船という、乗り物とは思えないゆったりとした空間の中過ごす出港までの時間。17時半に乗船したため、お風呂に入り晩酌したりと、ゆっくり過ごしてもまだまだ時間的なゆとりはたっぷり。
きその6デッキにはレストランのほか、自由に使える広々としたパブリックスペースが用意されています。場所によりインテリアや席のタイプが異なり、好みの眺めと雰囲気の場所を見つけてゆったりできるのも嬉しいところ。
旨い天むすの余韻と愛知の地酒に浸っていると、床下から響くディーゼルの唸りが一段と大きく。ふと外を見れば、ゆっくりと、ゆっくりと、船が動き出したことが分かります。
すっかり暗くなった名古屋港。移りゆく港湾の灯りをぼんやりと眺めつつ、重ねる愛知での半日の記憶。船のもつ旅立ちのスピードは、他の乗り物にはない様々な想いを呼び起こすような独特な速度感。
名港トリトンを成す吊り橋のひとつである名港西大橋をくぐり、伊勢湾へと入ったところでデッキへと出てみることに。穏やかな伊勢湾を進む船。遠くには知多の人々の営みのしるしが煌めきとなり、ゆっくりと流れてゆきます。
やはり風が強い今日の航海。肌寒さを感じたところで船内へと戻り、20時から始まるラウンジショーを見てみることに。きそのシアターラウンジサザンクロスでは、映画の上映や様々なジャンルのショーが行われています。
この日はゴールデンウイーク真っただ中ということで、去年と同じく童謡ショーが開催。多くの人が集い、皆一様に昔懐かしいメロディーに耳を傾けるひととき。するとショーの終盤で、まもなく伊良湖水道を通過すると教えてくれました。
早速デッキへと上がり左舷側を見てみると、夜の闇に浮かぶ伊良湖岬灯台と街の灯り。観光地としても有名な伊良湖岬。あの幾多もの明かりの中には、連休をそれぞれの形で楽しむ人々の笑顔が詰まっていることでしょう。
右舷側へと回れば、遠くに煌めく鳥羽の灯りと共に闇を照らす神島灯台が。夜空を伸びる光線となり、船を導く灯台の光。くるりくるりと繰り返す明滅を、しばし無心で見つめてしまう。
幅1.2㎞ほどしかないという伊良湖水道。左右に迫る灯台の光に魅了され、再び6デッキへと戻ります。暗い海に向かうカウンターに腰を落ち着け、新たな酒を。愛知県は設楽町の関谷酒造、ほうらいせん別撰ワンカップを開けることに。
蓬莱泉は何度も飲んだお酒ですが、このワンカップは少々造りが違うよう。原料を無駄にしないという観点から、自社の酒粕からできた焼酎を添加しているそう。
普段は純米酒を好んで飲みますが、この別撰はそれほど違和感なくすいっと飲めるといった印象。嫌なアルコール臭さもなく、それでいて純米酒より若干軽めに感じるので、3杯目に飲んでも飽きない美味しいお酒。
海原の鼓動に揺られつつ飲む、旨いワンカップ。ふとまわりを見渡せば、ゆったりとした船内で皆思い思いの過ごし方を愉しんでいます。この雰囲気は、船旅だからこそ。去年久々にこの感覚を味わい、僕の船愛が再燃してしまったのです。
身も心もすっかり船旅ペースへと切り替わったところで、今夜最後の夜景を見に行くことに。黒い海のその先には、うっすら光る厚い雲。渥美半島、それとも遠州か。過ぎゆく街の灯りを、潮風を全身に感じつつぼんやりと眺めます。
今朝は早かったことだし、もう寝よう。自分の寝台へと戻り、ごろんと横になります。すると背中から伝わりくるディーゼルの響きと、波の鼓動。今夜は少々揺れている。でもそれも、また一興。陸路空路では味わえない海との一体感を噛みしめ、深い眠りへと落ちるのでした。
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