あの航跡に逢いたくて ~海路を紡いで越前へ 5日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

あの航跡に逢いたくて ~海路を紡いで越前へ 5日目 ②~

7月中旬の福井丸岡城バス停から京福バス蘆原丸岡永平寺線に乗車し永平寺を目指す 旅グルメ

荘厳な佇まいの丸岡城に別れを告げ、次なる目的地を目指すことに。丸岡城バス停から再び『京福バス』に乗車し、永平寺へと向かいます。

7月中旬の福井京福バスから眺める北陸唯一の現存十二天守丸岡城天守
お城に沿うように回り込み、かつての城下を走るバス。車窓にちらりと覗く、歴史を重ねた天守の渋い姿。その雄姿をもう一度だけ、眼にこころに灼きつけます。

7月中旬の福井京福バス蘆原丸岡永平寺線車窓に広がる緑豊かな田んぼの風景
信号待ち、車窓を染める田んぼの緑。この時期に訪れたからこそ出逢える、実りへの成長。昨日からその力強さを存分に浴び、僕にとって福井とはこの色になったな。

そんなことをぼんやり思っていると、風に吹かれ波打つ稲。あ、風の姿が見える。小学生にその姿を見て以来、いくつになってもこころを動かされる好きな瞬間。

7月中旬の福井車窓は山深さを増し永平寺へ向けて登る
米どころらしい田園に別れを告げ、いよいよ山手へと舵を切るバス。だんだんと勾配は増してゆき、行く手には幾重にも折り重なる深い山が。

停
車窓の移ろいを愛でつつ揺られること約40分、バスは終点の永平寺に到着。先へとのびる道にはお店が並び、門前町としての賑わいを感じさせます。

7月中旬の福井永平寺井の上
時刻はちょうどお昼どき。おそばを食べることは決めていましたが、いざ降り立つとどのお店にするか迷ってしまう。そんななか手打ち十割の文字に惹かれ、『井の上』にお邪魔してみることに。

7月中旬の福井永平寺バス停脇井の上越前そば三昧
バス停のすぐ横という立地の良さもあり、ひとつだけ空いていたテーブルに運よく着席。この旅最後の昼ビールに頬を緩ませていると、お待ちかねの越前そば三昧が運ばれてきます。

おすすめの食べ方の通り、まずはなにもつけずに一本つるっと。うわっ、すっごいそば感だわ。挽きぐるみの十割そばは、食感も風味も力強い。続いて少しの塩を掛けて食べれば、ふわっと引き立つ甘味。

てんぷらにとろろ、おろしと、三段の器ごとにそれぞれの味を楽しめる割子スタイル。つゆは驚くほど薄口で、それでいてそばを邪魔しない塩梅で香るだしの存在感と程よい塩気。

40年以上東京で生きてきた僕にとって、これは今までに出逢ったことのない感覚。そばは断然濃口黒いつゆなのですが、あまりに方向性の違う美味的感覚に、もう感動すら覚えるほど。薄口だけれど、それがちょうど良い。そばが主役だ!と主張する食べごたえに、終始頷きながらあっという間に手繰ってしまう。

一緒に合わせられた炊き込みご飯も上品な味で、やはり福井は関西の文化圏なのだと思わせる。新幹線で東京と繋がったけれど、この感じは失われずにずっと在り続けてほしい。

そしてもうひとつ驚いたのが、永平寺といえばのごま豆腐。もう、ものすごくごま!とってもごま!これぞごま!という豊潤さ。野菜の練り込まれた禅みそを掛ければコクと旨味が増し、今まで自分が食べてきたごま豆腐は何だったのかと思うほど。

7月中旬の福井永平寺へと続く参道
初となる本場の越前そばにまんまとやられ、大満足でお店を後にします。今回は欲張って3つの味を愉しんだから、次回は王道のおろしそばもいってみたいな。早くもそんな再訪の企みを胸に隠しつつ、いよいよ永平寺へと向かうことに。

