11月下旬、僕は自ら冬を迎えに行く。
その旅の出発地はバスタ新宿。雨と夜という化粧をした甲州街道は、いつも見せる姿ではなくどことなく旅情を駆り立てる雰囲気に。
前回の旅で夜行バスの魅力を知ってしまった僕。今回もやはり、こうして夜行バスを利用することとなりました。
今回利用するのは、『弘南バス』の運行する津輕号、青森行き。『楽天トラベル』で予約しました。
いつも働いている街に、大好きなあの街を走るバスがいる。弘南バスのロゴを新宿で目にするという、日常と非日常のせめぎ合い。これこそが長距離列車やバスの持つ魅力そのもの。
このバスを選んだ理由は、弘南バスを応援したいという気持ちもありますが、何より快適そうだと思ったから。
車内は「あずましーと」と呼ばれる特別席と、普通席のツークラス制。僕は普通席を予約しましたが、それでもシートピッチは相当なもの。
僕は身長166cmですが、足を伸ばしても前の座席に付くか付かないかという広さ。(特別短足という訳じゃないですよ!)初めてフットレストを活用しました。
更にはこのカーテン。通路との境だけではなく、前後まで仕切られています。これはもう半個室と言ってもいいほど。布一枚ですが、それがもたらす効果は絶大。
座席の形状も僕の体にぴったりと合い、青森に着くまでほとんど起きることはありませんでした。これでたったの8000円。スケジュールが合えば、間違いなくこのバス一択になりそうです。
この写真では伝わりにくいのですが、青森はすでに結構な積雪。この時点で、僕の旅の目論見は達成されたも同然。これから向かう地への期待が、一気に膨らみます。
新宿を発ってから9時間20分。時刻はまだ朝の7時半過ぎ。早速朝ごはんをとも思いましたが、その前にやはりこの方に挨拶せずにはいられません。
11月の雪に佇む、海峡の女王八甲田丸。廃止からもうすぐ30年も経とうというのに、今なお色濃く残る青函連絡船の記憶。その生き証人の放つ美貌と尊厳に、青森まで来たという実感が一層深まります。
初冬の寒風に凛と立つ女王と、心に沁みるあの歌声。歌碑から流れる歌を2回ほど聴き、ようやく朝ごはんを食べることに。
青森名物の煮干しラーメンが朝から営業していたので思い切り心揺さぶられましたが、今回は出発前から決めていた『青森魚菜センター』へと入ります。
前回ここを訪れたのはもう5年前。久々に味わう感覚にワクワクしつつ、まずは受付でチケットを購入。今回は10枚つづり1300円のものを買いました。
まずはチケット1枚とどんぶり飯を交換。その後はそれぞれ思い思いの具材をチケットと交換し、丼に載せてもらうというシステム。
古きよき、昭和の風情を色濃く残す市場。その中を歩きながら具材を選ぶのも、こののっけ丼の楽しみのひとつ。
市場だからこそできる、新鮮さと安さが魅力ののっけ丼。ですが、僕にとっての一番の魅力は、普通の食堂の海鮮丼には入らない具材を選べること。市場ならではの楽しさです。
そしてこちらが僕ののっけ丼2017。
ほたては青森らしく安定の甘さ、旨さ、良い歯ごたえ。これまた青森名物のひらめはコリッと、もちっとの魅惑の食感。新鮮なうには臭みもなくとろりとした甘さ。
これらの王道の食材もさることながら、僕のお気に入りは地元らしさを感じさせるこの二品。
鮭とにしんの切り込みは、言わずと知れた青森の郷土料理。麹の旨味と程よい塩分が魚に凝縮感を与え、ご飯に合わない訳がない。青森に来たら是非とも食べたい逸品です。
そして中央にどんとあるのが、たこもつ。たこの内臓を茹でただけのものですが、こうして売っているのを初めて見ました。
初挑戦の、たこもつ。クセが無いかと、少しだけ警戒しつつひと口。なにこれ、旨い!たこの足や頭とは全然違う、僕の知らないたこがそこにある。
クセや臭みは全くなく、想像とは違い淡白な味わい。ですが部位によって違う食感や味が楽しめ、噛めばじんわりと染み出る旨味が堪りません。
僕オリジナルののっけ丼で郷土を味わい、大満足で歩く青森の街。朝の空気に包まれたアーケードには、白熱灯に照らされるりんごたち。並ぶりんご箱に、心は一層青森色に。
暑い時には暑い場所へ、そして寒い時には寒い場所へ。これが僕の旅のモットー。今年は寒くなるのが早かった。そう感じた瞬間、僕の心は北へと向かう。
その衝動に駆られて決めた、青森行き。そう僕は、ここへ冬を迎えに来たのだ。その旅の始まりに相応しい幕開けに、寒さに反比例するかのように心は温まるのでした。
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