玉川の妖しい青さと夏の緑に染まる車窓を愛でること1時間20分、田沢湖駅に到着。ここへこうして来るのはもう何度目のことだろうか。乳頭、八幡平、そして玉川。ここは魅惑の世界への入口であり、出口でもあるのです。
藤七、玉川で過ごした4泊5日。久しぶりに下界へと降りてくると、やはり季節は夏であったことを思い出させられるよう。肌に感じる久々の暑さが、じりじりとその感覚を取り戻してゆきます。
赤いボディーが緑に映えるこまち号に乗車。この列車の行き先は東京。でもこのまま大人しく帰る僕ではありません。最後の最後まで旅を楽しむべく、短い車内での時間を缶ビール片手に過ごします。
田沢湖駅を出ると、すぐに山へと挑み始めるこまち号。いつしか流れる川の向きも変わり、日本の背骨を越え自分の住む側に戻ってきたことが分かるよう。そして山を抜けたかと思えば、眼前に広がる夏の田園と美しい山並み。雄大に羽を広げる南部片富士は、何度見てもその美しさに息を呑んでしまいます。
車窓から溢れ出る盛りの緑に包まれること40分、数日振りに盛岡駅に帰還。この旅も残すところあと数時間。大好きなこの街で、旅の最後を締めくくることに。
時刻は丁度お昼時。麺大国盛岡なので、どの麺をいこうか激しく悩みます。そんな中で今回選んだのは、『岩手のラーメン柳家フェザン2号店』。いとこが美味しいよ!!と教えてくれたお店です。
周囲のあちらこちらから漂う魅惑の香りに耐えつつ待つことしばし、お待ちかねのキムチ納豆ラーメンが到着。もうこの名前からして旨くないはずがない!!僕の心を一撃で鷲掴みにする見た目と香りに、勢い勇んでスープを口へと運びます。
その瞬間、口中に広がり鼻や心へと広がるとめどない幸福。キムチと納豆、これまで慣れ親しんだ黄金の組み合わせですが、どうやらこのスープは様子が違う。とてつもない一体感とともに、非常に濃厚な旨味が詰まっているのです。
僕は最初、納豆は具として入っているのだと思っていました。が、これは味噌だれに納豆がまるで溶け込んでいるかのよう。後で調べてみると、このラーメンは納豆汁をアレンジしてできたものだそう。そう聞いてものすごく納得。納豆をトッピングしただけでは決して出せないとろみと濃厚さに包まれています。
キムチももっと大雑把に載っているのかと思いきや、細かく刻まれているので麺やスープとのバランスはばっちり。時折感じるシャキッとした歯ごたえとともに感じる辛みと酸味が、食欲を一層大暴れさせてくれます。
そんな個性派をうまく束ねたスープに負けないのが、自社の畑で育てた小麦を自家製麺したという麺。多加水麺というだけあり、食感はもちっと、ぷりぷり。発酵食品が押し寄せる中でも負けない小麦の風味がたまりません。
載せられた具もたっぷりのもやしに豚肉、生卵とボリューム満点。濃い目のスープがよく絡み、一口ごとに多彩な食感と味わいを楽しませてくれます。
あぁぁぁ、旨い!!納豆が全てを丸くまとめてくれるような魅惑の旨さに、気付けば大汗を掻きつつも一気に完食。すべての旨味が詰まったスープも、一滴残さず平らげてしまいました。あぁ、これはまずい。盛岡での麺の悩みが、またひとつ増えてしまった・・・。
想像をはるかに超える美味しいラーメンの余韻を噛みしめつつ、盛岡の街へと繰り出します。駅前から延びる大通りには、大河北上川を越える開運橋。もう何度この優美な姿を見ただろうか。僕の心を捕えて離さない二度泣き橋は、夏の青空の下今日も多くの交通を支えています。
未だ現役で頑張る開運橋から望む北上川。滔々と流れる水の先には、今日はその姿を惜しみもなく見せてくれる岩手山。冬の雪化粧した姿も魅力的ですが、夏のこの黒々とした力強さもまた美しい。
アーケードを抜け、いつもの盛岡城跡へ。桜の緑に覆われる石垣は、東北の短い夏を全身に受けていつもにも増して輝きを放ちます。
豊かな森を透して肌を灼く夏の太陽に汗を掻きつつ、石垣の一番上まで登ります。そこからは、賑わう盛岡の街を見守るように佇む南部片富士の姿が。初めて岩手山を目にした時の印象を、今でも忘れない。この山は、きっとこの城下町を守ってくれているのです。
勢いある木々の緑の額縁に彩られる、岩手の美しい山並み。時代は移り変わっても、南部のお殿様もきっと同じ景色を見ていたに違いありません。
古から続く山の雄大さを満喫し、天守跡を後にします。その道中、いくつも目にするこの不思議なギザギザが刻まれた石。噛み合わせて石垣の強度を増すためなのでしょうか。城郭には疎い僕ですが、ここ盛岡城跡では非常に多く見られるのでずっと気になっています。
城跡内に点在する目を引く巨岩。岩手といえば石割桜が有名ですが、こんな強固な岩にも負けず木が育つ姿に、自然の持つ生命力の強さを感じます。その奥には、城下町盛岡のお守り石として大切にされてきた櫻山神社の烏帽子岩が聳えます。
岩手公園の夏の緑を全身に浴び、お城を後にします。その前に、すぐ隣に位置する櫻山神社にお参りを。こうして何度も何度も大好きな盛岡を訪れられることへのお礼を、心の底から伝えます。
実は今、僕が一番住んでみたい街、盛岡。初めて訪れてからもう何年経つだろう。訪れるほどに魅かれてゆく。そんな大好きな盛岡の街歩きは、まだまだ続きます。
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