11月末日。今年は全く寒くならない。でもやっぱり、冬を迎えに行きたい。そう思い立ち、久々の日光への旅を決行することに。宿泊先は、温泉好きになったときからずっと行きたいと願っていた奥日光。白く濁るお湯への僕の期待を代弁するかのように、晩秋の青空が渋い東武浅草駅を照らします。
古き良き私鉄のターミナルの雰囲気を色濃く残す、浅草駅。急カーブを描く狭いホームで待っていると、僕の大好きな車両である100系スペーシアが軋り音とともにゆっくりと入線。
久しぶりに乗るスペーシア。今回は江戸紫を基調とした雅編成がやってきました。うん、やっぱりこの造形はかっこいい。でも本音を言えば、外装内装ともに原型が自分的ベストだった。平成初期の雰囲気を濃厚に漂わせた100系に、もう一度逢ってみたい。
定刻通り、きぬ号は浅草駅を出発。名物の急カーブを抜ければ、眼前に聳えるのはすっかり東京の顔となった634m。春には隅田川を彩る桜も、晩秋らしい装いで両岸に寂びの香りを漂わせています。
東武線といえば豪快に関東平野を駆け抜けるイメージがありますが、浅草から北千住までは意外にも勾配と急カーブの連続。川と古い街の間を縫って苦労して通したんだろうなぁ。そんな妄想にふけるのも、鉄道旅の醍醐味。
左右に揺れる下町を眺めつつ、早速朝食をとることに。今回は地元浅草の鮒忠が調整する、浅草観音裏の深川めしを選びました。なんだか僕、東武特急での深川めし率が異様に高い気がする。
蓋を開けるとまず目に飛び込むのは、たっぷりのあさりが載った深川めし。ぷっくらと炊かれたあさりには旨味が残され、あおさとともに口中に海の香りを広げてくれます。ご飯の塩梅も丁度いい。
おかずは煮物や厚焼き玉子、きんぴらと王道のラインナップ。東京らしい少々濃い目の味付けながら、甘ったるさは感じない心地よい濃さ。ご飯はもとより、朝ビールとの相性もバッチリです。
美味しいお弁当に舌鼓を打っていると、気づけば車窓は晩秋一色に。収穫後の田園はどことなく物寂しさを漂わせ、色彩にあふれる秋真っ盛りとはまた違った情緒を感じさせてくれるよう。
さすがはだだっ広い関東平野。浅草から走って、走って、走って。ようやく山々が近くなってきました。その山並みを彩るのは、もう終わりかけの紅葉の色味。秋から冬へ。このグラデーションは、この時期にしか味わえない感傷を呼び起こす特別なもの。
山との距離もどんどんと近くなり、もうすぐ平野が終わることを予感させる光景に。秋の最後の輝きをみせる木々が山懐を彩り、鮮やかな青空と無機質な岩肌が一層そのコントラストを際立たせるよう。
列車は山里を走り抜け、視界が開けたと思えば姿を現す深い山並み。手前の山々は錦の名残を手放しつつあり、奥の日光連山は早くもモノクロームの世界へと身を染めています。
日光に行くのは、何年ぶりだろうか。そういえば、あの時は紅葉に染まる時期だった。車窓を染める渋い色合いに、まだ見ぬ寂びの日光へと期待は高まるのでした。
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