6時過ぎ、船上で迎える穏やかな朝。やっぱり船は、よく眠れる気がする。昨日は23時前にすとんと寝てしまったので、すっきりとした心持ちで目覚めます。
4階に設けられたフォワードサロン。エンジンから遠いため音や振動もなく、静寂の中眺めるこの船の行く手。きっと船長も、同じような景色を見ている。そう思うと、年甲斐もなく高揚してしまう。
船首を照らす朝日を眺めていると、まもなく姉妹船のゆうかりとすれ違うとの放送が。船首から長い長い廊下を進み、船尾まで。こうして歩くと、船の大きさを改めて実感。
それにしても、昨日から今日にかけて驚くほど全く揺れない。朝日に照らされ黄金に輝く凪いだ海が、今回の航海の穏やかさを物語る。
うっすらと秋田の地が見える左舷から右舷側へと移動すれば、もうすぐそこにゆうかりの姿が。
お互い時速40㎞/hで接近する姉妹船。あれよあれよという間に船影は大きくなり、ゆうかりのデッキに立っている人の影も見えるほどの距離感に。
北の大地を目指すゆうかりが汽笛一声高らかに、それを受けて大音量で答えるらいらっく。お互いの航海の安全を祈り、姉妹間で交わされるエール。理屈抜きで、航海の持つ情緒というものが胸へと沁みる。
汽笛と煙の余韻を残し、それぞれの針路を行く姉妹船。船旅でしか味わえぬ旅情に身を焦がし、小さくなりゆくその姿をただいつまでも見送るのみ。
あっという間の出来事だったな。未だ耳に残る汽笛の温もりを噛みしめつつ、爽やかな風の吹くデッキで朝食を。短かった北海道滞在を偲ぶべく、セイコーマートのおにぎりを味わいます。
それにしても、セコマのおにぎりはお米が旨い。具もおいしいし、山わさびはちゃんと辛い。近所にないのが悔やまれるが、だからこそ北海道に行った時の特別感を噛みしめる。
おいしい朝食の余韻に浸りぼんやりしていると、先ほどまで遠くにかすんで見えた風力発電と防波堤の姿が。どうやら、もう秋田港内へと入ったらしい。
明らかに速力を落とし、ゆっくりと港内を行くらいらっく。岸壁には圧巻の量の杉が積まれ、さすがは秋田だと感心してしまう。秋田、杉が過ぎるぞ。
らいらっくはその大きな体を器用に回し、船尾からゆっくりと岸壁へ。だんだんと近くなりゆく港の風景、それに伴い動きはじめる甲板員。ひとつの船を動かすために、多くの人々が携わっていることが伝わります。
ゆっくりと、着実に近付く秋田の地。秋田航路就航25周年を祝うポスター越しに垣間見える、出迎えやこれから乗船する人々の姿。大海原を自由に切り拓く建造物には、人を魅了する力があるのだろう。苫小牧で僕がそうしたように、皆一様に船へと熱い視線を送っている。
吐き出されてゆく旅客と車をデッキから見送り自室へ。ちょうど清掃の方々が乗り込むところで、手際よく各所をきれいにしてくれる。接岸から離岸まで、あっという間の1時間。貨客の積み下ろしから清掃までをこの短時間で終わらせ、定刻で出港する迅速さに感嘆してしまう。
さらば秋田、半月後に再会しよう!多くのかもめに見送られつつ秋田の地に別れを告げ、再び自室に戻りのんびりごろごろ。眠るわけでもなく、ただ転がっているだけ。そんな甘美な怠惰こそ、船上で与えられた自由そのもの。
寝台でだらだら過ごしていると、回していたコインランドリーが出来上がり。旅の荷物を半分に減らしてくれる、フェリーならではのありがたい設備。こうして洗濯物を畳んでいると、ずっとこうして暮らしていたいと良からぬ妄想が。
ふと思い立ち、すでに営業を開始している大浴場へ。洋上での湯浴みという至福の非日常にこころまで火照り、甲板へと出て味わう冷たいビール。青く染まる航跡、それを飽くることなく見つめながら噛みしめる爽やかな苦み。この瞬間を味わいたいがために、こうして僕は船に乗る。
寝床でうつらうつらビールの余韻に揺蕩っていると、レストランがランチ営業を開始したとの放送が。朝昼夜とそれぞれ1時間程度の営業のため、時機を逃さぬよう早速タヒチへと向かいます。
予約制のグリルやレストラン、カフェと食の愉しみを提供してくれる新日本海フェリー。レストランも朝昼晩とメニューが変わり、さらに就航地のグルメも提供されているためメニュー選びに悩んでしまう。
新潟のふのりそばも魅力的だし、知床塩ラーメンも旨そうだし。いや、でもやっぱりコレ!と意を決して頼んだのは、三元豚ロースカツカレー。なんだか船のカレーって、無性においしそうに見えるのです。
しっかりと厚みのあるカツをスプーンで割り、ルーとご飯とともにひと口。あ、これにして正解だわ。とんかつはさっくりと揚げられ、カレーは甘さやコクの中にきちんとスパイシーさを感じる味わい。ご飯もふっくら甘く、船上でこれがこのお値段でいいの?と嬉しくなってしまう。
バイキング形式が多いフェリーのレストランですが、好きなものを選ばせてくれる新日本海フェリーに心底惚れてしまう。交通機関としての実直さを感じさせる船内もさることながら、旅の愉しみに欠かせない食が充実しているからこそ、何度も乗りたくなってしまう。
甲板越しの海原を眺めながら、おいしいカレーを味わうひととき。あぁ、幸せだな。そう素直に思わせてくれるらいらっくとの豊かな逢瀬に、僕の恋心は一層深まるのでした。
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