北東北夏巡り ~漲る灯り、地の滾り。 1・2日目 ②~

JR奥羽本線701系秋田行き普通列車

朝から美味しいラーメンと優美な海峡の女王の姿を堪能し、青森を発つことに。本当はついさっきまで、ここに留まりねぶたを見るか葛藤を繰り返していました。でもそれはまた次の機会に。青森の地に宿題を残し、いつもの701系で南下します。

JR五能線キハ48深浦行き普通列車
青森駅から奥羽本線に揺られること40分、川部駅に到着。急いで反対側のホームへと向かい、弘前からやってきた五能線に乗り換えます。そういえば、この路線の普通列車に乗るのはこれが初めて。キハ48の無骨な顔つきに、国鉄の遺した質実剛健という美学を感じます。

JR五能線キハ48車窓から眺める青い田んぼと津軽富士岩木山
豪快な国鉄型のディーゼルの唸りに身を任せ、のんびりトコトコと進むローカル線。車窓には青々とした田んぼが広がり、その先には大きく裾野を広げる津軽富士。

岩木山をこんなにきれいに見られたのは、もしかしたら初めてかもしれない。初めてきちんと津軽を訪れてから足掛け7年、ついに受け入れてもらえたような不思議な嬉しさを噛み締めます。

津軽五所川原駅夏空の下映える津軽鉄道の車両
津軽の田園風景を愛でつつ揺られること30分、五所川原駅に到着。昔懐かしい雰囲気の跨線橋を渡り、『津軽鉄道』の始発である津軽五所川原駅の小さなホームに降り立ちます。

ストーブ列車でも有名な津軽鉄道。初めてその存在を知って以来、ずっとずっと乗りたいと願い続けてきた路線。念願叶う瞬間を目前に控え、逸る気持ちを抑えることができません。

津軽五所川原駅ホーム上屋に揺れる金魚ねぷた
夏の青空に映えるオレンジの車両へと乗り込み、発車の時を待ちます。地方私鉄らしい長閑なホームの上屋には、乗客を見送り迎える金魚ねぷた。そう、ここ五所川原もあと数日で立佞武多が開幕。津軽の夏は、各地で行われる熱い火祭りで彩られるのです。

夏空と青い田んぼの中をのんびり走る津軽鉄道
高鳴るエンジン音と小気味良い衝動と共に、列車は出発。抜けるような青空と、実りのために夏の力を精一杯蓄えるように伸びる青い稲。絵に描いたような日本の原風景の中を、つてつは単行ならではの「かたん、ことん。」というリズムを連れて走ります。

夏の津軽鉄道車内に響く津軽金山焼の風鈴の音色
眩いほどの夏を網膜に感じていると、ふと耳に届く涼しげな音色。見上げれば、天井からはいくつもの風鈴が吊るされています。この風鈴は、津軽金山焼という地元五所川原の焼き物でできているそう。

土ならではの温かみある音色に夏を感じていると、アテンダントの方の車内放送が。太宰列車のヘッドマークを掲げたこの列車では、地元の津軽弁で太宰治の小説の朗読を聴かせてくれます。

単行のリズムに揺られ、田園を眺めつつ聴く温かい津軽の言葉。このときは小説津軽の一節が読まれていました。そして甦る、数年前にこの地で読んだこの物語。普段本を読まない僕でも、津軽の厳しさと温かさを感じたことを思い出します。

太宰治のふるさと金木駅
温もり溢れるつてつの情緒に浸っていると、あっというまの20分で金木駅に到着。列車はこの先終点の津軽中里まで行きますが、僕はここで途中下車。

ちなみに今回も、青森駅出発前に『津軽フリーパス』を購入。津軽鉄道もここ金木駅まで乗り放題で、明日乗る予定のバスもフリーエリア内。2日間有効で2,060円と、使い勝手のいいお得なきっぷです。

夏空の下歩く金木の町
ここ金木は、言わずと知れた太宰治の故郷。駅でもファンらしき多くの人が下車し、それぞれの目的地を目指して歩きます。そんな中、僕も炎天下に焼かれつつのんびり、ぷらぷら。津軽の日常をほんのりと感じつつ、夏の暑さを楽しみます。

金木町観光物産館マディニー
駅から歩くこと約10分、『金木町観光物産館マディニー』に到着。時刻はちょうどお昼どき、まずはここで腹ごしらえをすることに。

金木町観光物産館マディニー併設レストランはなの太宰丼ミニ
併設されたレストランはなでは、馬肉やしじみ、根曲がり竹など地元の幸を使ったメニューが盛りだくさん。そんな中僕が選んだのは、太宰丼ミニ。本当はがっつり食べたかったのですが、今夜はねぷた、早めの夕食の予定なのでこの1品だけに抑えました。

冷たい昼ビールという魅惑の旨さを味わっていると、お待ちかねの太宰丼が到着。具はいたってシンプル、ひきわり納豆とすじこのみ。このすじこの塩分を、しょう油代わりとして食べていたのだそう。

どちらも大好物の、納豆とすじこ。これが旨くないはずがない。イクラにはないすじこの凝縮された旨味がひきわりに絡み、熱々の白いご飯をこの上ないご馳走にしてくれます。

これ、ミニサイズじゃなくて普通サイズを作ってほしい。いや、ミニを2つ頼めばいいのかな?とにかくこれをお腹いっぱい食べたい。自分でやりそうでやらなかった組み合わせに、昔の人々の知恵と工夫を垣間見た気がします。

金木町観光物産館マディニー併設の津軽三味線会館
飾らない津軽の味に心満たされ、隣にある『津軽三味線会館』へと向かいます。ここ金木は、太宰治の故郷であるとともに、津軽三味線発祥の地とされる町。ここへ来てその音色を聴かずに帰るわけにはいきません。

津軽三味線発祥の地金木でその音色を聴く
受付でこの後訪れる斜陽館とのセット券を買い、いざ中へ。展示やホールで上映される映像を見つつ、開演の時を待ちます。

そしてついに訪れた、その瞬間。鼓膜を越えて心身の芯まで響く、津軽三味線の力強くも悲哀を秘めた音色。約20分間の演奏では、弦楽器としての音色と、打楽器とも思えるような力強いバチさばきの両方を聴かせてくれました。

思い返せば6年前、初めての弘前で触れたねぷたと生の津軽三味線の迫力ある音色。燃えるような津軽の人々の情熱の片鱗を窺い、気付けばこうして毎年通う僕にとってかけがえのない場所に。

自然と涙が粒となって落ちてくる。皮膚を通して沁みてくる振動は、自分の何かに共鳴するようでもあり、知らない部分を呼び起こすようでもあり。

だめだ、やっぱり津軽三味線を聴くと変になってしまう。響く音色に、1年振りの熱が体中に駆け巡るのを強く感じるのでした。