7月中旬の福井永平寺あまりにも瑞々しい参道脇の緑
緩やかな登りの続く参道を汗をかきつつ歩いてゆくと、角を曲がったところで空気が一変。あまりの瑞々しさに、文字通り思わず息を呑んでしまう。

7月中旬の福井永平寺緑に染まる参道
780年前に創建されたという永平寺。曹洞宗の大本山として、今なお多くの僧侶がここで修業を行っています。

7月中旬の福井永平寺空を覆う青紅葉、石積みを覆う苔の緑
一歩足を踏み入れれば、視界を埋め尽くす眩い緑。空を覆い隠さんと葉を茂らす青紅葉、石積みを包む苔の柔らかさ。この空間が、あまりにもうつくしすぎて。得も言われぬ穏やかな鮮烈に、何をどうことばにできようものか。

7月中旬の福井永平寺天へと伸びる荘厳な木々と鮮烈な緑
川を渡り吹きぬける清涼な空気、天を目指しのびる杉の巨木。この場を包む凛とした空気感に、仏教に疎い僕ですら禅というものの概念を感じずにはいられない。

7月中旬の福井永平寺苔むした石段の先に佇む唐門
普段無宗教だと思って暮らしていても、この場に立つと背筋が自ずと伸びてしまう。お寺でそういう感覚になったことは、これまでを振り返ってもあまりない気がする。なんだろう、お寺全体を包む自然の濃さがそうさせるのだろうか。

7月中旬の福井永平寺苔むした石積みの上に佇む通用門から中へ
早くもこの空気感、世界観に圧倒されつつ、苔むす石積みの上に佇む通用門へ。ここで拝観料を支払い、中へと進みます。

7月中旬の福井永平寺昭和5年当時の天井絵が飾られている傘松閣
まずはビデオでこれから巡る永平寺について予習し、順路の最初にある傘松閣へ。その広さは156畳、折り上げ格天井が圧巻の大広間。そこには昭和5年に描かれた天井絵がはめ込まれており、そのひとつひとつを辿っていけば日が暮れてしまいそう。

7月中旬の福井永平寺七堂伽藍の右腕に当たる僧堂
古くから客人を迎えてきたであろう傘松閣の絢爛さに圧倒されつつ、いよいよお寺の中心へ。お釈迦様が坐禅を組んだ形になぞらえて配置される、七堂伽藍。その右腕にあたるとされる、修行を行うための道場である僧堂。雲水と呼ばれる修行僧が坐禅や食事、ときには睡眠もここでとっているそう。

7月中旬の福井永平寺お釈迦様の坐禅になぞらえた七堂伽藍心臓にあたる仏殿
壁一枚を隔て、現在進行形で修業が行われているという事実。すでに何人もの修行僧の方とすれ違い、その佇まいに煩悩にどっぷりとまみれた僕は後ろめたさすら芽生えてくる。

7月中旬の福井永平寺七堂伽藍の心臓部分にあたる仏殿内部
いや、これでも若い頃に比べてだいぶ手離してきたつもりだけれど。そんな自分的逡巡を頭の中で浮かべつつ、心臓にあたる仏殿へ。ここには御本尊をはじめ多くの仏様が祀られています。

7月中旬の福井永平寺伽藍同士をつなぐ渡り廊下と階段
建物同士をつなぐ、渡り廊下や長い階段。これだけ多くの参拝者、観光客が訪れていても、ごみひとつ落ちていない。掃除をする雲水の方も多く見掛け、すべての行為が修行に繋がるという禅の思想が参拝者にまで伝わるよう。

7月中旬の福井永平寺伽藍を繋ぐ階段から眺める美しい緑
いや、これといってやましいことも何もない。でも自分、色々と雑だな。若い頃より欲張りは減った。でもそれと同時に、何かを諦め目を瞑ることも増えてきた。それって生きてゆくうえで必要なことなのか、それとも・・・。

