ねぷた舞う熱い一夜が明け、迎えた爽やかな朝。昨日は夜行バスで到着したにもかかわらず、祭りの余韻が醒めず少々夜更かしをしてしまいました。ですが目覚めはすっきり、さっぱり。さっさと身支度を整え、朝の駅へと向かいます。
今回も素泊まりのプランで予約したため、朝食はお気に入りのこのお店でとることに。弘前駅の構内にある駅そば、『こぎん』へと入ります。
食券を渡し待つことあっという間、お待ちかねの天玉そばの出来上がり。1年ぶりとなる、津軽のそば。逸る気持ちを抑えつつ、まずはおつゆをひと口。
あぁ、これだこれ。口に入れた瞬間に広がる、心が求めるホッとする味わい。津軽らしい穏やかな旨味の広がるだしは、甘さはなくすっきりとした旨さ。慣れ親しんだ東京のものとは違う、潔さすら感じる凛とした素朴さが漂います。
続いて津軽のそばの特徴ともいえる麺を。茹で置きしたそばは柔らかく、箸で持つだけで切れてしまうというもの。何も知らなければこんなのそばじゃない!と思いそうですが、これこそがこの地でしか食べられない特別な食感。
所謂のびたそばのような不快なグニュグニュ感は無く、柔らかいけれどもプリッとし、そして独特なほどけ方をする様子が忘れ得ぬ美味しさへとつながるのです。
素朴なおつゆと優しい食感の麺を一通り愉しみ、続いて天ぷらを浸します。するとあっという間に崩れ、天かすのように散ってゆきます。おつゆにはコクと香ばしさが広がり、深みを増した味わいは先ほどまでとはまた違った雰囲気に。
そして卵を崩せば、全体を包む間違いのないまろやかさ。卵黄の甘味とコクに、白身のぷるんとした食感。細かく切れた麺と広がる天ぷらとともに、混然一体となったおつゆまで一気に平らげてしまいました。
久しぶりに味わう旨い津軽のそばに舌鼓を打ち、駅前のロータリーから『弘南バス』の枯木平行きに乗車します。ちなみにこの路線も、昨日購入した『津軽フリーパス』が利用可能。本当にお得なきっぷです。
弘前駅からバスに揺られること40分、岩木山神社に到着。立派な鳥居の先には、「山」という漢字を体現したかのような特徴的な山頂の姿が。
ここは、初めて弘前を訪れた際に強烈な雷雨により参拝を諦めた場所。それから毎年通うこと6年、ついに念願叶い訪れることができました。
頭まで見せてくれた昨日の岩木山の姿と共に、ようやく認めてもらえたのかな?なんて勝手に好意的な解釈をしつつ歩く静かな参道。その脇には御神木である五本杉が、不思議な姿で力強く天を目指し枝を伸ばしています。
隆盛を極める豊かな緑に覆われた参道の先には、青空に映える鮮烈な朱色。強烈な夏の色彩に一層力を授けるように、じりじりとした強い陽射しが全てを照らします。
津軽の熱量を五感に感じつつ参道を歩き、朱色に彩られた楼門の前に到着。建築から400年近く経てもなお、鮮やかな色彩を魅せるこの門。その姿からは、津軽の自然と向き合い耐えてきたという重厚な歴史が漂います。
お参りする前にまずは手水舎へ。三頭の生物から勢いよく吐き出される水は、岩木山の湧水なのだそう。手を洗えば、程よい冷たさが身も心も清めてくれるよう。
それにしてもこの生き物は、何なのだろうか。狛犬のようでもあり、龍のようでもあり。どちらにせよ愛嬌溢れるその表情は、夏の暑さも忘れさせるような一服の清涼を心へと連れてきます。
お山の恵みを手に感じ、落ち着いたところでお参りを。楼門をくぐる前にふと見上げれば、緻密に組まれた大屋根が。長年の豪雪にも耐え、津軽の人々の信仰を力強く支え続けています。
抜けるような青空に映える、朱塗りの拝殿。周囲の木々は葉を黒々と茂らせ、荘厳なお社を力を合わせて見守るように聳え立ちます。
角度を変えれば、立派な破風で睨みを利かす虎の彫刻が。その眼光鋭い姿からは、神様を守るという強い意志すら感じられるよう。
岩木山の力強さが宿るかのような荘厳さに気圧されつつ、中門をくぐり拝殿へ。極彩色に彩られた彫刻が施されるその美しさから、この地は奥日光とも称されるのだそう。
太い注連縄と余り見かけない米俵の飾られた拝殿でお参りを。6年前に初めて訪れて以来、毎年こうしてこの地を訪れることができるという幸せ。その余りある感謝を、岩木山の神様に心から伝えます。
1200年以上もの間、津軽の地を見守り続ける岩木山神社。最初の出会いは強烈でしたが、ようやく懐へと迎え入れてくれた。そんな穏やかな温かさを感じつつ、津軽の人々の厚い信仰を集めるこの地の力を受け取るのでした。
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