天空1,400mで迎える静かな朝。10月下旬と言えども、そこはもう間もなく冬。冷え切った体を温めるべく、早速露天風呂へと向かいます。
濃厚な朝霧に包まれ、すべてが乳白に溶けゆく荘厳な景色。素朴な湯船に湛えられた大地の恵みから溶け出たものかとすら思えるその色合いに、幻想という言葉しか浮かばない。
乳白の間を揺蕩う朝の湯浴みに心動かされ、すっかりお腹もすいたところで朝食の時間に。朝ごはんもバイキング形式で、たくさんの山の幸から好みのおかずを選びます。
ふき味噌やうどの心地よい苦みと共に味わう、ホカホカのご飯の甘味。この瞬間、日本に生まれて良かったと素直に思えてしまう。色々思うことのある日々の中で、そう思わせてくれる旅先での朝ごはんが僕は好き。
おいしい朝ごはんに満たされ、ちょっとだけお散歩へ。駐車場へと向かえば、冬支度を始めた枯色の先に聳える岩手山。流れゆく分厚い雲に撫でられ佇む光景は、まるで緞帳の開く瞬間のような厳かさ。
大好きな南部片富士へのご挨拶を終え、部屋でぼんやりと過ごす時間。窓の外がふと急に明るくなったかと思えば、雲の隙間から覗く青い空。秋田から岩手へと、雲と青空が素早く流れゆく様を飽きることなく眺めます。
昨日はどの湯船もぬるかった露天ですが、今日は1~2か所ほど適温に調整され快適、快適♪シルキー且つ分厚い浴感のにごり湯にじっくりと身を委ねれば、いつしか心身の芯から大地の力で温められます。
そして部屋へと戻り、昼前のいけないこいつ。プシュッと冷たい刺激を喉へと通せば、やはり良い湯良い宿には連泊してこそだと掛け値なしに思えてしまう。
湯浴みは意外と体力を使うもの。ホップの苦みも相まって空腹を感じたところでお昼ご飯を食べることに。山菜そばと迷いつつ、今回はカレー稲庭うどんを注文します。
日帰りのお客さんで賑わう中、浴衣でのんびり待つこのひととき。何となく連泊ならではの優越感に浸ってしまうのは僕だけだろうか。そんなどうでも良いことを考えていると、良い香りと共にお待ちかねの丼が運ばれてきます。
こちらのカレーうどんは、おつゆにカレーが掛けられたタイプ。下から稲庭うどんを掬って啜れば、なめらかな舌触りと共にホッとするような懐かしいおいしさが広がります。
山の宿で食べる素朴なカレーうどんにお腹も心も温められ、晴れの気配に誘われ食後の散歩へ。するとそこには、空の青さに滲む雄大な岩手山が。
今朝のモノクロームの出で立ちも良かったが、この胸のすくような装いもまた格別。南部片富士の名の通り優美に裾野を広げるその姿に、思わず言葉も忘れただただ見入ってしまう。
岩手山、本当に好きだなぁ。雄大な南部片富士に自分の中の何もかもが漂白され、空っぽになったところに岩手の恵みを染み込ませます。
そんないけない昼酒にと選んだのは、僕の好きな盛岡はあさ開、蔵埠頭COLOR一度火入れ。あさ開も南部美人も、最近おしゃれになった気がします。
旨口純米とラベルに書かれた通り、瑞々しさを感じる旨い酒。それでいてすっきりと飲みやすいのだから、気を付けないとあっという間に1本空けてしまいそう。
昼酒は、酔わない程度にほんのり含むくらいがいい。テレビもなく、携帯の電波も届かない。だからこそ味わえる、余白だらけのこんな贅沢。連泊をした者のみに許される甘美な暇というものに、今はただ素直に流されていたい。
旨い酒を舌に感じつつ眺める、爽快な景色。素早く流れる白い雲を目で追い、額縁で切り取られた活ける絵画にひたすら心酔するのでした。
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