標高329mの山頂から、日本寺の見どころを結びつつ鋸山を下ること2時間ちょっと。表参道から住宅街へと抜け坂を下り続けると、ついに東京湾の海原が。これ、晴れてたらきっときれいなんだろうな。
この先海沿いを走る国道は交通量も多く、歩道もないため歩くのは危険。道なりには駅への道しるべが立っているため、それに沿って里山の情緒漂う長閑な道を進みます。
これまで海の房総しか知らなかったけれど、房総の山は奥が深いんだな。やっぱり旅は、実体験。実際に訪れてみれば、未知なる魅力に必ず逢える。
秋色の田園に旅の終わりの若干の感傷を重ねていると、道のすぐ脇に並走する内房線の線路が。東京からそう遠くはない場所なのに、このおおらかさ。近くて遠い、それが今回房総半島を旅してみた素直な感想。
しっとりとした情緒に染まる雨もいいけれど、今度は海の青さ際立つ晴れの日にも来てみたい。鋸山にはかつて石を運んだという登山道もあるらしい。それともやっぱり、頑張って日本寺を登ってゆくか。これはもう、必ずまた再訪せねば。
ロープウェー山頂駅から約2時間半、内房線は保田駅に到着。今回は雨のため見送りましたが、近くには廃校を利用した道の駅や房州初の海水浴場などの見どころも。
次への宿題、再訪の口実を胸へとしまい改札へ。ホームへと向かう跨線橋からは、雲に頭を隠す鋸山。海から直接稜線が立ち上がる姿が見て取れ、この一帯の地形の険しさを感じさせるよう。
屋根のないホームで傘を差しつつ待つことしばし、木更津行きの普通列車が入線。ロープウェーの力を借りつつ2時間半かけた山越えも、あっという間の4分で浜金谷に到着。やっぱり列車って、速いよな。そんなことを実感していると、石段歩きの疲れからか気づけば君津の手前までうたた寝してしまいました。
君津で先発の快速に乗り換え保田から45分、再び木更津駅に到着。ここで最後の房総の味を楽しむことに。東口側に繁華街があり、その中から気になった『さかなやくろ木更津東口店』にお邪魔してみることに。
冷たいビールで山歩きの渇きを潤していると、待ちに待ったあじのなめろうと対面の瞬間が。家でも好きで作っているなめろうですが、本場で食べるのはこれが初めて。
見るからに旨そうななめろうをひと口。うわっ!何これ!全然違う!よくたたかれた身はもっちもちの食感で、これまで食べたなめろうのねとっとした食感とは一線を画すもの。瞬時に、それは鮮度の違いなのだと悟ります。
新鮮だからか魚の匂いは全く感じず、そこにあるのは旨味だけが集合した至福の塊。味付けに使われている味噌はコクある中にもきりりと冴え、これだけで四合瓶一本は行けてしまう吞兵衛殺しの罪なヤツ。
さっそく千葉の地酒に切り替え上機嫌でちびちびやっていると、続いてあさりの串揚げが到着。さくさくの衣に包まれたあさりの身からは、貝の旨さがじわっと溢れます。
なめろうとあさりだけでグイグイ地酒が進んでしまいますが、そこにさらに千葉といえばの茹で落花生を追加。ほくほくした豆に、ぎゅっと詰まった滋味深い味わい。茹でたピーナツを知らずに死ぬなんて本当にもったいない、そう思えてしまう間違いない旨さ。
あとはもうバス一本で都心に帰るだけ。旨いつまみに吞兵衛スイッチの入ってしまった僕は、これまた南房総の郷土料理であるくじらのたれを注文。
くじらのたれとは、くじらの肉を特製のたれに漬け込み干したもの。こちらのお店は浜焼きがメインのようで、食卓に準備されたコンロで自分で焼いていただきます。
塩梅よく焼けたところで、むしってひと口。その刹那、舌とこころに突き抜ける衝撃的旨さ。
漬けて干されたくじらは赤身肉の旨味が凝縮され、味を引き締め香ばしさを演出するきりっとしたたれがまた良い。マヨネーズを付ければまた違った表情を魅せ、このために木更津まで来たいと思えるような抜群の旨さに心酔します。
今回は、最後の最後まで房総を満喫したな。結局地酒を4杯も飲んでしまい、上機嫌で待つ帰りのバス。当初は新宿行きに乗るつもりでしたが、どうやら渋滞で遅れている模様。先に『東急トランセ』の渋谷行きが来たので、それに乗って帰ることに。
先頭の座席に陣取り、静かに発車を待つひととき。ふらりと気軽に来ることができ、帰りも予約なしで来たバスに乗ればいい。鉄道好きの僕ですが、アクアラインができて房総は本当に身近になりました。
定刻に木更津駅を発ち、夜の町を走るバス。これまであまり訪れる機会のなかった千葉は、同じく隣県の埼玉や神奈川とはまた違う顔をしていたな。そんなことをぼんやりと考えていると、車窓にはチャー弁で有名なとしまや弁当が。
この旅で、僕はすっかり房総が好きになった。近いから、いつでも行ける。そう思っている場所ほど、行く機会を逃し続けてしまっている。この2泊3日で、一体どれほどの未知なる房総の魅力に出逢えたことか。
袖ヶ浦バスターミナルを経て、夜の海上を駆けるバス。漆黒の闇の先には、遠くに揺れる房総の灯り。あれは富津岬だろうか、その明かりも途切れついにバスは海ほたるにぽっかりと口を開ける坑口へ。
いい旅だった。心からそう素直に思える感動を、房総半島は僕へとくれた。これは開拓しがいのあるやばい場所を知ってしまった。灯台下暗し。その言葉を改めて噛みしめ、流れゆく夜の車窓を見送るのでした。
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