起雲閣に込められた大正から昭和への美意識に触れ、次なる目的地へと向かうことに。この辺りを歩くのは初めてのこと。渋い佇まいのアーケードやビルが、ここが一大観光地である以前に人々の暮らしの場であることを物語る。
そのままレトロな商店街を進んでゆくと、山から海へ急勾配を下る初川を渡る橋へ。そこから下流に少し進むと、提灯のさがる古い建物が。築71年というこの熱海芸妓見番では、現役の芸妓さんの踊りを見ることができるそう。
ここからひたすら登って登って、はぁはぁ言いつつ来宮へ。丁字路から熱海方面へと少し進むと、見るからに時代を感じさせる石造りのアーチが。
この来の宮ガードは、国鉄熱海線の築堤を通すために造られたもの。来宮暗渠とも呼ばれ、もともとはバスが顔を出している部分が道路、その左隣は糸川が流れていたそう。
大正時代着工という、石とコンクリートに歴史が滲む闇。現在も足元を糸川が流れる暗渠を進んでゆくと、その出口の先、光の中に姿を現す來宮神社の赤鳥居。
1300年ほどの歴史をもつという來宮神社。一時期は参拝者が減少するもパワースポットや映えスポットとして有名になり、この日も平日でありながら多くの人で賑わっています。
雨上がりの生き生きとした緑が眩しい参道を抜け、深い森に抱かれた本殿へ。来宮も幾度か訪れたことがありましたが、お参りするのは初めて。こうして改めて熱海の地を知ることのできたお礼を伝えます。
本殿の左奥へと進んでゆくと、そこには樹齢2100年という大楠の御神木が。紀元前からこの地を見守り続けてきた歴史が、太い幹から、そして見上げるほどの高さからも伝わるよう。
ここ來宮神社は、かつては木宮神社と表記されていたそう。創建時にはすでに樹齢800年を迎えていたこの巨木こそが、神の宿る存在だと古の人々は感じ取ったのだろう。
濃い緑に覆われた神社で木々の瑞々しさを存分に浴び、そろそろ熱海駅方面へと戻ることに。近くの来宮駅から伊東線でひと駅ですが、それほどの距離でもないため遠くに海を眺めながら歩いてゆくことに。
だんだんと標高を下げつつ進んでゆくと、海辺から駅を結ぶ大通りに合流。その手前には、カーブに沿うようにして建つ古いビル。
一体、築後何年経っているのだろう。この得も言われぬ渋い佇まい、そこに書かれた近代店舗企画の文字。歩けば歩くほど、趣深い建物が顔を見せる。これはまた熱海を訪れたときのテーマだな。
坂の街熱海をぐるりひと回りし、すっかり汗だく。お腹も空いたところで、そろそろお昼を食べることに。駅からは仲見世商店街のアーケードを抜けた先にある、『囲炉茶屋』にお邪魔してみることに。
すでに数組が並んでいたため入口で待っていると、メニューによっては同じものを隣の姉妹店でも食べられるとのこと。『囲炉茶屋離れ家翠々』に移動し注文して待つことしばし、お目当ての鯵のまご茶膳が運ばれてきます。
伊豆半島をはじめ、神奈川や房総の漁師町で食べられてきたまご茶漬け。その名は知ってはいたものの、こうして食べるのは初めてのこと。まずはお茶碗によそい、そのままで。漬けにされた鯵は脂の甘味が濃く、刻まれているためご飯との一体感は抜群。
続いては薬味を適量のせ、熱いだしを掛けてするすると。新鮮な鯵にほどよく火が入り、一気に花開く魚の旨味。だしには鯵の脂が広がり、うわぁ、うめぇと匙が進む。
そして鯵好きには堪らない干物を。しっかりと干されたことが伝わる凝縮感があり、きゅっとした身からは噛めば噛むほど溢れる滋味。そのままご飯の白い部分と合わせてもよし、まご茶に載せれば半生と干物、ふたつの味の競演にすっかりやられてしまう。
どうしよう、どの食べ方もおいしくて選べない。お茶碗半分を漬けと干物で味わい、続いてだしと薬味で味の昇華を愉しみ。そんなことを繰り返し、お茶碗3杯分を旨い旨いとあっという間に平らげてしまいます。
初めてこうしてきちんと熱海を旅したけれど、近いから、宴会のイメージが強いからと、しっかり見ようとしなかったんだな。そしてやっぱり、相模湾は鯵だな。よし、この近さならまた気軽に来よう。そんな再訪の誓いを胸に、豊かな2泊3日を過ごしたこの地に別れを告げることに。
こうも初めてづくしの時間を過ごすと、すっかり愛着が湧いてしまったようだ。やっぱりちゃんと泊まって旅してみなければ、だな。そんなことを改めて気付かされ、旅することの奥深さを感じつつ東海道線へと乗り込みます。
これから向かうはこの旅最後の目的地、小田原。僕にとっては、何度も訪れた想い出深い場所。灯台下暗しのこの旅の締めくくりに相応しい城下町を目指し、日常の匂いを感じる電車に揺られるのでした。
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