7月最終日、晴れ空の羽田空港。先月に続き、僕はここから旅に出る。もう毎年恒例となった、ねぷた旅。だけどいつもとは違う形の旅立ちに、新たな出逢いの予感は増すばかり。
これまで幾度も訪れてきた、愛する東北。ですがいつも列車やバスばかりで、飛行機で向かうのは初めてのこと。ではなぜ今年は、空路を選んだのか。その動機は単純、ふと出来心で覗いたANAのHPで驚き価格を見つけてしまったから。
今年のねぷた旅も、2泊3日の短期決戦。飛行機で時間も旅費も節約なんて、こんな一石二鳥はありがたすぎる。旅の序盤から上機嫌な僕を乗せ、広い空港内を器用に走るランプバス。すると横には、トーイングカーに牽かれたB787がゆっくりと並走。人生の中でそう何度も出逢えぬ貴重な光景に、年甲斐もなくテンション爆上がり。
中身小学生のおじさんを乗せたランプバスは、僕らを秋田の地へと運んでくれるA320のもとに到着。この機種に乗るのも、今回が初めて。JALのA350で感動したので、おのずとエアバスに期待が膨らんでしまう。それにしても、ドリームライナーとのサイズの違いがすごいな。
そうとは言いつつ、僕の最近のお気に入りは単通路機。小型機特有のまったりとした空気感に身を委ねていると、機窓を堂々と横切るB747。ジャンボジェットを生で見たのなんて、何年ぶりだろう。僕にとって、未だに飛行機の象徴であるジャンボ。その巨体の放つ優美さと威厳は、昭和、平成、令和とデビューから三時代を経た今でも色褪せない。
初めての東北への飛翔を祝うかのように、いつも以上に華やかな旅立ちの演出を施してくれる羽田空港。なんだよ、飛行機いいじゃんか。すっかり乗り物好きの性を発症させていると、ついに飛行機は滑走を始め身軽に離陸。
小型機ならではの身のこなしで、急上昇急旋回で大空へと翔け上がるA320。遠くに望む多摩川の蛇行、眼下に夢の国を見送り、レインボーブリッジや汐留の高層ビル群を横目に北上。いつもの沖縄行きとは全く違う視座に、食い入るように機窓を眺めてしまう。
雲間に群馬の特徴的な山並みが見える頃、ベルトサインも消え機内サービスが。去年、今年と八重山まではJAL系で飛んだため、ANAに乗るのは2年ぶり。久々に味わう、全日空のビーフコンソメスープ。赤い翼の濃い肉の旨味もさることながら、青い翼のバランスの取れた穏やかな味わいもまた善き。
それにしても、A320もものすごく快適な飛行機。各席に大型モニターが設置され、飛行機の位置や機窓の景色といったデータが搭乗時間をより楽しくしてくれる。そして驚いたのが、その静粛性。エンジンに近い席であるにもかかわらず、B737に比べ素人でも感じるほど静かなのです。
日本航空と全日空、ボーイングとエアバス。先月に引き続きの乗り比べを愉しんでいると、あっという間に降下を始める飛行機。厚い白い雲を抜けたかと思えば、眼下に広がる緑の世界。空から眺める東北は、こんなにも豊かな色をしているなんて。
なおも高度を下げてゆくA320。杉の美林に覆われた黒々とした山々、その合間に広がる稲の緑の柔らかさ。これまで幾度も訪れた夏の秋田も、機上ではこんな姿に見えるのか。
地上から眺めるのとは、まったく異なるうつくしさに染まる夏の東北。もしかしたら、この景色に出逢うために空路を選べと導かれたのかもしれない。そう思えてしまうほど、初めて眺める空からの東北は深すぎる。
こうして何度も何度も足を運ぶ、愛する地。その新たな表情にこころ奪われ、夢見心地の僕を乗せた飛行機は大館能代空港に無事着陸。
陸路でグラデーションのように近づいてゆくのとは違い、雲を抜けたらの急な場面転換。足元に伝わる振動もどこか現実味もなく、あっという間の飛行体験に呆然とするばかり。
悪い子はいねが~、怠け者はいねが~!到着口を出ると、秋田らしく大きななまはげがお出迎え。距離にして520㎞、たった1時間ちょっとの空の旅。飛行機での旅は、こうして現地に到着したという実感集めから始まるのです。
外へと出れば、若干の暑さを感じつつも明らかに東京と異なる空気。カラッとした夏の東北の風を浴び、秋田犬の親子に迎えられる。全身を包むみちのくの空気感が、羽田から空輸された僕を少しずつ自然解凍してゆく。
半月前に船上から吸った秋田の空気を、いま再びこうして胸いっぱいに吸い込める幸せ。これから始まる東北の夏への期待を胸に、『秋北タクシー』の運行するリムジンバスに乗車。ちなみに飛行機到着後15分を目安に発車するため、お手洗い等を済ませたら早めに乗車しておくのが良さそう。
空港を出発したバスは、鷹巣の市街地へと入り20分程で鷹ノ巣駅に到着。この先バスは大館駅方面まで行きますが、ここで乗り換えても同じ列車になるため途中下車。奥羽本線の南側や秋田内陸縦貫鉄道へ抜ける場合も、この駅が便利です。
大館能代空港ってだいぶ不便な位置にあるイメージだったけど、こうして実際使ってみると意外と便利かも。駅も近いし、飛行機の遅延を考えればリムジンバスから列車の接続も悪くない。ちょっとこれは、魅力的なルートを見つけてしまった。
秋田杉を模したかわいい矢印の描かれた跨線橋を渡り、静かなホームで待つことしばし。奥羽本線の普通列車が定刻通り入線。なんだかようやく、ちょっとずつ実感が湧いてきた。いつもの701系と再会し、少しずつ東北での感覚が目を覚ます。
12時半に羽田を発ち、15時過ぎにはこの地を駆けている。飛行機という乗り物自体の速度もさることながら、陸路ではなかなか辿り着きにくい鷹巣にピンポイントで降ろしてくれる。その絶大なる効果を身をもって体感し、やはり交通にはそれぞれの強みがあり使い分けと組み合わせが大切なのだと改めて実感するのでした。
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