6月中旬、待ちに待ったこの日がやって来た。今年も無事に、こうして迎えることのできたこの瞬間。時期を見極め休みを手配し、そして予約を入れ待つこと3ヶ月。本当に、本当に長く長く待ち焦がれた日々だった。
9時半までの勤務を終え、一旦帰宅し急いで着替え。短パンに島ぞうりといつもの格好に変身したら、リュックひとつ背負って空港へ。曇天に潰されそうな羽田の空の先、この眼が見据えるのは再び逢えるあのあおさ。
お昼を食べて展望デッキへ。じめじめとした陰鬱な空気のなか、梅雨の東京に別れを告げる。そんな欠かすことのできない南国への旅立ちの儀式を終え、良き時間になったところで搭乗口へ。そこで待つのは、愛する島の名。この瞬間のために、去年から一年間頑張ってきたんだ。
去年と同じく、ランプバスでの搭乗。妙に幅の広い低重心のバスに揺られ、飛行機や働く車の行き交う通路を縫ってゆく。そんな非日常にこころを昂らせていると、僕らを地上の楽園へと連れて行ってくれるうちなーの翼が。
タラップを登り機内へと足を踏み入れれば、出迎えてくれる沖縄の調べと南国感ある制服。逸る気持ちを抑えつつ、ベルトを締めて待つその瞬間。機内アナウンスではみーふぁいゆーの言葉が耳へと届き、否応なしに僕のこころを八重山へとさらってゆく。
やっぱり八重山への旅立ちは、日本トランスオーシャン航空が別格だ。沖縄生まれ沖縄育ちのJTA。うちなーの翼に込められた南国感に、搭乗早々こころはすでに夏色に。滑走を始めたB737は、小型機ならではの器用な身のこなしであっという間に離陸。眼下に灰色の東京を置き去りにし、あの鮮烈な日々の待つ大空へ。
梅雨時らしい分厚い雲に覆われた関東や東海から紀伊半島沖へと抜けると、窓の外には空の青さが覗くように。その爽やかな陽射しに輝くのは、なんともかわいらしいイリオモテヤマネコ。ウィングレットに描かれた愛嬌ある姿に、思わず笑みがこぼれてしまう。
かわいい旅のお供に目を細めていると、ほどなくして機内サービスが。お願いしたのは、もちろんビーフコンソメ。ここ数年、利用する機会の増えた飛行機。大空で味わうスープの味が、特別だと知ってしまった四十代。
先月乗った青い翼はするりと優しい雰囲気なのに対し、赤い翼はしっかりとした肉の凝縮感ある味わい。どちらのスープも旨いよなぁ。そんな空の旅の感慨に耽っていると、あっという間にもう沖縄上空へ。
羽田から2時間ちょっとで久米島を眼下に望み、そこからさらに30分。今か今かと待ちわびていた瞬間が、いまこの眼に飛び込む。姿を現した平久保崎に、ただただ噛みしめる愛する島との再会の歓び。
石垣島に沿うように、着実に高度を落としてゆく737。薄く散らばる雲を突き抜け、詳細が見えはじめる地上の楽園。9年前は未知として映ったこの光景も、いまでは幾重にも重なる想い出の地層。
羽田から3時間、2千㎞の旅を終えついにうちなーの翼は南ぬ島石垣空港に無事着陸。急制動の反動で、すでに僕のこころはこの地上の楽園へと放り出されてしまったようだ。
ベルトサインが消えるのを待ち、リュックひとつを引っ提げていざ機外へ。その刹那、胸を焦がすあの感覚。今年も無事に、こうして来ることができた。いや正しくは、帰ってくることができた、だな。
おーりとーりの温かいことばに迎えられ、居ても立っても居られず外へ。その瞬間、一気に解凍され力を帯びゆく自分の中の南国属性。35歳にして初めて知ったあの感覚が、あっという間に自我というものを吞み込んでゆく。
はいさい、シーサー君!今年もやっと逢えたね!去年のあのあおい日々から、もう一年かぁ。首を長く長くして待ちわびていたけれど、こうしてこの地に降り立つと一瞬にしてそんなことどうでもよくなってしまうよ。
今年も熱い夏休みをよろしくね!欠かせないシーサー君へのご挨拶を終え、島の足『東運輸』の4系統空港線に乗車。運転士さんから期限なしの往復乗車券を買い、市街地へと向かいます。
空港から走ること30分、終点のふたつ手前の博物館前バス停で下車。ここから歩いて引き返すことすぐ、今回初めてお邪魔する『The BREAKFAST HOTEL PORTO石垣島』に到着。
こちらのホテルはホテル棟とコンド棟に分かれており、今回僕らは洗濯機やミニキッチンのあるコンド棟のツインを予約。ホテル棟のフロントでチェックインすると、ご厚意によりリニューアルしたての和洋室に変更していただいたとのこと。この畳のある空間が、後々僕らを禁断の世界へと誘うのです。
これから過ごすは、八重山旅最長の9泊。洗濯機や畳の嬉しさに加え、さらにありがたいのが1階のドリンクラウンジ。17時から20時までの間、コンド棟宿泊者は八重山や本島の泡盛のほかオリオンサザンスターを飲むことが。
二千キロの旅を冷たいオリオンで癒し、夕食をとるためにいざ街へ。この日は土曜日、さすがは石垣島。いとも簡単に夕食難民となった僕らはお店を探すのを早々に諦め、手近なところで食べたいものを買って帰ることに。
そして持ち帰ったのが、この品々。A&Wだからこそのポテトやチキンのジャンキーな味、それにばっちり合ってしまう与那国島の泡盛。この与那国43度がまた旨く、薫る芳醇なピーナッツ感が堪らない。
そして島滞在の便利な味方、ファミリーマートへ。730交差点のお店は去年とは微妙にラインナップが違って見え、マーミヤかまぼこや島とうがらし入りのもずくキムチといった泡盛のアテも無事入手。最初は初日からコンビニ~!?と思っていたが、こうして泡盛片手にちびちび呑めばあっという間にこころも火照る。
ちょっとこれ、初日からやらかしてるよね。今までにない9泊という心的ゆとりもさることながら、石垣島へと「帰ってきた」感がすごすぎる。これまでにない八重山での日々の幕開けに、早くも禁断の領域に手を出してしまったという予感を抱くのでした。
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