雨に濡れるしっとりとした風情を味わいつつ山を登ると、目の前に現れる渋い佇まいの犬山城。日本に12か所現存する天守のうちのひとつ、国宝にも指定されています。
さすがはゴールデンウイーク。雨にもかかわらず、多くの人々で賑わいます。僕もそんな人の列に紛れ、入城の時を待ちわびつつ少しずつお城へと近づきます。
するとだんだんと見えてくる、その雄姿。粗く積まれたごつごつとした石垣、時の流れを感じさせる色合いの羽目板。築城から480年以上重ねてきた時代を物語るかのような古い佇まいに、思わず息を呑みます。
さすがは古い時代のお城だけあり、天守内の階段は狭く急勾配。大勢の人々の流れを止めぬよう、一歩ずつ確実に登ることに専念。そしてたどり着いた、天守閣の最上部。眼下には犬山の人々の営みがぎっしりと詰まった眺めが広がります。
小さな望楼を取り巻く廻縁を進めば、滔々と流れる木曽川の雄大な流れが。雨に煙る水墨画のような眺めに、思わず時代をすり抜けてきてしまったかのような錯覚に襲われます。
腰ほどの高さしかない高欄に守られる回廊。足元を見れば床板の隙間からは下界が透けて見え、小高い山の上に建つという立地から、その高度感は結構なもの。高所恐怖症ではありませんが、背筋がちょっとだけぞくっとしたのは内緒です。
現在も愛知と岐阜の境を成す木曽川。尾張の端に位置する犬山城からは、対岸の美濃をこの通り一望のもとに収めることが。現代に生きる僕らにとっての県境からは想像できないような隔たりが、戦国時代にはあったことでしょう。
日本が統一される前の時代に思いを馳せ、望楼から下りることに。下りは人の流れが分散されるため、比較的落ち着いて城内の造りを見ることができます。
武者走りに取られた窓から望む岐阜県。木曽川が天然のお堀の役目を果たし、対峙する美濃国に睨みをきかせるかのような眺めに、城郭は要塞であるということを今一度強く実感。
訪れるごとに感動してしまう、現存天守の内部構造。強度計算も重機もない時代に造られた木造建築は、古の人々の知恵と経験の結晶により今なおこうして自然の猛威に打ち勝ち建ち続けています。
天守を支える武骨な骨格の中で、唯一畳の敷かれた部屋らしい部屋が。ここは上段の間、城主のための部屋だったそう。一段高くなった床からは、その身分の高さが窺えるかのよう。
特に歴史好きではない僕でも、思わず古に思いを馳せてしまう現存天守。小さな天守に詰まった時代旅行を終え、お城の最下段まで戻ってきます。そこに連なるのは、荒々しい野面積みの石垣。この石一つひとつが、国宝となった天守を今でも支えています。
重厚な時の流れを感じさせてくれた天守閣を後にし、振り返りもう一度その雄姿を目に焼き付けます。心の琴線に触れる何かを持つ、城郭という建築。力強さ、優美さ、そして権力の象徴といったものが、天守を単なる建築物では収まらないものにしているに違いありません。
戦国時代から激動の世を生き続けてきた犬山城に別れを告げ、味わい深い城下町をのんびり散策。道の両側にはお店が数多く並び、雨でなければ食べ歩きも楽しめそう。
雨に濡れる城下町。そのしっとりとした風情の中、犬山駅へと向かいます。
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