湯ったり下野、初夏の旅。~1日目 ①~

新型東武特急500系リバティ会津

5月末、ふたたび旅立とうとしている僕。ほらね、やっぱりこうなった。前回の長野旅でパンドラの箱を開けてしまった僕は、またも一泊二日で放浪しようとしているのです。

今回の出発地は、北千住駅。4月に運行を開始したばかり、できたてほやほやの東武特急リバティ会津号で、一路塩原温泉を目指します。都会的でクールな見た目ですが、やはりそこは新型特急。輝きを放つボディーを目の当たりにすれば、年甲斐もなくワクワクするのを感じます。

東武新型特急リバティ会津車窓より望む植えたばかりの青い田んぼ
こうして東武特急で旅に出るのは久しぶりのこと。ラガーの苦みを片手に見慣れぬ車窓を眺めれば、これから過ごす非日常のへの期待が膨らみます。

毎日多くの通勤客を東京へと運ぶ東武線。列車は埼玉県へと入っても、しばらく車窓には密集する家並みが流れるばかり。ロング缶を飲み切ろうかというタイミングで、ちらほらと田畑の姿が見え始めます。

北千住駅弁懐かしの18品目弁当
植えたばかりの坊主頭のような田んぼの緑を愛でつつ、ここらへんで駅弁を開けることに。今回は北千住駅のホーム売店で売っていた駅弁、「懐かしの18品目弁当」を購入。地元北千住の宇豆基野という、湯葉や生麩、お惣菜の製造や食事処をやっているお店が手掛けるお弁当です。

北千住駅弁懐かしの18品目弁当中身
蓋を開けると、美味しそうなおかずがぎっしりと詰まっています。18品目弁当と名乗るだけあり、見るからにその食材はバリエーション豊か。野菜中心ですが、それを感じさせない彩りとボリューム感に早くも食欲が沸きます。

おかずは所謂幕の内弁当といったラインナップ。海老フライに鶏の唐揚げ、塩鮭が郷愁を誘います。そういえば最近、こういうどストレートな駅弁、食べてなかったなぁ。といってもそこは和食屋さんが手掛けるもの、どれもきちんととても旨いのです。

そして印象的なのが、脇を固めるお惣菜たち。弁当のある意味主役である厚焼き玉子は、僕好みの丁度よい甘さ。柔らかすぎずパサつきすぎず、凝縮された玉子感がじんわりと心に沁みてきます。

ごま麩や生麩田楽はもっちりとした食感が美味しく、豆腐ハンバーグは柔らかい中にもしっかりと豆腐の風味が活きています。さすがは湯葉や生麩を自家製で作っているお店。

ひじきや茄子のオランダ煮といった煮物もとても美味しく、駅弁というよりもお惣菜として考えても、おお旨い、と思えるもの。一緒に開けた広島は竹原の誠鏡ワンカップが進みます。

ご飯はほんのり甘いちらし寿司風。上には錦糸卵の他に揚げゆばが載っており、ちょっとした風味を添えています。いつもは日本酒とご飯は一緒には食べないのですが、おかずがお酒にもご飯にもよく合うので、珍しく三位一体で楽しんでしまいました。

いやいや、これで1000円は驚き。最初は幕の内はなぁ、なんて思っていましたが、食べれば納得、大満足。見た目以上にさまざまな味わいを楽しめる、楽しいお弁当でした。

メニューには「料亭の味をお届けします」と書かれていましたが、その言葉の通り。添えられた野菜もシャキシャキ感を残してあり、お惣菜もそれぞれ味のメリハリがきっちり。幕の内に必須の小さいしょう油やソースを付けていない時点で、味付けに自信がある証拠なのでしょう。

栃木の車窓黄金色の麦畑と植えたばかりの水田のコントラスト
おいしい駅弁を食べていると、気付けばもう栃木県に突入。車窓には見慣れぬこんな風景が。全国でも有数の小麦収穫量を誇る栃木。初夏のこの時期は、収穫期を迎え黄金色に輝く小麦畑と初々しい水田といった、独特の風景が楽しめます。

