時刻は4時過ぎ、船上で迎える最後の朝。この時間に起きてさっさと行動できるって、ある意味職業病だよな。そう苦笑いしつつ着替えと洗面を済ませ、荷物の整理。2泊3日を過ごしたこの寝床とも、もう間もなくお別れか。そう思うと、なんだか急に寂しくなる。
ちょっとばかり早いけど、リュックを背負い行きますか。最終目的地への入港という荘厳な儀式に立ち会うべく、船尾のデッキへ。ロビーのモニターでは、もう敦賀は目の前。一体どんな景色が待っているのだろう。人生初の敦賀上陸を目前に、弥が上にも気持ちは昂るばかり。
うわぁ、なんだか夢を見ているような世界だな。それが僕が甲板へと出た瞬間の素直な感想。あまりにも厳かで、あまりにもうつくしい。三方を山に囲まれた敦賀湾。海はどこまでも穏やかで、陸は静けさに包まれまだ眠りの世界。
船の行く手を眺めれば、もうすぐそこに敦賀の街が。僕はこれから、あそこへ行くのか。こうしてまたひとつ、未知なる地が知っている場所へと切り替わる。旅好きには堪らぬ予感を胸に、近くなりゆく街の灯を眺めます。
波ひとつない、静かな湾内をゆったりと航行するらいらっく。終始穏やかだったこの航海を象徴するような幻想的な光景に心酔していると、直行便に充当されるすいせんがお出迎え。
直行便なら苫小牧を4時間遅く発ち、翌日の20：30には敦賀に着ける。時間重視なら直行便が便利かもしれないが、秋田新潟と海路を紡いで辿り着くこの感慨は寄港便だからこそ。
本当に、善き船旅だった。2泊3日、34時間。果てしないと思われた航海も、もう間もなく終わってしまう。らいらっくとの残された時間に一抹の寂しさを噛みしめていると、船は防波堤を越えついに敦賀港内へ。
旅の終わりを染める、夜明けの色。鏡のような海、すぐそこに迫る山々。そこにたなびく雲までも、すべてが蒼く幻想的。長い船旅の壮大なフィナーレに身を委ねていると、遠くには日本三大松原である気比の松原が。
らいらっくは大きく左へと回り込み、もうそろそろ着岸体制へ。ファンネルからゆるりと流れる黒煙は、長い航海を無事に終えほっと安堵の息を吐いているかのよう。
これが、これから僕が降りたつ敦賀の港か。長い時間を過ごし、より深く恋をしてしまった船との別れ。それと相反する、未知なる地への弾むような期待感。だから船旅はやめられない。航海でしか味わえぬ旅情というものが宿っているから。
岸壁との距離をブリッジへと伝える、甲板員の無線の声。その数字が減るごとに、航海の終わりを実感させられる。
ありがとう、らいらっく。こうして再び逢えたのだから、また次も、そのまた次もきっとある。今回も最高の船旅を味わわせてくれたこの船に最大限の感謝を伝え、接岸の瞬間を見守ります。
距離にして1,074㎞、かかった時間は34時間。遥かなる航海を終え、らいらっくは音もなく敦賀港に無事接岸。あぁ、本当に終わってしまった。旅の折り返し地点だというのに、この喪失感。でもそれは、大洗から苫小牧を経て敦賀まで繋いできた航海が最高のものであったという揺るぎない証。
さあこれから、旅の第二幕だ。初めてとなる敦賀の街への期待に気持ちを切り替え、らいらっくに別れを告げる覚悟を決めるのでした。
2024.7 茨城/北海道/福井
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