2月、僕はやっぱり東京駅にいた。今年の冬は寒くなるのが遅かった。普通に暮らす分にはそれはそれでありがたい部分もあるのですが、やっぱり何かが足りない。その何かとは、僕の望む冬らしさ。
ということで今回は、銀嶺の懐へと自ら飛び込みに行くことに。もう毎年恒例となった、寒さと雪見風呂を愉しむための旅へと出発します。
いつものE5系はやぶさ号に乗り込み、早速北上できることへの祝杯を。朝の冷たいビールで旅気分も盛り上がったところで、朝ごはんを食べることに。今回選んだのは、駅弁屋祭に売っていた佐藤水産のいくら石狩鮨。新千歳空港の空弁として有名なお弁当です。
久々に手にした北海道の空弁。ワクワクしつつ蓋を開けると、見ただけで僕好みだとわかる美味しそうな押し寿司がびっしりと詰まっています。
まずは定番のさけから。北海道産の秋鮭を使っているそうで、無駄な脂はなくじんわりと凝縮された鮭の旨味がたまらない。酢の〆加減も丁度よく、程よく締まった身のほろりほっくり感を味わえます。
続いてはかにを。塩茹でされたずわい蟹を丁寧にほぐしたものがたっぷりと載せられ、しっとりとした食感と繊細な旨味を楽しめます。お弁当の蟹は下手をするとポソポソ、パサパサしたものが多いのですが、そんなことは全くありません。
そして一番驚いたのが、いくら。佐藤水産ご自慢の甘口いくらは、お弁当のものとは思えないみずみずしさとプチっとした食感、そして濃厚な魚卵のエキス。普段は筋子派の僕ですが、この奇をてらわない真面目な旨さにひとり何度も頷いてしまいます。
これだけのしっかりとした内容で、たしか1,150円。最近値段が高騰し続ける駅弁の中で、このお値段はとても優等生なのではないでしょうか。なんだか無性に満足してしまいました。
これから5泊、山籠もり。これが最後になるであろう海の恵みのオンパレードに舌鼓を打っていると、新幹線は荒川を越えて無事に東京脱出。何度味わってもこの瞬間は堪らない。これから向かう東北への想いとともに、はやぶさも少しずつ速度を増してゆきます。
宇都宮を越え、気付けば世界最速に。320km/hで流れる車窓を染めるのは、冬枯れの田んぼとうっすらと雪化粧をまとう那須の山並み。それにしてもやっぱり、雪がない。厳冬の2月とは思えぬ光景に、軽い焦りのようなものを感じてしまいそう。
はやぶさはその後も世界最速で雪のある町ない町を繰り返し越え、いつしか雪原に屋敷林という印象的な車窓が。この眺めが見えたら、目的地はもうすぐ。岩手県に突入したことを知らせてくれるような光景に、逸る気持ちを抑えきれません。
東京からあっという間の2時間ちょっと、半年ぶりの盛岡駅に到着。それにしても本当に今年は雪が少ない。前回訪れた冬の盛岡との違いに、驚きを隠せません。
それでも天から舞うはらりとした雪に季節を感じ、盛岡の街へと歩きだします。薄く雪の積もった北上川を越える開運橋。盛岡に来たらご挨拶しないわけにはいきません。
冬の青空に輝く北上川。この天候なので見えるだろうと期待していた岩手山は、今日は全く姿が見えません。夏の黒々とした勇壮さもさることながら、銀嶺の優美さを見たかった。滞在中、見せてくれるかな。そんな淡い期待を北上川に流します。
薄く雪の積もる歩道を滑らないように歩きつつ、岩手公園へ。盛岡城の石垣にもうっすらと雪が積もり、黒い石の力強さとの対比が印象的。
前回は、夏のねぷた旅で訪れた盛岡の街。半年を経て再びこうして訪れることのできるお礼を伝えるため、櫻山神社へと向かいます。
久々の冬の盛岡。夏とは違った趣に、一層好きになってしまう。いつかはここに住めるよう、僕の想いを神様に託します。
盛岡の護り石である烏帽子岩も雪を纏い、強調された陰影によりその独特な姿を一層特徴的なものにしています。
櫻山神社にご挨拶を終え、この旅初の東北グルメを味わうことに。今回お邪魔したのは、神社の参道に店を構える『白龍』。盛岡名物じゃじゃ麺の元祖ともいわれる人気のお店。
瓶ビールを飲みつつ待つことしばし、久々の御対面となるパイロンのじゃじゃ麺が到着。卓上のラー油やにんにくを好みの量加え、すぐさま全体を執拗なまでにかき混ぜます。
そして待望のひと口目。うぅぅぅん、やっぱり旨いなぁ。うどんはもっちりとした食感で、茹でたままのちょっとしたべっとりとした小麦感が魅力的。そこに絡みつく肉味噌がまた絶妙で、これに似た味のものと言われても例えられないような独特の味わい。
濃い肉味噌に程よいさっぱり感を与える細切りのきゅうり。時折紅しょうがをかじれば、口中に広がる爽快な辛味。これらの味の変化を楽しみつつ、麺を一気に平らげてしまいます。
そして残った肉味噌に卓上の生卵を割り入れ、お箸を添えて店員さんへ。すると熱々のお湯を注いでくれ、ちーたんたんという即席の卵スープが完成。好みもあるでしょうが、僕はこれ込みでのじゃじゃ麺だと思っています。
濃厚な味わいと食感のじゃじゃ麺を愉しみ、仕上げに穏やかな卵スープでさらりと〆る。賛否が分かれるじゃじゃ麺ですが、食べれば食べるほど癖になってしまうような隠れた中毒性があるのです。
久々に噛みしめるじゃじゃ麺の旨さ。これが東京にもあってくれたら。一瞬そんなことが頭をよぎりましたが、それは違う。盛岡という街の空気感に抱かれつつ食べるからこその旨さに違いない。じゃじゃ麺と同じく逢瀬を重ねるほどに好きになるこの街に居られる幸せを、心の底から味わうのでした。
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