新型東武特急500系リバティ会津車窓から眺める鬼怒川の流れ
いよいよ山が近くなり、下今市でリバティけごんを切り離して鬼怒川線へ。列車は急激に速度を落とし、急カーブの連続する単線をのんびりと進みます。

両側には深い緑が迫り、鉄橋からは悠々と流れる鬼怒川の姿。下今市から先は一気にローカル感が出る東武鬼怒川線。ここまでくると、あぁ旅に来たんだ、という実感が湧いてきます。

新型東武特急500系リバティ和をモチーフにした車内
列車は野岩鉄道へと入り、あと15分ほどでこの列車ともお別れ。その前にせっかくなので新型特急リバティの感想をちょっとだけ。

まず何より一番驚いたのが、あまりの乗り心地の良さ。というのも、この車両には列車の揺れを軽減する「フルアクティブサスペンション」という装置が全車両に搭載されているのです。

これがどれだけ凄いことかと言えば、新幹線でも少し前まではグリーン車など一部車両にしか使われていなかったものが、全ての車両に惜しげもなく搭載されていということ。高速走行する新幹線ならともかく、在来線の私鉄としてはとても贅沢。その効果は乗ればすぐに分かります。

そして客室の完全に近いほどの防音処理。余りの揺れなさに気付かずにいましたが、トイレに行った際にデッキとの差に驚きました。そうだ、電車って普通はこんなに音がしていたよな。そのことを忘れさせるほど。

そして最後に、この内装。僕も電車好きの端くれとして、東武特急の新型ということでとても気になっていました。そして出来上がった実車の写真を見ると、良くも悪くも優等生に収まっているんだなぁ、という印象を受けてしまいました。

でも実際に乗ってみると随所に凝らされた工夫が心地よく、和・粋・江戸というものをほんのりと感じさせてくれるのです。それが厚かましくなく、小粒でキリリと効いているのが堪らない。

座席は江戸の伝統色である江戸紫を基調とされ、全体には品のよい江戸小紋の柄が散りばめられています。ひじ掛け下の袖部分は色も質感も変えられており、やはり伝統工芸である印伝をモチーフとした柄が。

水の流れを表した曲線で構成された天井は明るい白。それに対し腰から下はダークな色使いで、締まりと品を与えています。窓まわりには木目が使われ、柱には縁起物とされるトンボ柄も。

正直、このような車両になることはだいぶ前から知っていたし、名車スペーシアのあの塗装変更も江戸をモチーフにしたものだったので、ちょっとやりすぎな車両ができるのではないかと思っていました。

そして実車の写真を見てみたところ、それとは逆に至って普通、スペーシアのようなワクワク感はない車両だなぁ、というのが感想でした。でもこれは乗らないと分からない。乗り心地に関しては当然ですが、内装も写真ではなかなか伝わりにくい色味や質感をしているのです。

これはいい意味でお金が掛かっている。お金だけではなく、作った人々の手間や工夫、想いもたくさん詰まっている。新型車両に乗ってこれだけびっくりしたのは、はやぶさ以来のこと。派手さが無くてもこれだけ伝わる車両には、そうそう出会えません。

野岩鉄道上三依塩原温泉口駅
いやはや、キモい。東武特急のおかげで僕のキモい部分が存分に出てしまったところで、この旅の始まりである野岩鉄道上三依塩原温泉口駅に到着。北千住からは約2時間半の道のりです。

野岩鉄道上三依塩原温泉口駅駅前に広がる鮮やかな新緑
駅を出れば、視界全体を満たしてくれる鮮やかな新緑。さてここから、僕の短い非日常が始まる。塩原の誇るにごり湯との対面を前に、はやる心を抑えきれないのでした。