お宿のご厚意により、昼前の到着からゆったりのんびり過ごす酸ヶ湯。浸かって、飲んで、食べて、寝て。そんなことをだらだらと愉しみ、気がつけば15時前。チェックインを済ませ、早速部屋へと向かいます。
前回宿泊した際は旅館棟でしたが、今回は自炊棟での滞在。床の間などの装飾はありませんが、テレビ、冷蔵庫、ガスファンヒーター完備で十分快適。正直なところ、音や振動に関しては今回泊まった五号館のほうが気にならなかったかも、というのは内緒です。
擦りガラス越しでも伝わる白銀の気配。居てもたってもいられず窓を開ければ、11月下旬というのにこの雪景色。眩さと共に入り込む冷気が、このときばかりはなぜか嬉しい。酸ヶ湯の冬は、もう始まっているのです。
心地良い寒さとしばし戯れ、早速着替えて千人風呂へ。浴衣を着て渋い廊下を歩けば、先ほどまでの立ち寄り湯感覚とはまた違った味わいに。
これから3泊4日、僕は雪と湯の白さに染められる。そう思うだけで、寒さに反比例するかのように熱さを増す気持ち。火照る体と心に心地よく沁みる黒ラベルが堪りません。
お湯以外、何もすることのないという贅沢な時間。飽きもせず初冬の白さを眺めていると、気付けばもう夕食の時間。夜空に映える雪の輝きが、そのときであることを教えてくれます。
お腹も空いたところで夕食会場へと向かいます。テーブルにはお膳が用意されており、席に着くと冷たいものと温かいものを後から運んで来てくれます。
旅館部の献立ほど郷土料理感はありませんが、そこはやはり食材の王国、青森県。それぞれがきちんと美味しく、自ずと青森の地酒が欲しくなります。
そこで注文したのが、地酒三種飲み比べ。田酒、八甲田おろし、亀吉を味わえて1000円と、お酒が少々お高めな酸ヶ湯ではお得なセットです。
きのこおろしやわらびをつまみに地酒をちびちび。玉ねぎドレッシングの美味しいローストビーフや酢の物を挟めば、旨い地酒がどんどん進みます。
鮭フライはサクサクの食感が美味しく、うどんすきは濃すぎず薄すぎずの丁度よい味付け。最後はまぐろ山かけとご飯で〆て大満足。自炊部のお手頃価格でこの献立。酸ヶ湯、良心的。
いやいや、このお値段なら次も連泊できちゃうよ。お腹も心も満たされ、早くも再々訪の予感に包まれつつ渋い廊下を進みます。
山の斜面に大きく広がる酸ヶ湯。旅館棟と湯治棟、それぞれ築年代の違う複数の建物が繋がれ、歩くだけで様々な表情を見せてくれます。そんな館内探索も、この宿の楽しみのひとつ。
木造の温もりに触れつつ部屋へと戻り、あとはもうお湯とお酒だけの時間。そんな夜のお供にと選んだのは、鰺ヶ沢は尾崎酒造の安東水軍山廃純米酒。
すっきり辛口ではありますが、お酒の香りや旨味、酸味を感じる味わい。妙な甘さや濃さがないので、食後でもするすると飲めてしまう美味しいお酒。
そんなお酒に合わせるのは、珍しく甘いもの。旅館の売店で見つけ、どうしても気になってしまった嶽きみぼーというお菓子を開けてみます。
基本は麩菓子なのですが、まわりの蜜が個性的。岩木山麓の嶽温泉付近で栽培されるとても甘いとうもろこし、嶽きみ。これをピューレにして甜菜糖に混ぜたものが、表面にコーティングされています。
糖蜜はあくまで表面のみで、中は麩のサクサク感が印象的。優しい甘さの甜菜糖と、遠くに感じるとうきびの素朴な気配。濃厚なコーン風味を期待するとちょっと違うかもしれませんが、これは素朴でとても旨い。
前回宿泊したときに味わった干し餅に、今日のお昼のごへい餅。そしてこの嶽きみぼーと、素朴な美味しさのお菓子に出会える青森路。
何でも足すことばかりが増えた今日。こうして雪を眺めながら麩菓子を食べれば、僕の中にある大事にしたい部分が戻ってくるよう。この安心感があるからこそ、何度も東北に通ってしまう。
新宿を発ってからまだ24時間。それなのにもうすっかり青森、そして雪色に染められる。やっぱり酸ヶ湯で良かった。気持ちの赴くままに冬を求めてたどり着いたこの地。これから流れる幸せな時間を思いつつ、穏やかな眠りに就くのでした。
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