青函ワールドで古き良き青森を感じ、いよいよ船内の探索へと出発。八甲田丸はメモリアルシップとして改装されましたが、今なお海峡の女王として君臨した時代を感じさせる名残がちらほら。
甲板への出入りに使われたドアに残る、グリーン船室のステッカー。見慣れたマークの下に書かれたGREEN CABINの文字が、国鉄感漂う中にもここが船上であるということを感じさせます。
懐かしいフォントで記された防火とびらの文字。列車では見慣れない設備ですが、味のある字体を見れば青函連絡船も厳格な国鉄の規格で管理されていたことが伝わるよう。
現役当時のグリーン船室指定席がそのまま残される一画。エンジに彩られた重厚な一人掛けのシートが並ぶ姿に、活気ある当時の様子に思いを巡らせます。
深く倒れるリクライニングと、足を支えるレッグレスト。重ねられたクッションに、手元を照らす無骨な読書灯。現代よりも階級意識の強かった時代を表す、この船が誇る最上級の座席。
今の感覚には無い重厚さ漂うグリーン船室。その雰囲気を醸し出すのが、国鉄のセンスで選ばれた備品たち。窓にかかるカーテンは、昭和レトロという言葉をそのまま体現したかのような独特なデザイン。
海峡の女王の栄華が充満するこのエリア。一角に腰掛け眺めてみれば、今にも函館に向けて出港せんとばかりの錯覚に襲われる。一体どれほどの人が、北への思いを抱きこの光景を眺めたことだろうか。
見慣れた荷棚に、鉄道車両の面影を感じさせる窓まわり。駅や様々な場所で目にしたToaのロゴが懐かしいスピーカー。船舶でありながら、鉄道好きの心の琴線に触れる青函連絡船。それはいい意味で国鉄が徹底した規格化、汎用化を図っていたからなのかもしれません。
それでも鉄道車両とは違い、船舶は巨大な建造物であることを思い出させる空調吹き出し口。
そういえば、最近こんな形のものを見なくなった気がする。空間の邪魔をしない現代のものとは違い、主張する独特のこのデザイン。昔のビルでは必ずと言っていいほど目にしていました。
壁に残るロッカの表記。鉄道では語尾の長音を省略して表記することが多く、こんなところにもそれが紛れています。このような細かい仕様の集合が、国鉄、ひいては古き良き鉄道の文化を形作っているのでしょう。
桟敷席や座席がメインの連絡船において、一番豪華な区画である寝台室。当時のモダンさを匂わせる色合いのソファーが、別格感を漂わせます。それでいて国鉄を感じさせる独特の雰囲気。列車を思わせる洗面台や垢抜けない仕切りがそうさせるのかもしれません。
国民の足としての使命を背負い、広く普遍的に移動の価値を提供し続けた国鉄。僕の記憶の中の面影が、知らないはずの北の航路にまで染みついているなんて。だからこそ国鉄は愛され、今なお多くの人々の記憶に残るのでしょう。
外観同様、海峡の女王の名に相応しい設備を持った八甲田丸。その栄華の残り香を心に刻みつつ、今度はこの船の持つ力強さに触れることにします。
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