釧路で迎える初めての朝。今日は雨まじりの天気予報。空模様はどうかと窓辺に向かえば、今はまだ降りだしてなさそう。せっかくの初釧路、今日一日持ってくれるといいんだけれど。
今回予約したプランは朝食付きでしたが、どうしても行ってみたい場所があったので今朝はパス。開店時間に合わせてホテルを出て、釧路駅近くの『和商市場』へと向かいます。
中へと入ると、ずらりと並ぶお店の数々。海産物から肉、野菜、お土産やお酒まで、ここで何でもそろってしまう。もし駅近でお土産を買うなら、ここがおすすめ。
そんな和商市場で楽しめるのが、ここの名物勝手丼。まずはご飯を買い、お店であれこれ迷いつつお買い物。好きなものを厳選して組み合わせれば、自分だけの海鮮丼のできあがり。
そしてこれが僕の選んだ勝手丼。しっとりとした身質のマスノスケは、濃厚な鮭の旨味が堪らない。鱈はもっちりとした弾力に滋味が宿り、ほっけはじんわりとにじみ出る脂が白いご飯を旨くする。
大型のカレイであるオヒョウはもっちりと甘く、大好物の水だこは瑞々しさを感じるちょうど良い火の通し加減。噛めば凝縮された旨味が広がり、ご飯をがっつきたくなる旨さ。その隣は、初めて食べる花咲がに。ほぐされた身を噛めば、ぶわっと溢れるかにならではの旨味と甘味。花咲がにって、こんなに濃厚なんだ。
これから旬を迎えるさんまは脂のりがよく、これまた大好物の筋子は塩漬けならではの凝縮感に思わず笑みがこぼれてしまう。さすがは市場、どれもおいしいものばかり。そして驚くのが、これ全部道産だということ。本当に、釧路いいな!
朝から北海道の海の幸に満たされ、大満足で釧路の街歩きを始めます。まずは駅前からまっすぐのびる大通りを進み、幣舞橋へ。北海道三大名橋のひとつに数えられ、夕陽の名所としても有名。現在の橋は昭和51年に架けられた5代目で、四隅の立派な親柱は先代のものが残されているそう。
幣舞橋の架かる釧路川、その河口に設けられた釧路港。岸壁には大小の漁船が停泊し、古くから栄えた港町の情緒が漂います。
ゆったりと穏やかに流れる釧路川。その川岸を上流へと歩いてゆけば、係留された漁船の上で休む茶色い海鳥。何の鳥だろうと調べてみると、かもめの幼鳥なのだそう。
川辺に漂う穏やかな雰囲気に揺蕩いつつ、久寿里橋で対岸へ。釧路という地名の由来は諸説あるようですが、どれもアイヌ語からくるもの。このクスリもそのひとつで、温泉や薬という意味。釧路川の源である屈斜路湖の古い名がクスリ湖、そこから流れる川がクスリ川と呼ばれていたことに因むそう。
駅の観光案内所でもらった地図を片手に、気の向くままのんびり散策。住宅街を進んでゆくと、緑豊かな公園が。大正15年に造成された池に端を発するという、鶴ヶ岱公園。静かな水辺の情景が広がります。
公園から坂を登ってゆくと、福司の酒蔵が。そうか、ここがあの旨い酒のふるさとなのか。釧路市唯一の蔵元は、大正時代から現在までここでおいしいお酒を醸し続けています。
そのまま住宅街を進み、春採湖へ。ここはかつて海だったそうで、今でも川を通じて海水が流入する汽水湖。多くの野鳥が集まるようで、観察スポットや散策コースが設けられています。
そしてついに道は、海沿いへ。この光景を目の当たりにした瞬間、思わずため息が漏れてしまった。上手く言い表すことができないけれど、なんだかものすごく道東な感じのする海岸線。
振り返れば、これまた雄大な眺め。小さな船の停泊する千代ノ浦漁港、その奥には天面に柔らかな緑を乗せた雄々しい断崖。
ここにきて、期待していなかった青空が。なんだか釧路に歓迎されているような気がして、嬉しくなる。そして見つけた、標識に残る国鉄の面影。きっとこれは、781系をモチーフにしているに違いない。
陽が出てくると、さすがに暑さを感じるように。意外とアップダウンのある海辺の地区、小高い丘を登り切ればそんな暑さも忘れさせる光景が。
港を見据えて下る坂道、その爽快感を浴びつつ歩き米町へ。高台に位置する米町公園に設けられた展望台に登れば、釧路の海や街を一望のもとに。
展望台からの爽快な眺めを全身に浴び、お隣の厳島神社へ。このお社は釧路国一之宮、江戸時代に創建されたという深い歴史をもっています。
内地の神様とともに、アイヌの神様も祀られているという厳島神社。こうして縁があり、初めてこの街を訪れることのできたお礼を伝えます。
神社の歴史の深さからも分かるように、ここ米町は釧路発祥の地ともいわれる古くからある街。今日は休館で入ることができませんでしたが、釧路最古の木造建築という旧海産物商の古民家も残されています。
海辺の情緒に触れつつぐるりと一周し、再び釧路川の河口部へ。岸壁のそばに建つ、レンガ造りの瀟洒な建物。かつての釧路新聞社屋を復元したという、港文館。そばにはここで勤めていたという石川啄木の銅像も建てられています。
釧路川の岸壁から望む、港町の情景。この短い散策で、たくさんの表情に出逢えた。まだ午前中だというのに、すっかり満喫した釧路の街。そろそろ時刻はお昼どき、海辺を離れお目当てのお店へと向かいます。
釧路国道に向け歩いていると、交差点に並ぶ重厚な赤レンガの倉庫群が。この街が古くから物流の拠点として栄えてきた歴史を今へと伝えます。
海辺から歩くこと10分ちょっと、お目当てのお店に到着。札幌、旭川、函館に続き、北海道第4のラーメンとして近年知られるようなったという釧路ラーメン。その中でも老舗中の老舗、昭和10年創業という『銀水』にお邪魔します。
歩数アプリを見てみると、思っていたよりも結構歩いたみたい。それは喉が渇くはずだ。そう理由付けしつつ瓶ビールをごくりと喉に流していると、お待ちかねの醬油ラーメンが運ばれてきます。
まずはしっかり目の色をしたスープから。うわぁ、これ沁みるやつだ。見た目ほど濃くはなく、しょう油の薫るちょうど良い塩梅。魚介と鶏がらのスープは、あっさりといえばあっさり。だが旨味が濃い、いや、深い、違う、分厚い感じだ。
シンプルな見た目から想像するよりも深い味わいにこころ射抜かれ、続いて麺を。これがまた、びっくり仰天。ひやむぎ未満なのではないか、そう思うほどの細い縮れ麺がしょう油色のスープに隠されています。
この麺の細さが、釧路ラーメンの特徴だそう。啜ってみれば適量のスープを口へと運び、噛めばその細さとは思えぬもちもちとした食感。さらに最後までのびることはなく、この独特な麺に出逢えただけでも釧路に来た甲斐があったというもの。
全体的には、王道の中華そば。ですが厚みを感じさせる旨味の詰まったあっさりスープと激細の麺の共演は、ここでしか味わえない唯一無二のもの。飾らぬ素朴なおいしさに箸が止まらず、あっという間に平らげてしまいました。
いやぁちょっと、釧路は想像以上だわ。勝手丼に幕を開け、ほんの4時間ばかりで大満喫。まだ旅の序盤だというのに、早くも来て大正解だったと思えてくる。
これはきっと、この先も濃い旅路が待ち構えているに違いない。その嬉しい予感に心震わせ、釧路駅へと向かうのでした。
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