7月中旬の福井永平寺お釈迦様が坐禅を組んだ形になぞらえた七堂伽藍頭にあたる法堂
なんだろうか、普段考えない、いや、考えるのを無意識に避けているようなことが浮かんでくる。きっとそれは、伽藍に染みついた修行の歴史、境内を包む自然の大きさ、そして行き交う修行僧の雰囲気すべてに気圧されているからなのだろう。

7月中旬の福井永平寺七堂伽藍の頭にあたる法堂内部
このタイミングで、こうしてここにお参りできたのもなにかのご縁。久方ぶりに自分を顧みる感覚に抱かれつつ、頭にあたる法堂へ。ここでは朝のお勤めや説法が行われるのだそう。

7月中旬の福井永平寺左腕にあたるお寺の台所大庫院
法堂から折り返し、お釈迦様の左半身にあたる部分へ。左腕の位置にある大庫院は、いわばお寺の台所。ここで大勢いる僧侶たちの三度の食事が用意されます。

7月中旬の福井永平寺大庫院に飾られたすりこぎ棒
その大庫院の前には、巨大なすりこぎ棒が飾られています。これは、明治時代の建設工事で地ならしをするために使われた木材から彫り出されたもの。

もともとは、他者のために身を削り尽くすことの大切さを修行僧に思い出させるために作られたものだそう。現在は参拝者がさすると料理の腕が上達すると言われ、撫でられた部分は白く擦り減っています。

7月中旬の福井永平寺大庫院に残る日本で2番目に古いと言われる昭和5年生まれの現役のエレベーター
料理好きとしてすりこぎ棒を興味深く見ていると、建物の奥にふと気になるものを発見。そこにあるのは、見るからに古そうなエレベーター。シースルーの扉、レトロな階数表示。明らかに年代物だったので帰宅後調べてみると、昭和5年から現役の日本で2番目に古いものだそう。

7月中旬の福井永平寺お釈迦様の坐禅の姿になぞらえた七堂伽藍腰骨にあたる山門
腰骨にあたる山門まで戻り、ぐるりひと回り。膝にあたる東司(お手洗い)と浴司(浴室)も合わせた7つの建物で、坐禅を組んだお釈迦様の姿が現されています。

7月中旬の福井永平寺参拝を終え眺めるうつくしい苔の緑
初めて訪れた永平寺。ここまで来たら寄ってみたい有名どころだし、僕の好きな古い木造建築もたくさんありそうだし。正直に言えば、いつも通りのそんな動機で訪れました。でもここは、なんだかすごかった。

これまでの人生で、あまり触れる機会もなく理解もできていない仏教という概念。でもそんな理屈など、どうでもよくなる。生まれて初めてここで感じた、現在進行形で行われている修業というもの。すれ違うお坊さんから滲む気配に、何かを感じ取らずにはいられない。

福井の豊かな自然に抱かれ、780年という長きに渡り重ねられてきた修行の歴史。お経とか、教えとか、おじさんになった僕はそんなことも分からない。でもひとつだけ感じたことがあるとするならば、「人としてこう在るべき」という強い念がこのお寺には流れているということ。

今日明日には無理だけど、ちょっとずつ自分もきちんとしなければ。凛とした空気をまとう僧侶の方々の姿に、今一度襟を正す時期なのかもしれないと、ふとそんなことを想うのでした。

あの航跡に逢いたくて~海路を紡いで越前へ~
7月中旬新日本海フェリーらいらっく秋田沖で姉妹船ゆうかりと再会し再びそれぞれの行き先を目指す航海へ
2024.7 茨城/北海道/福井
旅行記へ
1日目(東京⇒大洗⇒商船三井さんふらわあ)
●2日目(商船三井さんふらわあ⇒苫小牧⇒新日本海フェリー)
 //
●3日目(新日本海フェリー)
 /
●4日目(新日本海フェリー⇒敦賀⇒福井⇒東尋坊⇒芦原温泉)
 /////
●5日目(芦原温泉⇒丸岡⇒永平寺⇒福井⇒東京)
 ///

コメント

タイトルとURLをコピーしました