晩秋蔵王、染められて。~白き夢見し酔いもする 3日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

晩秋蔵王、染められて。~白き夢見し酔いもする 3日目 ②~

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館 旅行記

豊かな表情に彩られる山形の街を歩くこと20分ちょっと、道の突き当りに姿を現す重厚な建築。荘厳さをまとうその威容に、思わず目は釘付けに。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館の一画を彩る紅葉
左右に大きく羽を広げる石張りの建物、そのモノトーンに彩りを添えるこの時期ならではの木々の色味。時折振る雨に濡れた落葉の艶やかさに、いつしか心も染められてゆく。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館石張りの重厚な建築
この文翔館は、山形県庁舎として大正5年に建てられたもの。それ以来昭和50年まで庁舎として使用され、現在は山形県にまつわる常設展示を行う郷土館として今なお現役を続けています。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館正面玄関で人々を出迎える美しいステンドグラス
車寄せとバルコニーが印象的な正面玄関へと立てば、人々を出迎える瀟洒なステンドグラス。この建物は昭和59年に国の重要文化財に指定され、翌々年から10年の歳月をかけ往時の姿に復原されたのだそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館重厚な大理石の柱と美しいアーチを描く漆喰壁
入口からその優美さに気圧されつつ、いざ建物の中へ。鈍い輝きを放つ重厚な大理石の柱、その上で曲線美を魅せる漆喰壁のうつくしさ。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館飴色に鈍く輝く大階段
その奥から階上へと誘うようにのびる大階段。長い歳月を経た木材のみが放つことを許される飴色の輝きに、言葉も忘れただ溜息を漏らすのみ。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館優美な装飾が施された大階段
赤い絨毯の敷かれた階段を、窓の明かりに導かれ一歩一歩上ってゆく。踊り場に立ち振り返れば、この空間に込められた大正時代の人々の美意識に言葉を失う。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館大階段踊り場の窓にはめ込まれた月桂冠の葉の輪飾りのステンドグラス
窓から差し込む雨の日ならではの優しい光、それを補完する人の造る灯りの温かみ。それらを受けた漆喰や木材は、ものすごく穏やかで柔らかな表情に染まっている。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館重厚感と煌びやかな雰囲気に包まれた正庁
階段を登りきると、その正面に位置するのが正庁と呼ばれる部屋。ここはかつて訓示や辞令交付を行った場所だそうで、緻密な漆喰天井や大理石の柱など、繊細かつ豪奢な内装が印象的。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館うつくしい紋様に彩られる寄木張りの床
大正時代の優美さを現代の職人の技で復元した漆喰天井に目が行ってしまいますが、足元を見るとこれまた息を呑むようなうつくしさ。きれいに磨かれ鮮やかな紋様を魅せる寄木張りの床は、往時からのものだそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館正庁に設けられた市松模様のタイルが印象的なバルコニー
窓の外を見てみれば、建物の正面にせり出たバルコニーが。ここも建築当時の姿に復原され、残されていた欠片からこんなハイカラなデザインであったことが分かったそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館往時の姿に復原された知事室
気品に満ちた正庁から、貴賓室や知事官房を経てかつての知事室へ。現代の無機質なビルには決して醸すことのできない重みある世界観を、部屋の片隅に立ち全身で受け止めます。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館知事室に設けられた暖炉
雪国山形らしく、壁には建築当時から残るという大きな暖炉が。大理石の持つ重厚感、時を経て鈍い艶めきに彩られる飴色の木。その対比の妙の中心に揺れる、赤々と燃える火。そんな様子を想像するだけで、胸の奥に温もりがふっと生まれてくる。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館リノリウムの敷かれた知事応接室
確かに質量を伴う空気に満ちた知事室の隣には、シンプルな内装の知事応接室。床に敷かれているのは、病院などでよく使われていたリノリウム。鉄道好きの僕としては古い車両の床材のイメージですが、亜麻仁油やコルクといった自然素材を煮込み麻地に流しこんで作られるものだそう。ここに来るまで、まったく知らなかった。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館に展示された天然素材リノリウムの破片
そしてこちらが、お隣の旧議事堂で敷かれていた実際のリノリウム。こうして見ると、自然素材でできていることが分かります。僕が子供の頃に踏んだ、あの感じの床。あれは塩ビか、それともリノリウムだったのか。僕の世代ぐらいまでは見覚えのあるであろう床材は、現在は日本ではもう製造していないそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館高等官食堂
今となっては貴重となった、リノリウム張りの部屋。隣へと続く扉を抜ければ、そこに広がる木の温もり溢れる大きな空間。ここは高等官が知事を囲んで昼食をとるための食堂で、声の通りを良くするために他の部屋よりも腰板壁が高い位置まで廻らされているそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館会計課に残る往時からの床
県庁として使われていただけあり部屋数は多く、それぞれ表情豊かで展示内容も様々。想像以上の見ごたえに、ちょっとばかり足を早め2階へと戻ります。かつて会計課として使われていたこの部屋、来客スペースの床は往時から残るものだそう。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館白漆喰の壁とアーチが美しい内廊下
中庭をぐるりと囲むように、大小様々な用途の異なる部屋が設けられる旧庁舎。それらを繋ぐ内廊下は漆喰の白に埋め尽くされ、自然光と電灯の溶け合う光りに染まる姿は荘厳さすら感じさせる。

