船旅への衝動 ~果てなき航跡追い求め 2日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

船旅への衝動 ~果てなき航跡追い求め 2日目 ②~

8月下旬太平洋フェリーいしかり16時頃の入港を控え行く手に見えてくる仙台港 旅グルメ

姉妹の織りなす一瞬の再会の余韻に浸りつつ、ふたたび寝台でぼんやりごろごろ。すると予定より40分ほど早く、16時頃に仙台港に入港するとの船内放送が。さっそく下船の準備をしてデッキへと向かいます。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港入港前デッキから望む遠くにかすむ牡鹿半島
するとそこには、思った以上に接近していた仙台港。接岸する右舷側へと回れば、はるか遠くにかすむ牡鹿半島。迫りくる陸地を目で追いつつ、短い宮城での時間に期待を膨らませます。

8月下旬太平洋フェリーいしかりデッキから松島湾方向を望む
仙台港では、事前に船内で手続きを行えば徒歩に限り一時上陸が可能。下船は入港後から20分、乗船は徒歩乗船開始時刻から出港の30分前までと制限はありますが、2泊3日を過ごす長い航海の中では大きな魅力のひとつ。

8月下旬太平洋フェリーいしかりデッキから望むE8系つばさ号陸揚げの様子
この曇天に似合う工場や倉庫、そんな鉛色の景色のなか糸を垂らす釣り人。港湾らしい情景に浸っていると、岸壁にはなにやら見慣れたものが。あ、あれ新型のつばさじゃん。獲れたてぴちぴちの新鮮なE8系が水揚げされていました。

8月下旬太平洋フェリーいしかりはまもなく寄港地である仙台港に到着
なかなか見ることのできない新幹線車両の陸揚げに年甲斐もなくはしゃいでいると、あれよあれよという間に船は岸壁に接近。ビルほどの巨体をよく操るものだ。毎度のことながら感心しきりに様子を見ていると、スパーンという音とともにロープが発射。

8月下旬太平洋フェリーいしかりはゆっくりとしかし確実に仙台港着岸に向け岸壁に接近する
地上作業員がロープをたぐり寄せている間も、ゆっくりとしかし確実に縮めてゆく陸との距離。この瞬間は、何度味わってもぞくぞくする。

8月下旬太平洋フェリーいしかりはまもなく仙台港に接岸
船上と地上、携わるすべての人々の職人技に支えられ、いしかりは音も衝撃もなく静かに着岸。毎度のことながら船という乗り物を動かすことの壮大さに胸を熱くしていると、徒歩下船開始の放送が。

8月下旬太平洋フェリーいしかりは名古屋港から21時間をかけて無事仙台港に到着
久しぶりの陸の感触を踏みしめつつ歩く、長いボーディングブリッジ。名古屋港を発ってから21時間、この動く建造物は本当に東北の地までたどり着いてしまった。振り返り眺める優美な船体からは、気高さや誇らしさのようなものすら滲んで見える。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港に寄港し一時上陸仙台港フェリーターミナルで船客を出迎えるいしかりの巨大模型
陸路では定期的に訪れている仙台も、こうして海から上陸するのは6年ぶりのこと。ムダに一旦西へと向かい、路線バスと同じ速度でひと晩かけて。当たり前といえばそれまでだが、これまで経てきた時と道のりの厚みが、より一層感慨を深くする。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港一時上陸の時間を活用しイオン多賀城で買い出しし近くの焼肉・冷麺ヤマトで冷麺を食べる
この日は早めに到着したため、16:15頃には上陸。再乗船は18:10頃~19:10と、仙台港で実質使える時間は2~3時間足らず。まずは歩いて20分ほどのイオン多賀城やツルハドラッグで、今晩から明朝にかけての物資を補給。買い物を無事終えたら、その隣の『焼肉・冷麵ヤマト多賀城店』へとお邪魔します。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港一時上陸の楽しみ焼肉・冷麵ヤマトで生ビールと冷麺を味わう
まずはキンキンに冷えた生ビールをのどへと流し、身体にほんのり残る海の感覚にこころをゆだねる。そんな至福をしみじみと噛みしめていると、お待ちかねの冷麺が到着。

