに可憐な花を付けることだろう。
岩手で出逢った、全力の春。今年はちょっと難しそうだけれど、また桜の時期にも来なければ。生命力に満ち溢れた春の色を思い出しつつ、次なる目的地へ。その途中、交差点で端整な表情を魅せるコンクリート建築。大正末期に建てられた岩手医科大学1号館は、今なお現役で使われ続けています。
そのまま進んでゆくと、お寺の集まる一画へ。途中の標識に沿って住宅街を歩いてゆくと、石造りの鳥居が迎える小さな神社が。
この三ツ石神社は、岩手という地名の発祥の地とされる場所。巨岩に寄り添うようにして建つお社で、再び訪れることのできたお礼を伝えます。
境内に3つ並ぶ、大きな花崗岩。かつてこの一帯には、悪さをする鬼が。人々がこの三ツ石様に鬼を懲らしめるようお願いしたところ、たちまちこの岩に縛り付けられた鬼。降参した鬼はもう悪さはしないと約束するため、この岩に手形を残したそう。
岩手の由来に触れ、陽も西へと傾いてきたところでそろそろ駅方面へと戻ることに。その道すがら、お気に入りの洋館を見ていこう。
盛岡中央郵便局の前の通りを進んでゆくと現れる、瀟洒な洋館。昭和初期に建てられたという、佐藤写真館。タイルや木材、モルタルに瓦屋根。様々な素材で表現された往時の洋の概念が印象的。
その斜め向かいにも、特徴的な外観を持つ建物が。こちらも昭和一桁築だという、ライト寫眞館。直線と曲線が組み合わされたモダンな表情は、今見てもこころを魅かれる独創的な美しさ。
15年ぶりに訪れた、冬の盛岡。初めてきちんと雪の時期に歩き、また新しい魅力に出逢うことができた。こうしてまた、この街をより好きになってゆく。訪れるごとに深まる愛着を胸に、駅を目指して歩みを進めるのでした。
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