11月下旬晩秋の山形旧山形県庁舎山形県郷土館文翔館現役稼働する塔時計としては日本で2番目に古い文翔館の時計塔
表側は南陽産の花崗岩で覆われ、一見すると石造りに見えるこの建物。ですが実際はレンガ造りになっており、中庭側からはまったく異なる表情のうつくしさに触れることが。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂へと繋がる渡り廊下
ここで一旦旧県庁舎に別れを告げ、渡り廊下で繋がる旧県会議事堂へ。この先向かう建物も同時期に建てられており、やはり建築当時の姿に復原されているそう。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂階段に施されたハート形の意匠と復元されたリノリウム
渡り廊下を進み、当時としては珍しい水洗トイレの遺構を見つつ上階へ。その階段には、先ほど展示されていたリノリウムを基に復原された床材が。そして目を引くのが、散りばめられたハート形の意匠。これも建築当時からのものなのだろうか。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂上品さ漂う来賓室
この建物にも、議長室や議員控室、来賓室といったいくつかの部屋が。旧県庁舎に比べ、すっきりとまとめられた端整なインテリアが印象的。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂来賓室の前に設けられた議場ホールを見下ろす窓
白い壁に臙脂の絨毯やカーテンの映える来賓室を出ると、廊下にはアーチ型の窓が。なんだろう。そう思い覗いてみると・・・。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂2階来賓室前廊下の窓から見下ろす優美な議場ホール
この瞬間、僕のこころはいとも簡単に射抜かれてしまった。あまりに荘厳で、そしてこのうえないほどの気品と優美さに満ち溢れ。このとき受けた感動をうまく表す言葉を、まだ僕は見つけられずにいる。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂ヴォールト天井の曲線美に彩られた優美な議場ホール
このホールは県議会開催時には議場として使われ、それ以外は演奏会や講演会に使用されていたそう。議員だけではなく市民にも開放するという考え方だけでもモダンだというのに、この空間に満ちる美意識の濃厚さといったら。

11月下旬晩秋の山形県庁舎山形県郷土館文翔館中庭から望むレンガ造りの重厚な表情
優美な曲線に抱かれた荘厳な空間に圧倒され、くらくらするほどの余韻に胸を熱くしつつ旧県庁舎の中庭へ。重厚な面持ちの赤レンガ、その上に聳える時計塔。これは現役で稼働を続ける塔時計としては、札幌時計台に続き日本で2番目に古いものだそう。

11月下旬晩秋の山形文翔館旧県会議事堂の重厚な佇まい
大正時代から大切に遺され続けてきた、山形の地に宿る往時の美意識。その濃密な質量に圧倒され、胸いっぱいに感動をしまい込む。

羽州街道沿いの街並み、そのたどり着く先の文翔館に溢れんばかりに込められた大正浪漫。ちょっとこれは、駆け足すぎたな。自分にとって都合のよい再訪の理由をこころに刻み、後ろ髪を引かれつつ次なる目的地へと歩みを進めるのでした。

晩秋蔵王、染められて。~白き夢見し酔いもする~
11月下旬晩秋の蔵王温泉名湯舎創白濁の湯が掛け流される陶器風呂に浸かる至福の贅沢
2024.11 山形
旅行記へ
●1日目(東京⇒蔵王)
 /
2日目(蔵王滞在)
●3日目(蔵王⇒山形⇒米沢⇒東京)
 ///

コメント

タイトルとURLをコピーしました