東照宮に別れを告げ、すぐ隣に位置する二荒山神社へと向かいます。参道沿いには凛と立つ杉並木が続き、並ぶ灯篭とともにこの道を一層趣深いものとしています。
玉砂利の心地よい感触と音を噛みしめつつ歩くと現れる、朱塗りの楼門。周囲を守る杉木立の青さにその色が映え、この先から神域であるということを教えてくれるよう。
1200年以上前に創建されたという二荒山神社。男体山、女峰山、太郎山の日光三山をそれぞれ父、母、子として祀られています。日光が古くから霊場、そして山岳信仰の場であったことを伝えるこの神社で、これからの旅の無事を祈ります。
朱と黒が印象的な拝殿でお参りし、その先の神苑へと進みます。そこにはまっすぐ伸びる杉の御神木が。その太い幹を追って視線を上へと移せば、勢いよく茂る緑越しに広がる、晩秋の空。胸のすくような天然色の対比に、思わず息を呑みます。
緑深い神苑を進み、湧き出る霊泉でのどを潤します。まろやかな口当たりの美味しい水で満たされた霊泉には、酒の泉、智恵の水、若水の立て札が。うぅん、どれも魅力的・・・。御利益、あるといいなぁ。
二荒山神社でお参りを終え、時刻は丁度お昼どき。近くでご飯やさんを探していると、日光名物であるゆばの大きな文字を発見。その言葉に誘われるように、『日光もみぢ庵』へとお邪魔します。
瓶ビールで喉の渇きを癒しつつ待つことしばし、お待ちかねのゆば寿司・ゆばそばセットが運ばれてきました。まずはおそばをひと口。黒い麺は平たく太い見た目と、その通りのしっかりとした食感が美味しい。久しぶりにガッツリとした田舎そばを食べましたが、この食べ応えはたまりません。
載せられた大ぶりの湯波の煮物を噛めば、ジュワっと広がるおだしと大豆の味わい。生湯波も非常にクリーミーかつ歯ごたえがあり、おそばに負けないしっかりとした存在感があります。
続いて生湯波の載ったゆば寿司を。うん、旨い。とろりとした大豆のエキスが寿司飯に絡み、口中に豆の甘味旨味を広げてくれます。
控えめな印象を持つ京都の湯葉の美味しさもさることながら、今回日光の湯波のしっかりとした豆の旨さを再認識。それにしても小学生の時に食べた日光湯波の記憶とちょっと違う。こんなに美味しいと思ったっけ。もしかしたらそれだけ、自分の好みが広がったということかもしれません。
美味しい湯波で満たされたところで、いよいよ憧れのあの元湯へ。総合会館前バス停から『東武バス』に乗車し、湯元温泉を目指します。ちなみに今回利用したのは、東武鉄道が発行する『まるごと日光 東武フリーパス』。発駅から東武日光までの往復乗車券と、日光エリアの東武バスが乗り降り自由という便利なキップ。特に今回泊まる湯元温泉までは、バス代だけで片道1600円掛かるため、使い方によってはものすごくお得になります。
バスは市街地を抜け、紅葉の名所として知られるいろは坂へと挑みます。カーブを越えるごとに増す標高と、それに比例して近くなる空との距離。眼下に小さくなりゆく人の営みを眺めていると、急坂は終わりいつしか車窓には煌めく中禅寺湖が広がるように。
中禅寺湖から先は、僕にとって未踏の地。これから繰り広げられる未知なる車窓に胸を膨らませていると、晩秋の枯色をまとった雄大な戦場ヶ原が。うん、いい。燃えるような紅葉の時期も見事だろうが、観光シーズンの終わったこの鄙びた雰囲気もまた旅情をそそります。
しみじみとした車窓を愛でること1時間20分、ついに憧れの日光湯元温泉に到着。チェックインまでは少々時間があるため、付近をのんびり散策してみることに。まずは車窓からも見えていた湯ノ湖へ。
ここは標高約1500m。麓では辛うじて感じられた秋の名残も、ここにはもうありません。午後の弱い青空の下、黒々とした山の中水を湛える静かな湯ノ湖。そこに漂うのは、まもなく来るであろう冬の気配。
バスを降りた瞬間から、嗅覚を楽しませてくれている硫黄の香り。その源を辿ってみれば、荒涼とした大地に並ぶ源泉小屋が。ここから、日光湯元の美しい至極のお湯が湧いているのです。
漂う硫黄臭ににやけつつ視線を上げれば、そこに横たわる雪化粧をした山々。あぁ、もう冬はすぐそこまでやってきている。今年は全く寒くなる気配がありませんでしたが、それでも確実に季節は巡る準備をしています。
これから始まる湯尽くしの三泊。湯めぐりを始めた時から来たい来たいと願い続けてきた湯との対面を目前に控え、胸は一層高鳴るばかりなのでした。
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