佐藤旅館で迎える最後の朝。昨日に引き続き、今朝も空を染めるパステルの青。今日のうららかさの予感を受け取り、静かな湯屋で温湯のぬくもりとじっくり対峙します。
何泊いても、あっという間だ。善き旅善き宿と出逢えた時に、必ず想うこと。朝から優しいいで湯にしみじみと茹でられ、お腹も空いたところで朝食の時間に。佃煮やお漬物、後から運ばれてきた焼鮭とともに、ほかほかのご飯をしっかりと味わいます。
おいしい朝食に満たされ、ちょっとばかりお腹が落ち着いたところで最後の一浴へ。滞在中、何度も戯れ存分に味わった温湯の穏やかさ。その温かみを肌にこころにもう一度刻み込み、名残惜しくも迎えたチェックアウト。この宿を復活させてくれたご主人にお礼を伝え、道の駅である自然薯の館まで送っていただきます。
国道沿いのバス停で待つことしばし、道の駅の駐車場から出庫してきた『栗原市民バス』に乗車。本当に、のんびり豊かな3泊だった。温湯の清らかな湯と佐藤旅館のぬくもりの余韻に浸り、ただただ見つめる青い花山湖。
なぜか5分ほど遅れて自然薯の館前を出発したバス。そのまま遅れを引きずり、駅に到着したときは乗車予定の新幹線まで30秒。スマホで改札機をピッと通り抜け、タッチでGO!新幹線のありがたみを痛感しつつ何とかはやぶさ号に乗車。
少々忙しなくなってしまった、4日間を過ごした栗原の地との別れ。空席を見つけ車窓を振り返れば、頭を雲に隠した栗駒山。その優美な姿に、再訪の願いを託します。
途中古川に停車し、あっという間の23分で仙台に到着。新幹線の圧倒的な俊足さを改めて実感したところで、そそくさとお目当ての行列に並ぶことに。
そのお目当てのお店というのが、『たんや善治郎』。さすがは日曜日、10時半前だというのに折り返すほどの行列に。うわぁ、この時間でこれかよ。そう思いつつ、もうすぐ訪れるであろう至福の瞬間を夢見て根気よく並びます。
列に並ぶこと45分、そして席に着き待つこと15分。ついに、待ちわびていた上選極厚真中たん定食と再会。僕は行列が嫌いで、特に食で並ぶことはほとんどしない。それでも、我慢してまででも食べたいと思わせる罪な奴。
逸る気持ちを抑えつつ、まずはたっぷりのねぎを浮かべたテールスープから。レンゲですくい含んだ刹那、舌の上をするりと潤してゆく牛の旨味。穏やかで、優しくて、それでいて、うし。ほどよい塩気が牛の甘味や旨味を引き立て、胃へと落ちる前に身体へと吸収されてゆく。
そして待望の牛たんを。あの大きな牛タンから、わずか1~2枚しか取れないというタン元の芯の部分。これだけ分厚く切られているにも関わらず、さくっとぷりっとの歯切れよさ。
他の部分よりも霜が降っているため、噛んだ瞬間ほとばしる芳醇な肉汁とガツンとくる旨さ。表面を彩る炭火の香ばしさ、ほどよく火の入れられた肉厚な身に宿る濃醇な旨味。
もうこれは、祭りだよ祭り。口の中を駆けめぐる牛タンの味を心底噛みしめ、すかさず麦飯で追いかける。途中おつけものでさっぱりさせ、時には南蛮味噌の辛味に歓び。そんな愉悦に浸っているとあっという間にたんは消えてなくなり、名残惜しくも麦とろで完全勝利。
はぁ、これを書いているだけでもう食べたい。いや、食べ終わった瞬間、違う、食べ終える前からまた食べたいと思ってしまう禁断の旨さ。
もう僕は、善治郎でなければ満足できない体になってしまった。初めてこの旨さを知ったときは、まだそれほど混雑していなかったのにな。そんなちょっとばかりの悔しさを感じつつ、記憶にがっちりと喰いこむ旨さに今回もすっかりやられてしまうのでした。
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