なぜ仙台まで来て冷麺なのかって?それはヤマトが本場岩手では駅から徒歩圏にないから。車窓を去りゆくお店をいつもバスから眺めていましたが、念願叶い初めて訪れることができたのが6年前のこのお店。

食べ物に関しては意志薄弱な僕。前回は自身の決心を簡単に裏切り、誘惑に負けて温麺を注文。ということで今回が、はじめてのヤマトの冷麺とのご対面。はやる気持ちを抑えつつ、まずは琥珀色のスープからいただきます。

その見た目どおり、旨口濃いめのしっかりスープ。それは塩分がという話しではなく、牛の旨味とほどよい塩梅の甘味がそう感じさせるのだろう。

つづいて透明感ある麺をすすれば、くちびるを撫でてゆくつるつるとした感触。噛めばぷりっともちっとした食感で、食べやすくも存在感ある麺が旨味の強いスープと好相性。

盛岡冷麺ならではの、うれしい選べる辛さはもちろん別辛で。まずは素を味わい、期待を込めてカクテキと漬け汁を適量投入。すると一気に華やぐ香りと辛味。発酵食品のもつ旨味が牛だしに加わり、その相乗効果は計り知れず。

旨いよ、旨い。つるぷりもちの麺を頬張り、ときおりはさむバリボリ食感のカクテキ。これがまた大根の爽やかな風味をもたらし、箸とレンゲが止まらなくなる。中盤でキムチ汁の残りすべてを投入し、しっかりとした辛さを味わいつつスープまで一滴残らず完食します。

ちなみにこの日は、毎月開催しているという冷麺まつりの期間中。ビールが110円、冷麺が330円引き。焼肉のひとつも頼まずごめんなさい。次はちゃんと食事します。このあとの魂胆により計ったわけではないが、そんな若干の申し訳なさとそれを上回る満足感を胸にお店を後にします。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港一時上陸の時間を大満喫し自慢の船へと戻る
短くも濃密な東北での時間に満たされ、仙台港へと向け歩く帰り道。だんだんと暮れゆく曇り空、次第に存在感を増しゆく港湾の灯り。その無機質な世界にたたずむいしかりの姿に、なんとなく帰ってきたという安堵感のようなものがこみ上げる。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港での一時上陸を終え大浴場で汗を流し甲板で味わう湯上がりの冷たい缶チューハイ
仙台から北の大地を目指す人々に紛れ、「ただいま。」とこころのなかで呟き再乗船。昨日の僕が発したような初々しい歓びの声を傍に感じつつ、自分は何事もなかったかのように船内へ。一昼夜という距離を越え、この船と共にやってきた。優越感とはまた違う、そんな得も言われぬ感覚が心地いい。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港停泊中デッキから眺める観覧車の輝き
今宵もパブリックスペースに善き席を見つけ、大浴場でひとっ風呂。それにしても、今日の仙台は過ごしやすい気温。全身を撫でゆく港の風が、湯上がりの火照りを連れ去ってくれる。

8月下旬太平洋フェリー仙台港に停泊中のいしかりはランプウェイを上げ間もなく出航
缶チューハイの冷たさを味わいつつ甲板上でのひとときに揺蕩っていると、船尾では甲板員が作業を開始。もうそろそろか。その様子にそのときが近いことを察していると、足元のランプウェイがゆっくりと上昇を開始。

8月下旬太平洋フェリーいしかりは係船索が外されまもなく苫小牧港に向け出港
乗り物って、種類を問わず本当によく考えられている。巨大な板がぴったりと船の側面に収納され、がっちりとロックされる様子に見とれてしまう。そしてついにボラードから係船索が外され、いしかりは東北の地とは切り離された存在に。

8月下旬太平洋フェリーいしかり苫小牧港へと向け定刻通りに仙台港を出航
足元の鉄板を通じて伝わる振動、夜空へと吐き出される煙。それらが強くなったかと思えば、船は苫小牧目指してゆっくりと離岸。なぜだろう。感傷に浸る理由などないはずなのに、船出の瞬間は胸に来る。

