荘厳な雰囲気の中での湯浴みを愉しめる片倉館に別れを告げ、この旅最後の諏訪グルメを味わうべく酒場へと向かうことに。その前に、もう一度だけ諏訪湖畔へ。色を失いつつある情景が、寒風とともに冬旅の終わりを迎えようとする心へと沁みてゆく。
灯りの点る湯宿を横目に、ひとり静かに歩く道。今日はもう、ここには泊まれない。帰京を控えたちょっとばかりの切なさに身を委ねつつ、〆の宴の場となる『飲食処ばんや』へと入ります。
突然の写真、すみません。でももうこのブログではおなじみなので、躊躇なくどアップで載せてしまいます。ということでまず頼んだのは、信州へと来たら欠かせないイナゴとハチノコ。どちらも甘露煮にされ、主張しすぎず、でもギュッと詰まった旨味が堪りません。
ハチノコのプチっとした余韻に浸りつつ横笛をちびりとやっていると、続いて注文した2品が到着。諏訪湖名物のわかさぎは唐揚げにされ、全く臭みのないほっくりとした身にはじんわりとした滋味が宿っています。
その隣は、信州名物馬・鹿セット。これまた信州名物の馬刺しは、しっかりとした赤身の旨味が美味。鹿は石で焼いて熱々をひと口。うわっ!なにこれ、すごい旨い!これまで鹿は淡白なイメージを持っていましたが、柔らかい肉にはまろやかな旨味がしっかりと詰まっており思わずびっくり。
これまでに経験したことのない鹿のおいしさに感動し、続いて鹿のつくねも注文。程よく肉感のある食感と、時折感じるコリっとした歯ごたえ。そして何より、旨味が濃い。正直、この旨さを知ってしまうと、もう鶏や豚のつくねには戻れないかも。
旨いつまみにやっぱり進む、旨い酒。本金、真澄と飲み継ぎつつ昼間見た甲州街道の情景に思いを馳せていると、〆にと注文した信州ポークみそ炙り焼きが到着。
添えられた味噌は、青唐味噌と甘味噌の2種類。香ばしく焼かれた豚に付けて食べれば、豚の脂の甘味と味噌のコクが口中へと広がります。
いやぁ、旨かった。やっぱり信州、間違いがない。最後の最後まで信州の恵みに満たされ、満腹のお腹を抱えつつ駅へと向かいます。ほろ酔い気分で眺める、歩道を薄っすら彩る白い雪。春夏秋冬、やっぱり僕は旅先で感じていたい。
もう間もなく幕を閉じようとしている、今回の冬旅。2泊3日、本当に濃厚だった。そんな旅の記憶を辿っているうちに、夜闇に浮かぶ上諏訪駅へと着いてしまいました。
ホームから上諏訪の温泉街をぼんやり眺めていると、程なくして特別急行あずさ号が入線。いつも見慣れたE353系だけれど、帰路という切なさも手伝ってか普段とは違う列車に見えてしまう。
列車はするりと夜のホームを滑り出し、延長線上にある日常へと僕を連れてゆく。新幹線とはまた違う、繋がる鉄路に思いを馳せながらの在来線での帰京。そんな旅情を一層深めてくれる、信濃ワインという旅の供。
あずさ号が踏みしめているのは、わが街へと続く二条のレール。立川で銀色の電車に乗り換えれば、もう僕は日常の人に戻ってしまう。
でも、それがいい。日常と旅先がグラデーションの様に繋がっていることを実感できる、在来線での旅路。だからこそ、日常の中から一歩踏み出せば、また旅に出られるとそう思わせてくれる。
物心ついたころから、僕を虜にしてきた中央本線の特別急行。遥か遠いと感じていた鉄路の先へ、今はこうして自分の意思で旅立てる。ただ憧れることしかできなかったあの頃には、こんなに旅に出られるなんて想像もつかなかった。
生まれ故郷、そして今住む街とも繋がる中央本線。今なお耳に残る、三鷹駅に響く「特別急行」のアナウンス。子供の頃からの憧れであった特別急行は、本当に特別な場所へと連れて行ってくれる列車だった。
線路は続くよ、どこまでも。繋がる軌条の先へと思いを馳せる。日常の中でそんな夢を見させてくれる特別急行という文化が、いつまでも残ってくれることを願って・・・。
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