8月下旬太平洋フェリーいしかり船尾をタグボートに曳かれ仙台港内を回頭する
船尾へと目をやれば、漆黒の海に煌々と光を放つタグボート。名古屋港では自力で回頭したいしかりも、仙台港ではこの小さな巨人の助けを借りて方向転換。

8月下旬太平洋フェリーいしかりその巨体を悠々と曳いてゆく小さな巨人タグボート
先ほどまで船首ごしに見えていた仙台港の観覧車も、見る見るうちに船尾側へ。この小型の船に、一体どれほどの馬力があるのだろうか。7年ぶりに目の当たりにする力強さに、改めて感嘆の声を漏らしてしまう。

8月下旬太平洋フェリーいしかり小さな巨人タグボートは仙台港での回頭の補助を終えロープが切り離される
自分の数百倍もの巨大な建造物を、たった一艘で回頭させてしまったタグボート。その役目も終わり、パシンっと響く音をたてて切り離されるロープ。その刹那、甲板でその仕事ぶりを見守っていた船客から歓声が。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港で回頭を補助した小さな巨人タグボートは涼しい顔をしてしばらく並走し帰ってゆく
ひと仕事終え、涼しい顔をして並走する小さな巨人。思わず手を振るデッキの人々、暗い操舵室から返ってくる揺れる灯り。様々な人の手で動かされる船という乗り物には、数えきれぬほどの一期一会が込められている。

8月下旬太平洋フェリーいしかり仙台港を出航しひとり晩酌を始める至福の時間
17時過ぎに冷麺を食べ、それから約3時間。出港風景に胸を焦がしたところで、お腹もスタンバイOKとのこと。今夜もふたたび、船上での宴に酔いしれます。

かれいの唐揚げやアスパラのおひたし、たたききゅうりとともに味わう宮城の酒。ほどよくワンカップも進んだところで、満を持して仙台名物笹かまを。久しぶりに味わう、鐘崎の大漁旗。ぷっくり分厚く、ぷりっとした食感に込められた魚の旨味。この笹かま、本当に旨いんだよなぁ。

8月下旬太平洋フェリーいしかり静かなパブリックスペースでひとり宴を噛みしめる夜
そして〆にと味わうのは、すこしでも宮城感をと買った味噌おにぎり。地元仙台のジョウセンという味噌を使っているそうで、これがまたコク深く旨いのなんの。味噌おにぎり信者としては堪らぬ味に、〆まるどころかワンカップが足りないとすら思えてしまう。

8月下旬太平洋フェリーいしかり宮城牡鹿半島沖で味わう高畠醸造ルージュ赤ワイン
宮城の味と地酒に酔ったあとは、奥羽山脈を越え山形の恵みで夢の続きを。漆黒の船窓を愛でつつちびりと含む、高畠醸造の赤ワイン。酸味や渋味の穏やかな、するりとした飲みやすさが船上での夜を彩ってくれる。

8月下旬太平洋フェリーいしかりデッキへと上ればファンネルごしに広がる満天の星空
東北の味にすっかり満たされ、ワインも飲み干したことだしそろそろ寝るか。その前にとデッキに上れば、ぼんやりと照らされたファンネルの先にはきらきら瞬く星空が。

8月下旬太平洋フェリーいしかりデッキから望む金華山灯台の赤白閃光
いまはどのあたりを航行しているのだろうか。そう思い目を凝らしてみれば、赤白交互に繰り返す閃光が。届く電波で調べてみれば、牡鹿半島の突端に浮かぶ金華山灯台のものだそう。

その様子をぼんやり眺めていると、じんわりと感じる遠心力。ゆったりと重たさのある船特有の方向転換に身をゆだねていると、その閃光を中心にしてぐるりと左へ90°。

ここからふたたび、苫小牧目指してひたすら北上。あと半日後には、北の大地に着いてしまうのか。

そう、着いてしまう。その表現が、僕の素直な気持ち。それほどまでに、いしかりは僕のこころを掴んでしまった。残された優美な時間を余さず噛みしめるべく、一瞬一瞬を胸へと刻み込んでゆくのでした。

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